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【投機の流儀 セレクション】今はバブルの欠片もないが、将来は必ずバブルめく時が来る。その時のために、今から心構えを練っておきたい

世界のバブルの歴史に関心を持って調べてみると、一つのことが言える。記録に正確に残っている最も古いものでは、1637年にアムステルダムで大天井を突いたチューリップバブルである。

それから後、ニュートンも大損したという1700年の南海泡沫会社、あるいは大正末年の日本のウサギのバブル。あるいは1929年のアメリカフロリダ州の土地バブル。また、平成元年の日本国内の株式・不動産・土地・ゴルフ会員権・絵画等の史上最高のバブル・・・。
これらを全部合わせて言えることは、そのバブルの真っ最中には、誰も今がバブルだと論じていないことだ。歴史的に見て、これが重要な特色の一つである。

バブル破裂直前の時に細心の注意を払っている人は、バブルを避けることに貢献することは何もできない。メディアにおける言及もそうである。メディアが読者を飽きさせずにバブルの警告を発し続けることはできない。バブルというのは「他の投資家が豊かになっているのに、自分が豊かになっていない状態」を指すのであって、これは主として嫉妬から来る。

今年の3月17日のNHK「日曜討論」で「今の株価は実態を反映していない」と言った野口悠紀雄氏辺りは、株価は現状を示すものではなくて、近い将来示すものだという基本的なことを忘れている。バブルが膨らむ中で正鵠を得た預言者たちは無視され、的確な予言をしていた評論家や経済学者は職を失う。

1929年の大暴落を事前に何度も警告して、論文も書いて、講演もしてきたロジャー・バブソンという(当時はマイナー学者であったが)経済学者がいた。彼は黄金分割を使ったチャートと思われるが、妙な五角形(五角形の一角は黄金分割の大なる方に相当する)を使って、チャートの上で説明したという。

若林栄四氏の相場予測は専らこれによる。若林栄四氏は、かつて東京銀行在任中は為替相場で大稼ぎをして「伝説のディーラー」と言われたものだった、筆者は殆ど毎回、彼のセミナーに参加するが、その席で時々、本稿メルマガの読者様に声を掛けられる。この10年は外れ続けている。

真摯な予言者たちは概ね無視されるか、職を失う。2000年のITバブルの最中に「破滅博士」とあだ名を付けられたトニー・タイ氏(資産運用会社USBアセット・マネジメントの投資責任者)は2000年3月のITバブルの大天井直前で「破滅博士」と揶揄されて、誰からも相手にされなくなった。
ところが、その翌月にITバブル大暴落して。彼が運営していた資産運用部門は世界の最安値で買い付けることができ、世界最高クラスの成績を上げた。長期に渡る相場の強さは発熱状態ではなく、健康な状態に近いことが多い。しかし、その一ヶ月後に株価が暴落して、市場が著しく不健康な状態に陥ることは珍しくない。ところが、人々がそれに気が付くのは遅い。

筆者が1992年春にフランチャイズのオーナー社長を14人引き連れて、2週間ほど欧州各国を回ったことがある。14人のフランチャイズの社長がいて、それぞれが出身は地方都市の中堅企業のオーナー社長だった。92年春と言えば、日経平均が89年年末に大天井を付けて、崩れ去って行く時の第一番底を付ける寸前だ。
その時、日経平均は2万円を割る寸前ぐらいのところだったが「宴は終わった。早く撤収する者が勝ちだ」という考え方を持っていた人は14人のうちの12人しかいなかった。あとの12人は「今の株安と不動産安は、宴の途中の休憩タイムだ」と思っていた。2人だけが「出発する前に、株も土地も売れるところで全部売っておけ」と副社長に指示してきたと言っていたが、後の12人は中間反落の一種だと思い込んでいた。

ところが、その時には不動産はもちろんのこと、株式は13年間下がり続けるバランスシート不況の一番底に向かう途上だった。38915円から下がり続けて、20000円を割る寸前であり、帰国した途端に日経平均は1000円の大台を5回割り込んで、旅行中に20000円だったものが8月に14300円を示現した。これが13年続く右肩下がりの相場の一番底だったのだ。その寸前でも、14人中の12人は中間反落の一種だと思い込んでいたのだから、バブルの最中に今がバブルだと説くのは難しいし、そう説いても仲間を失うだけだ。

その旅行の最中、毎日株価を気にして「俺は後任者に株と土地は売れるところで全部売っておけと指示したが、うまくやってくれているかな?」と心配していたのは2人だけだった。この2人は信用取引をしていないが、平成元年末からの崩れを中間反落と見て、株式を大量に買っていた人々だった。楽観的な12人は株式に無関係な人々だった。ところが、土地はいっぱい持っていた。投資用と事業用である。
そこで他の12人は文字通り、銀行の貸し渋りに会い、13年間のバランスシート不況で苦労し、12人のうちの8人は破綻に至った。他の人も2003年の貸し渋りの大底の寸前で破綻に至った。しかし、これは92年の旅行中に筆者には予知できたことだった。

長期に渡る相場の強さはその時点では発熱状態ではなく、極めて健康な状態に近い。ところが、その2ヶ月後に株価は著しく不健康な状態であったことが証明される。現在がそうだと言っているわけではない。数年後にそういうことがあった時に「数年前に山崎さんがこういうことを言っていた」ということで、本稿を読み直していただきたい。今からこのようなことを言うのは読者に嫌われるし、読者を失うもとになる。

しかし、数年後にバブルが起きて、そのバブルが破綻した時にこういうことを述べても誰も本気にしないし、読んでもくれない。今のうちに述べておかねばならない。これは筆者の使命だと考えている。繰り返し言うが、今そういう時代が来ていると言っているのではない。数年内に来るから、そういう時にこれを読み直して欲しいと言っているのだ。

それぞれに客観的なものとしては、PER・PBR・利回りが世界標準とかけ離れているか否かということが一つ。もう一つは、自分自身の心境が悲観的か楽観的かということが一つ。この二つが尺度になるであろう。特に、後者の方は難しい。

【今週号の目次】
第1部;当面の市況
(1)記録ずくめの「2023年度」は、斯くて終わった。
(2)個人金融資産、総額の2割がリスク資産に─地殻変動の余地は大きい。
(3)「脱デフレ」の波は、全国の地価にも現れ始めた。伸び率はバブル期以来、33年ぶりの高さである。
(4)3月の不動産株は軒並み高
(5)債券市場の機能は、まだまだ回復したとは言えない。この債券市場の機能を回復させることが円安にブレーキをかけて、安定した正道に戻る契機となろう。
(6)34年ぶりの円安水準 151.97(3月27日)
(7)「貯蓄から投資へ」の突破口は開かれた。
(8)「デフレは未だ脱しきれず、よって頑張る」という認識が生きている間が、青春期相場の華なのだ。
(9)社長100人アンケート=「分配」には頑張るが、「成長への好循環」はうまく行っているのかを見極めたい。
(10)「押し目待ちに押し目なし」だが「焦るな、相場は明日もある」「買わざる恐怖に惑わされるなかれ」
(11)賃上げの追い風が吹く銘柄の方が、手掛けやすい。
(12)「地殻変動」は始まっている。
(13)重厚長大で古典的なオールドエコノミー会社は、半導体銘柄中心の中でも生きている。

第2部;中長期の見方
(1)将来は「成長する経済には、少しずつの利上げが伴う」と考えたい─「利上げするということは、景気は良いということだ」これを忘れてはいけない。
(2)植田緩和の本質を見誤りたくない。
(3)用心すべき「日米株価デカップリング論」
(4)今はバブルの欠片もないが、将来は必ずバブルめく時が来る。その時のために、今から心構えを練っておきたい
(5)東電と北電は、折に触れて活況を呈するであろう。
(6)プーチンの失敗と今後の問題
(7)GDP不況でも、日本の株価は上昇する─著名経済学者は屡々見通しを大いに過つ。

【プロフィール】
山崎和邦(やまざき・かずくに)
1937年シンガポール生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。野村證券入社後、1974年に同社支店長。退社後、三井ホーム九州支店長に、1990年、常務取締役・兼・三井ホームエンジニアリング社長。2001年、同社を退社し、産業能率大学講師、2004年武蔵野学院大学教授。現在同大学大学院教授、同大学名誉教授。大学院教授は世を忍ぶ仮の姿。実態は現職の投資家。投資歴57年、前半は野村証券で投資家の資金を運用、後半は自己資金で金融資産を構築、晩年は現役投資家で且つ「研究者」として大学院で実用経済学を講義。
趣味は狩猟(長野県下伊那郡で1シーズンに鹿、猪を3~5頭)、ゴルフ(オフィシャルHDCP12)、居合(古流4段、全日本剣道連盟3段)。一番の趣味は何と言っても金融市場で金融資産を増やすこと。
著書『投機学入門』『投資詐欺』(講談社)など多数。
ツイッター https://twitter.com/toukinoryugi

【著書】
『賢者の投資、愚者の投資』
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『投資で勝ち続ける賢者の習慣』
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『投機学入門 不滅の相場常勝哲学』(電子書籍)
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『会社員から大学教授に転身する方法』(電子書籍)
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その他、著書多数。以下よりご覧ください。
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