4月までに彼氏ができなかったらジムに通おう⑨

【episode7】独身貴族な男

職場のメンター。
慶應大学出身の44歳未婚。
マスクを外しても顔の印象が変わらない。
黒縁メガネはわざとかって思わせる容姿端麗な人。


新人の私に心底丁寧に仕事を教えてくれた。

仕事も少し落ち着いた2月。
私は、彼に呼び出された。

「今野さんには事前に伝えておこうと思って」
という切り出し方。

私の胸は、ドキンと跳ね上がった。

「まだ正式に発表されてないけど、4月から部署が変わることになって。もう今野さんと一緒に仕事することができなくなりました。いろいろ教え切れてないのに、ごめんなさい。」
「でも、同じ職場にいるわけだし、何かあったらいつでも頼ってください。」

涙が出た。
そんな自分に実はびっくりしていた。


彼は続けて言った。
「この1年本当に大変だったと思いますけど、一緒にお仕事してくれてありがとうございました。」
「この職場で1番頑張ってるのは、今野さんです。」

泣かしにかかってるんか、この人は。
備品室の空いたスペースで嗚咽するほど泣いた。

本をよく読む彼の丁寧な言葉選びがすごく、好きだった。

研修で長時間拘束され、勉強にはなったけどかなりぐったりしてる私に
「心地よい疲労感はいいものですよね」
と言ってくれた。

資料の不足箇所を指摘する他社へのメール。
「この内容で良いですか?」と他社に送信する前に彼に確認をとった時。

「内容はOKです。若干ですが、言い方がきついように感じます。どんな業者であっても、対等な関係でお仕事することは大切です。高圧的だと受け取られることのないよう、表現を見直してみてください。」との返信。

仕事に慣れてきたせいか、どこか偉くなった気になって、他人のミスを責める自分がいることに気が付かされた。
私の方がまだまだずっと仕事できないのにね。
いつまでも謙虚な姿勢で、目の前の相手を大切に仕事をしていこうと誓った。


いつだって、
私を成長させるための言葉をくれたなあ。

部署が離れると知ってから、彼の存在の大きさに改めて気づく。

振り返ると、いつも温かい彼しか思い浮かばなくて。

あれ。私、これ、彼のこと好きになってたのかなって。

失って気づく大切さ。


毎月行ってる美容室のお姉さんにその話をしたら、ひとこと。
「春子ちゃん、悪いけど、それ気の迷いだと思うわ。
足音がうるさいとか、業務の割り振りの時絶妙に春子ちゃんに重めの仕事振ってくるっていう悪口聞いたことあるよ?」

思わず笑ってしまった。
そういえば、そんなこと、あったなあ。


人間って、いつのまにか記憶を改ざんするのかな。
それは恐ろしくもあるけれど、むしろ幸せに生きていくにはこれくらいがちょうどいいのかもしれない。

過去を捏造するようになる前に結婚相手見つけたいなあ。



都合の悪い記憶は、なかったことにするくらいノーテンキ女な私。
まだまだ出会いの場に足を運ぶ元気があるということでしょう。

まだ。まだ。
大丈夫、大丈夫。

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