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戦争と命のかがやき。

「語弊があるかもしれないんだけどさ、」

令和5年八月某日、夜も深まったファミレス、クーラー直下の席。まさしく、資本主義的で頽落的な文明に四方八方を包囲されたこの場所で飛び出たのは衝撃の一言であった。

「いま日本に生きる私たちよりも戦前戦時中の日本人のほうが美しかったんじゃないかなって。」

もちろん、この言葉には文脈がある。というのも、それは現代美術というものが方向性を失い路頭に迷っていることへの議論の中で出た言葉であったからだ。

太平洋戦争へと突入していくあの混乱と破滅の時代の日本には、思想とポリシーがあった。もちろん、国体擁護的なプロパガンダ芸術もあったけれども、その一方で新感覚派のような文芸運動が依然として在り続けたということは純芸術的なるものがひとつの"目的"のもとに動き続けていたことの証左であろう。一方で、現代の芸術運動は、如実に資本主義化し、経済的目的のもとに人間が阻害され、そこにはポリシーも思想もストーリーも何もない。タブローへの表現だけが純粋に極められた上で、そこに権威と制度が資本主義的価値を定め、なにもわかっていない大衆がこれを基にあくまで資産として芸術を購買する。いま、芸術のプレイヤーはどちらも"人間"ではなく"経済人"である。アダム・スミス的合理人間がルネサンス的理想を打ち砕き、欲望と希望が芸術を蹂躙している。

だからこそ、昭和30年代の芸術運動あるいは大衆というものは相対的にもっと輝いていたのではないか、ということで、このような発言が出てきたのである。

彼女は、決してファシストではない。なんならそもそも政治的発言や主張とは縁遠いくらいの人だと思っていた。けれども、そんな彼女がこうも強く意見を主張してくれた姿は美しかった。

それは彼女に限った話ではないのかもしれない。悟り世代、あるいはZ世代という言葉で囲われた我々若い世代は、自分の意見を心にしまいこみ、現状を変えることに興味なく、選挙に行かず、選挙に行ったとしても自民党に投じるなんて保守的な人が多い。それゆえ、思考力がないとか、あるいはなにも考えてないとか、中身がないとかいろいろ揶揄されがちなZ世代ではあるが、私はそうは思わない。

私たちは、意見を言う場がないだけなのだ。考えてないわけじゃない、不満はあるし、改革してほしいこともある。けれども、のしかかる大学の学費、頑張っても頑張っても増えない給料、あるいは高い社会保険料が我々をひどく搾取することが若い世代を生き急がせ、考える暇や場を奪っている。我々には"生"がない。1930年代の若者には"生"があっただろう。国際連盟脱退、日中開戦、米国との関係悪化、世界から孤立する我が国を見つめ、若い世代は強く強く"生"を実感していく。もちろん、国家に貢献するという建前があったとしても最終的には自分が死ぬか、生きるかという問題がそこには横たわり、死が迫ることそれ自体が彼らにきっと"生"を感じさせていたはずである。2.26事件はその象徴的事件である。あれが"生"を真に感じる人間の叫びである。現状に変革を求めた若い命の輝きである。あるいは、特攻隊であろう。敵陣に命を賭して突撃する、その様は死というよりかは最大限の"生"である。死は結果であって過程ではない。もちろん、動機と結果は不純なものであり、若い命を落とさせたという事実は断じて評価されるべきものではないが、特攻隊で散っていった若人の姿そのものは何よりも人間的で美しいことは確実なのである。

戦争時代を生きていない私たちの中には「戦争」と聞けば小中で習ったような悲劇的で感動ポルノ的であるいは強制的に反省を強いるような、鬱屈とした説教くさいもののように感じているものもいるかもしれない。たしかに、狂信的に思考もなしに大人に騙されたような形で「核兵器廃絶!」などと叫ばれている子どもたちを見ると惨めで仕方ない気持ちになる。カルト信者と彼らになんの違いがあろうか。

私は太平洋戦争を客観的な歴史で見ることは好きではない。むしろ、全面的に感情で読み解くべきだと思う。なぜならば、我々がするべきはあの戦争における政府や国家、メディアの過ちを反省することではないからだ。我々がそれらを反省したところで、政府要人でもなければ、国会議員でもない私たちがどう活かすこともできやしない。今日8月15日を迎えて、私たちがすべきなのはあの時代を生きたすべての人々に思いを馳せるというもっと簡単なことである。

総力戦の中で、"生"を強く実感していたあの時代の人々を、あのもっとも人間が美しかった時代を思慕することこそが我々のやるべきことではないのか。あなたが、あの時代の誰かに自己投影をする、そうして思いを述べる。たったそれだけのことがあなたに"生"をもたらすはずである。

日々、生き急ぐ若者たちよ。
あの戦争になにを思うか。
私たちは生きなければならない。

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