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"他者を傷つける社会に生きる、当事者として"「リトル・ガール」上映会@豊岡劇場

豊岡劇場さんで、ドキュメンタリー映画『リトル・ガール』が上映。上映後は、俳優(青年団)の和田華子さんを招き、豊岡在住映像作家・歌川さんの司会のもと、話を伺った。和田さんは「俳優・劇作家・演出家・制作者に向けたLGBTQ勉強会」を2019年頃から開催。演劇の作り手に、LGBTQに関する基礎的な知識や日本の現状、創作現場における就労環境の改善に向けた情報を共有する活動を行っている。(※以下敬称略)
実施日:2022年6月19日
上映・会場:豊岡劇場  上映後トーク担当:豊岡映画センター

<あらすじ>
フランス北部、エーヌ県に住む少女・サシャ。出生時、彼女に割り当てられた性別は“男性”だったが、2歳を過ぎた頃から自分は女の子であると訴えてきた。しかし、学校へスカートを穿いて通うことは認められず、バレエ教室では男の子の衣装を着せられる。男子からは「女っぽい」と言われ、女子からは「男のくせに」と疎外され、社会はサシャを他の子どもと同じように扱わない……。
トランスジェンダーのアイデンティティは、肉体が成長する思春期ではなく幼少期で自覚されることについて取材を始めた監督は、サシャの母親カリーヌに出会った。長年、彼女は自分たちを救ってくれる人を探し続けて疲弊していたが、ある小児精神科医との出会いによって、それまでの不安や罪悪感から解き放たれる。そして、他の同じ年代の子どもと同様にサシャが送るべき幸せな子供時代を過ごせるよう、彼女の個性を受け入れさせるために学校や周囲へ働きかける。まだ幼く自分の身を守る術を持たないサシャに対するカリーヌと家族の献身、言葉少なに訴えるサシャ本人の真っ直ぐな瞳と強い意志が観る者の心を震わせる。


映画に映される子どもたちと、私たちに課せられた責任

歌川:海外の映画祭で『リトルガール』を初めて観た時、会場で泣きながら観ている方が沢山いました。私としても、初めて見るような世界というか、視点があった。作り手の倫理観として、気になることはあったのですが、総じて、何か興味深い映画だなというのが初めて観た時の感想です。和田さんはいかがでしたか?

和田:私自身が当事者で、子供の頃から学校との攻防みたいなものがありました。そういう視点だから、「(映画の感想に)正解、不正解はない」という前提で、個人の感想としてお伝えするんですけど、私は結構ショックを受けました。

映画を観終わった時に、「普通に学校に通いたいということが、まだできない。私の時代で出来なかった事が、今なお出来ないのか」ということに対して、大人としてかなり責任を感じてしまいました。

あれぐらい幼い子が画面に立って、しかもドキュメンタリー映画で、自身のことが、ある程度広域な範囲で公開されるわけで。最終的に学校側は通学を認める事になりましたが、映画が作られなかったら、果たして通えたかなと思いました。

「こういう闘いを当事者のご家族にさせている」ということ、「本人が映画に出る」ということがなければ、オーダーが通らないという世の中にしてしまっているんだなと。大人として、結構ショックでした。

歌川:この映画のパンフレットで、児玉美月さんという方が、その点を言及してらっしゃって。当然ながら、映画って映ってる人の人生というのもある。特にドキュメンタリー映画は公開した後、何かしら被写体に影響を与えてしまう作品もあると思うんですね。この映画は欧州で多くの人々に視聴されたと聞きました。

和田:この映画で「感動した」という感想をよく目にしていたので、どのポイントに感動したんだろうという所が、ものすごくモヤモヤしていました。

そこでパンフレットを自分で取り寄せてみたら、児玉さんは「映画に映される子供たちと、私たちに課せられた責任」という文章を寄せている。また、写真家の長島友里恵さんは「他者を傷つける社会に生きる当事者として」を寄稿していて、そこでかなり補填された感じがありました。「あ、そうだよね」みたいな。もちろん感動ポイントはいっぱいあるとは思うんですけど、子供にしわ寄せがどんどん来てしまっていた時に、そこに言及してる方々がいて、パンフレット込みで、映画が私の中で完結したという感じでした。

学校側の人たちは一瞬たりとも映ってないけど、主人公のサシャやその家族は映っている。そのことを考えました。

気持ちの持ちようや寛容さだけの解決ではなく

歌川:「配信で映画を観ること」と「場を共有して映画を見ること」の違いみたいな議論がある時に、「隣の人が号泣しているシーンで、自分は泣けない」とか、「自分が泣いている場面で、隣の人が笑っている」とか。違った価値観を持っている、違った考えがあるみたいなことを共有する場として、映画館がすごい大事なんじゃないかという議論もあると思います。その点、この映画は、すごく色々な意見を持つ方がいる作品だなと思って。

和田:ジェンダー格差やLGBTQのこと。そういったことに対する社会の認識が変わっていく時に、理解を気持ちの持ちようや寛容さだけで解決する方法ではなく、私個人の考えとしては、「知識として、基礎知識がどんどん身についていってほしい」と思ってます。

歌川:和田さんの視点で、「この映画や本はすごく勉強や参考になる、ぜひ観てほしい」など、そういったものがあれば、お伺いしたいです。

和田:私がオススメしたい映画は、NETFLIX「トランスジェンダーとハリウッド:過去、現在、そして(英題:Disclosure)」という作品。これもドキュメンタリー映画なんですけど、かなりオススメですね。

原題のdisclosureは「暴露」という意味です。映画の創成期から2018年までの間に、ハリウッド作品でトランスジェンダーの人々がどのように描かれてきたのか。アメリカのエンターテインメント業界に携わる当事者の方々が出演します。ハリウッドの名作が沢山出てきて、「この映画には、こういう(描写の表象の)問題があったんだ」という事に気づかせてくれます。

それこそ歌川さんが「映画は観る人によって、その感じ方が違う」というお話をされてましたけど、これはかなり顕著で、この映画は(トランス)当事者が観るとめちゃくちゃ勇気をもらえる作品みたいです。私もすごく元気になりました。

ただ、当事者じゃない人が観るとものすごく落ち込むみたいなので、本当にその体調がいい時に見たらいいかな思っています。

ただ、これまでトランスジェンダーの人たちは、例えば映画の創世記であれば、精神異常者として描かれたり、コメディー作品では、お笑いのネタとしてイジられたり。犯罪ドラマでも、医療ドラマでも、大体死に繋がるようなことが描かれ続けていて、当事者の人たちはきつかったよねみたいな。

幼少の頃から様々な作品に触れていく中で、ネガティブな描写ばかりを目にしてきた事で、「自分たちって30歳までに死ぬらしいね」みたいな感じで映画を観たり、「自分たちは笑いものにされるっていう方向でしか生きていけないんだ」って思いながら生きてきた部分があります。

今私は作り手だし、作り手として、作り手の人に知識をちゃんと身につけてほしくて勉強会を開いてます。「別に表現って大したことないから、そんなに悪気があって作ってるわけじゃないから、別にいいじゃん」みたいなことを言われることが多いんです。けど、(誤った表現が)積み重なると結構なことになっているってことが、この映画でわかると思うので、これはかなりオススメの1本です。

おすすめの本

1)『先生と親のためのLGBTガイド:もしあなたがカミングアウトされたなら』

和田:この本は、小中高の教師や、映画に出てくるような親御さんが、自分や他者の子どもと接する時に、どのようなことに気をつけると当事者の子どもにとって良い環境を築けるか。そういったことが具体的で丁寧に書いてあって、すごくいいなと思った本でした。

「教師・大人ができること」という章に「教師や大人は観察されている」という項目がありました。“誰が味方になってくれそうか /くれなそうかを、悩んでいる子どもたちほど、よく観察しています。日常的な言動が「見られている」ことに、ぜひ自覚的になってください。”という一文があり、本当にそうだよねと思いました。

この本は、私が演劇関係者に向けた勉強会でも参考図書にしてます。同世代の演出家や劇作家の方で、高校や中学にワークショップの先生として出向く方は結構いらっしゃいます。その方達は、演劇に関してはプロフェッショナルです。しかし未成年の子供に接するという意味ではまだプロフェッショナルではないと思いますし、そのワークショップの生徒さんの中にも(LGBTQ)当事者はいると思うので、知っておいてもらえたらうれしいなという意味で、この本をお伝えしてます。

2)『LGBTQとハラスメント』

3)『マンガでわかるLGBTQ+』

4)一般社団法人にじーず

和田:打ち合わせで、「やっぱり教育が課題だよね」みたいな話になって。

でも私自身、学校にやっぱりどうしても居場所を作れなくて。もちろん10年以上前だから、今は全然違うとは思うんですけど。学校外にも居場所はあるよってことも知られるといいのかなと思ったので、"にじーず"っていうユースの為の団体を紹介します。

10代から23歳ぐらいまでのLGBTQ、もしくは、かもしれない人たちを含む人たちが集まる居場所として設定されているところです。最初は東京がスタートだったんですけど、今いろんな地方拠点を作ってます。関西は京都・大阪・神戸で開かれています。

居場所って大人もそうだと思うんですけど、1個じゃなくていくつかあった方がちょっと逃げやすさが出るので、「学校以外のこういう場所がある」「(LGBTQ)当事者の子がいたら、こういう場所があるよ」ってことを教えてあげるっていうのは、大切な事だと思っています。特に、この「リトル・ガール」っていう映画を鑑賞した人には知ってもらいたい団体だなと思ったので、お伝えしました。

2023/8/26(土)は映画「トランスジェンダーとハリウッド」上映会が豊岡で開催!!

「市民ふれあいのつどいパート1 映画鑑賞会&アフタートーク〜大切にしたい みんなの人権〜」

日  時|8月26日(土)12:35〜16:30
会  場|豊岡市民プラザ ほっとステージ(アイティ7階)
料  金|無料<申込不要・当日先着250名>
主  催|豊岡市・豊岡市教育委員会・豊岡市人権教育推進協議会 
協  力|豊岡映画センター
アフタートーク:菅野優香さん

菅野優香(同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科教授)

同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科教授。カリフォルニア大学アーヴァイン校Ph.D.(視覚研究)。専門は映画・視覚文化研究、クィア・スタディーズ。著書に『クィア・シネマ――世界と時間に別の仕方で存在するために』(フィルムアート社、2023)、『クィア・シネマ・スタディーズ』(編著)晃洋書房(2021)、『クィア・スタディーズをひらく』(共著)晃洋書房(2020)、The Japanese Cinema Book(共著)、BFI/Bloomsbury (2020)、『川島雄三は二度生まれる』(共著)水声社(2018)などがある。

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