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米国の雇用は劇的に回復するのか  ― 見果てぬ夢を追いかけるFRB ― 【9月11日付投資日報巻頭記事完全版】

FRBの目標は物価と雇用の両睨みである事は高名だ。

先進国の中央銀行で唯一、物価以外に雇用最大化を目標としている異例ともいえる中央銀行であるとも言える。勿論、中央銀行はインフレと景気を両睨みするものだが、雇用そのものを目標としているのは珍しい。通常、中央銀行は経済、景気の状況全体を見た上で政策を決定するものだからだ。


問題は、FRBはいくら景気が良くなろうと、株価が上昇しようと、「雇用が過熱」あるいは相当絶対水準が下がらない限り「景気刺激的施策を取り続ける」と市場に信じられている事と、実際そうするに違いない―とFRB自身が考えている事である。つまり、市場が如何にバブルになろうとも、労働市場がタイトになるか、賃金上昇がインフレ目標を大幅に上回る状態が継続しない限り、FRBは緩和的という事になる。では実際のところ、雇用はどうなるのだろうか。


コロナで一時的にレイオフされた従業員の職場復帰は、向こう数カ月間で米労働市場の回復を引き続き後押しすると見込まれている。しかし、問題は雇用がコロナ前にいつ戻るのか、という点にある。その点では悲観的な観測が多い。


米国の人口はざっと3億2千万、労働人口は1億6千万である。新型コロナの感染拡大の初期の数カ月間、2200万人余りが職を離れたが、これは13%もの雇用が失われた計算になる。もっとも、その大半は一時的なレイオフ。4月時点では過去最大の1800万人余りが一時的な失業者と分類されていた。季節調整済みでも10%を超える失業率はFRBとして座視できない高すぎるレベルといえる。


各州で経済活動が再開し、多くの労働者が職場復帰を果たした事が、5月から7月までの労働市場の回復につながった。しかし920万人余りがなお一時的レイオフの状態にある。


ではこの失業者はいつ雇用されるのだろうか。


多くのエコノミストはV字回復シナリオであり、実際の株価と消費を見る限りではV字に近い回復が想定される。ということは、雇用は完全に回復する。もし回復できるなら、FRBは引き締めとまではいかなくても、来年の早い段階で中立的金利に戻すという事は十分考えられる。


だが、多くのエコノミストもストラテジストもそうした状況を考えていない。少なくとも、メインシナリオには設定していない。実は7月に入ってからの雇用に軟調さが観察されるのだ。レイオフの従業員の再雇用の見通しが悪化し始めている。一つには与野党間の失業給付延長のゴタゴタ、そしてコロナのしぶとい感染状況、なによりもサービス業への客足の戻りの鈍さ、加えて合理化努力だ。


ではこれらの要因によって米国のサービス業における雇用はどれほど失われるのだろうか?


様々な見方があるが、いまだに回顧状態にある920万人のうち、200~300万人が2021年に入ってからも失業したままとなり得ると予測されている。


レイオフから恒久的な解雇に移行した割合は、過去の水準と比べて低水準にとどまっているが、7月には前月の2倍近くに増加。ゴールドマンは財政支援や「給与保証プログラム(PPP)」による支援が底を突く事で更に増えると予想している。1~2%程度は半永久的に雇用が消えてしまったかもしれないのだ。そうみると、完全雇用といわれた昨年7月の失業率は3・7%であったが、これが5%を超えてくる。新しい雇用が創出されれば別だが、コロナ禍の中での合理化がそう簡単に終わるとは思えない事を鑑みると、米国の少なくとも200人、多くて300万人の雇用は永遠に失われたままなのかもしれない。


となると、FRBは回復出来ない雇用者増を目指して緩和を続ける運命となる。いつまでたっても、雇用は満足できる水準に戻らない。政治的にも圧力が掛かるだろう。結局FRBは決して倒す事の出来ない風車に向かったドン・キホーテのように達成不可能な数字に向かって駆け続ける事になる。


その結果は…、恐らく、戦後最大のバブルとなって結実してしまうのではないだろうか。

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