見出し画像

日本企業におけるDX実現に向けたステップ、その基盤となるテクノロジーのトレンド

2022年6月時点の内容です

日本初の専業型インターネット・データセンターとして2000年に設立。2002年に現在のブロードバンドタワーという名称となり、日本のインターネットインフラを支えてきた同社。その代表を務める傍ら、一般社団法人デジタル田園都市国家構想応援団代表理事、SBI大学院大学学長など、経験と知見を活かして数多くの公職活動も行っている藤原洋氏。

今回は、DXの第一人者として最前線で活躍する藤原氏に、日本企業におけるDX戦略の進め方、その基盤となるテクノロジーの展望、DX時代におけるサイバーセキュリティの在り方、さらに今後の展望を語っていただきました。

【インタビュアー】
櫻井俊郎
(株式会社東陽テクニカ セキュリティ&ラボカンパニー カンパニープレジデント)


未来志向のDX推進について

IoTやAIの進展とともに進行中の第4次産業革命について、著書『全産業「デジタル化」時代の日本創生戦略』の中で、「まさにデジタルトランスフォーメーション革命であり、日本創生の大チャンス」であると書かれています。そのインパクトについてお話しいただけますか?

まず、お伝えしないといけないのが「平成の失われた30年」です。日本経済の低迷を象徴する事象であり、DX推進を考えるうえで、なぜ低迷したのかを理解する必要があります。その根本的な3つの原因が「デジタル化の遅れ」「食料自給率の低下」「首都圏一極集中」です。「平成の失われた30年はバブル崩壊だ」と言う人もいますが、私はそうは思いません。特にデジタル化の遅れと、日本にデジタル企業が出現しなかったことが大きな問題だと感じています。

デジタル化の遅れで、もっとも打撃を受けたのが第3次産業です。この30年間で、労働人口の比率は第1次産業から第3次産業にシフトしました。この産業構造の変化の中、日本の就業者一人あたりの労働生産性は、OECD(経済協力開発機構)加盟国のうち、1990年の16位から、現在は28位まで落ちたのです。この原因は、サービス産業がデジタル化に乗り遅れたことにあります。

では、日本の経済を支える製造業における労働生産性はどのように変化したのでしょうか?

製造業の労働生産性を見ると、OECD加盟国のうち、2000年まで日本は1位です。しかし、2005年に9位、2019年にはとうとう18位まで下がっています。

デジタル産業を象徴する半導体産業が日本から姿を消したことも大きな要因だと考えられます。1993年にはトップ10に7社も日本の企業が入っていましたが、2021年には0になりました。韓国が2社入っていますが、大半がアメリカの企業です。これは、日米貿易摩擦の結果、半導体産業が日本からアメリカに移ったということです。

「平成の失われた30年」を取り戻すため、日本はどうすればよいのでしょうか?

デジタル化と切っても切り離せない半導体産業。かつて日本の半導体を牽引したのは、総合電機メーカーでした。それが今ではIT系の企業に変わっていますが、日本はそこが少々弱い。そしてITや半導体といった業界では、圧倒的な経営スピードが求められます。

しかし、日本の企業はITの大きな流れを捉えられず、ITで重要な半導体ビジネスを理解できなかった。これが「平成の失われた30年」の実態です。

それを踏まえて、令和の日本が取り組むべきはDX。サービス業や農業を含む、全産業のデジタル化がミッションになります。また、製造業においては、もう一度、半導体産業を創生することが課題です。ここに「日本創生の大チャンス」があります。

半導体産業において、日本企業にはどのようなチャンスがありますか?

チップを作るという意味での半導体産業について、日本は苦戦しています。しかし、半導体を作る製造装置に目を向けると、売上トップ15の中に日本の企業が7社もランクインしていますし、シリコンウエハも日本の強さが目立ちます。こういった材料分野でも日本の企業に強みがあり、頑張ってもらいたいです。

そのほか、次世代シリコンウエハについて、代替素材として窒化ガリウム(GaN)とシリコンカーバイド(SiC)があり、開発競争が激化しています。この分野においても青色発光ダイオードの発明でノーベル賞に輝いた、名古屋大学の天野教授を中心とする大学連合と、私の会社や電機メーカーさんと共に、総務省の資金支援を得て、産学連携でBeyond 5G(6G)に向けてGaNデバイス技術の研究に着手しています。

私自身も東北大学を中心に半導体の研究開発拠点を集約するために活動しています。DXの推進、そのために必要な半導体産業を活性化するには、どこかに集約拠点が必要です。そこで仙台市を中心にシリコンバレーのようなR&D拠点をつくる構想があります。投資家を集め、半導体業界を盛り上げ、新しいデジタルの流れをつくる。これが「日本創生の大チャンス」という本当の意味です。

DX人材の育成について

SBI大学院大学の学長をされ、DXの講義も受け持たれています。DX人材の育成について教えてください。

まず、政府が進める「デジタル田園都市国家構想」についてご紹介します。これは、“新しい資本主義”実現に向けた、成長戦略のもっとも重要な柱になります。「デジタル基盤の整備」「デジタル人材の育成・確保」「地方の課題を解決するためのデジタル実装」「誰一人取り残されないための取組」という4つの骨子から成り立っています。

DX人材育成は、具体的に、地域で活躍するデジタル推進人材を2022年度末までに年間25万人、2024年度末までに年間45万人育成できる体制を段階的に構築し、2026年度までに230万人確保するというのが目標になります。

また、人材育成と言っても、通常の学校教育ではなく、主として社会人に向けたリカレント教育が中心になります。今までアナログ人材だった人をデジタル人材に変えるため、自治体と協力しながら進めています。一般社団法人デジタル田園都市国家構想応援団では、そのために教育素材の提供や、講師のアレンジをしていきます。私は代表理事として、自治体のデジタル推進人材確保を支援する活動を行っています。また、SBI大学院大学では、経営者向けの「DXの本質」という講義を受け持っています。

欧米ではユーザー側にデジタル人材が多いのに対して、日本では圧倒的にベンダー側が多いですよね。若い方はデジタルネイティブが多く、やり出せばスムーズだと思いますし、デジタルとビジネス、経営のわかる人材を増やしていきたいですね。

おっしゃるとおりで、この講義もユーザー側にデジタル人材を増やすことが目的です。日本では75%がベンダー側、25%がユーザー側という状況。アメリカではまったく逆で、日本もその構造を作らないとだめです。ユーザー側のリテラシーが上がれば、デジタル化やDXも進み、中間搾取などもなくなります。

DX時代におけるサイバーセキュリティの重要性

DX推進基盤となるテクノロジートレンドとして、「5G/Beyond 5Gへの進化」「AI/ML(機械学習)技術の浸透」「サイバーセキュリティ危機の増大」「データ技術の進化」「ハイブリッドクラウド&エッジコンピューティング」という5つを挙げられていますが、DXにおいてサイバーセキュリティの重要性が一段と増すはずです。そのあたりについて、藤原様はどのようにお考えですか?

我々も常にサイバー攻撃を受けているものとして、防御はとても大切です。特に近年は、攻撃対象が産業システム、例えばデータセンターや発電所といった社会インフラに及んでおり、攻撃方法の高度化や特定組織を狙った標的型攻撃も多発しています。

攻撃の目的も多様化し、国家によるサイバー攻撃、金銭目的の犯罪者による攻撃、ハクティビスト(政治的な意思表示や政治目的の実現のためにハッキングを手段として利用する行為もしくはそのような行動)による主義主張なども耳にします。

コロナ禍になり、テレワークという働き方も増え、よりサイバーセキュリティの重要性が高まったと思いますが、いかがですか?

そうですね。新型コロナウイルス感染症の影響で、テレワークの利用が一気に進みました。より時間や場所を有効活用できることとなり、企業にとって新しいビジネスの創出や労働形態の改革などをもたらします。また、多様化する個々人のライフスタイルに応じた柔軟かつバランスの取れた働き方の実現に寄与することが期待できます。

一方でテレワークの普及によって、情報通信ネットワークの脆弱性によるサイバー攻撃の被害や情報漏洩などが多発しています。うっかり被害も多いのかなと思います。

DX化、またテレワークが進む今、サイバーセキュリティに求められることを教えてください。

続きは「東陽テクニカルマガジン」WEBサイトでお楽しみください。