新宿三丁目の地下道

白く無機質な新宿の地下通路をひた歩く。又吉直樹の人間を読み終わり、その直後、無性に太宰が読みたくなった。

3年ほど前に又吉直樹の東京百景という本を読んだ。書かれている場所にも足を伸ばしたし、そこで本を読んだりもした。日が落ちて、ふと横を見やると又吉が上を見上げながら隣に座っているような感覚があった。

又吉の東京百景のはじめにでは、元になったであろう太宰の東京八景について綴られている。図書館で借りた東京八景は、名作走れメロスと共に収録されている。いくらでも読む機会はあったのものの、3年という月日が経ち、やっと繋がった。太宰にようやく手を伸ばそうと決めた31歳の秋である。

太宰は32歳で東京八景を書いた。それに倣うように又吉も32歳で東京百景を書いた。僕は来年32歳である。6月の末生まれなので、もうあと半年。何を残すことができるか考え、安易だが、僕も見てきた東京を言葉で残すことに決めた。その1回目がこの投稿である。

よしもと本社に繋がるこの道はここ最近できた道で、僕も後輩に教えてもらったばかりだ。人の数ほど信号がありそうな新宿の街を快適に歩こうと思ったら、景色が無くなった。

こんな生活どこでもいいし、誰でもないと思った。好きなことだけに集中したい。そう思っていたら、「書きたいものだけを、書いて行きたい。」と手の中にいる太宰が言っていた。この思いは間違ってないと安堵する自分がいる。時代が変われど思いは同じで、この街はいつでも何かを求めて空っぽのままだ。数多くの言葉はこの街の中でも生まれてきたが確信に迫る言葉はまだない。みな迷いの果てに問いかける言葉ばかりだ。

太宰は38歳で人間失格を書いた。又吉も38歳で人間を書いた。僕は38歳で何を書く。

目を細め、遠く景色を眺める。
どこまでも長く続く地下通路が続くだけだった。

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