『売上を、減らそう。たどりついたのは業績至上主義からの解放』

4月度の選書はこちら。本当は11月に読了していたのですが、感想文を思ったように形にすることができず、今月えいやっと書くことにしました。もっと書けることがあるのでは? という気持ちは正直拭いきれませんが、理想を求めすぎると一生書けないことは目に見えているので「えいやっ」の精神で投稿します。

この本は、「佰食屋」という、1日100食限定のステーキ丼専門店の経営者である中村朱美さんによって書かれた本です。「1日100食限定」というビジネスモデルをなぜ作ったのか、なぜそれが成立するのか、中村さんの思いとそれを実現するための経営手法が記されています。
端的に言えば、100食という上限を決め、売り切ったら閉店とすることで、働いている人の残業をなくしQOL(Quality Of Life)を高めること。これが中村さんの佰食屋を経営する上での理念です。それを実現するための経営手法が、100食で必要な利益が出るように調整し、それ以上の利益を追求しないと決めるというものです。

必要なだけ手に入れ、それ以上には手を出さない。
これ、マタギや山菜採りなど、自然から何かをいただく時の鉄の掟に通じるものがあると感じます。ビジネスモデルが斬新とよく評価されるようですが、思想自体はむしろ原点回帰なのかもしれません。

私自身、就活当時、業界研究の本などを読んでは「事業成長」や「利益拡大」「販路開拓」などといった言葉にどうしても疑問を抱いてしまうタイプでした(今もそうですが)。
中村さんは、たくさんのお金を稼がなくても、必要なだけのお金を稼いで、それ以上は働かず人生を充実させる「穏やかな成功」を提唱しています。
私は、大学時代後半に心身の調子を崩した経験から、給料は多くなくても精神的に負担が少なく休息と睡眠時間の確保できる仕事という条件で就職したので、この考え方にはかなり共感できます。
(もちろん今の仕事は佰食屋のように残業0というわけではありませんが、他の求人情報やネットなどで得る情報からすると、かなり残業の少ない方だと思います)

資本主義においては欲を持つことが正義で、欲をどんどん加速させることで成長してきました。そんな中で、「サステナブル」という言葉や、この佰食屋のような取り組みが高く評価されることには、大きな意味があると私は感じます。
私自身は、利益追求や成長志向への疑問がぬぐえず資本主義社会の構成員から半分降りてしまった身なので(非営利の機関で働いています)大きなことは言えませんが、こうした機運がもっと高まっていくといいなと思います。
と言いつつ、私も結構欲深な方なのですが……。


さて、この本の中で、数字を追わないことで従業員に余裕が生まれることの良さが語られています。相手を思いやることができること、お客様のためになにができるか考えることができることです。
余裕。本当に大事です。余裕がなくなると何もいいことがありません。
この本の中で語られているような、「ただお客様のためだけを思っての行動」が取れることがとてもうらやましいです。
私の職場は万年人手不足で、本当に余裕がありません。受付対応業務があるのですが、こちらのペースを乱す人や特別に何か対応をしなければならない人を、余裕のなさから「厄介な人」「面倒な人」と思ってしまうことにいつも自己嫌悪を覚えます。本当は、相手にとって良いことをとことん考えて、その通りに動きたいのですが。なかなか難しいです。
時節柄、新人も入ってきましたが、彼らに対し苛々してしまったり、邪魔と感じてしまうこともあります。

 世の中がイメージする「仕事ができる人」は、手際がいい反面、ちょっとした軋轢を生む危険もはらんでいます。
 テキパキ仕事ができるからこそ、少しでも自分のペースを乱されると、「ちょっと待って!」と口調が乱暴になる。思うように仕事の進まない同僚がいると、「しっかりしてよ!」とイライラする。イライラは周りにも伝播します。それがお店の雰囲気を損ねてしまう。(p.185)

私は「仕事のできる人」ではまったくありませんが、ここを読んでドキッとしました。できるだけそうならないよう努力してはいるのですが、余裕を失って語調が荒くなってしまうことが度々あることは自覚しているからです。余裕のない環境に文句を言っても仕方ないので、自分で自分をコントロールする訓練を積むしかないです。
とはいえ、本を読んでいて、従業員が気持ちに余裕を持って働ける環境に、「いいなぁ……」と何度も思ってしまいました。


最後に。
自分の人生に必要なものをしっかり見定め、それに即して生き方・働き方を決めることが大事なのだと、この本は訴えています。
バリバリ働いてたくさん稼ぎたい人はそのように、ほどほどに働いて穏やかに暮らしたい人はそのように。
自分の人生にとって何が大事なのかを明確にし、そこに至るために必要なものに対しては妥協せず、他は削ぎ落とす。

「無理せず働き続けることができる『持続可能な働き方』を自分の手でつかむこと」(p.244)が大切だと、中村さんは言います。

どんな時代になっても、どんな状況になっても稼げる仕組みをつくること、その力を持つこと。そして、自分の欲しい人生、それが年収500万円であろうと、1000万円であろうと、「これ以上は売らない」「これ以上は働かない」と決めること。(p.244)

青天井な欲望にブレーキをかけることで、幸せに近づくことができる。
私もそういう生き方をしていきたいな、と思います。


(余談)

本書の最後で、「佰食屋1/2」という「働き方のフランチャイズ」の取り組みについて記されています。
詳しくは本書を読んでいただくとわかりやすいと思いますが、簡単に言うと、「50食(100食の半分)で生きていけるだけの利益を出し暮らしていく」という「働き方」そのものをフランチャイズ化し、広げていくというものです。
私が働いているのは飲食業界ではないですが、私だったらどんな「佰食屋1/2」をするだろう、飲食以外ならどういう風になるだろう、と、読みながらつらつら考えていました。今のところ、まったく思いつきません(笑)


ここまで読んでいただきありがとうございました。


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