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11/3(水・祝)「ラ・カチャダ」上映後トーク with 姚瑶さん

ドキュメンタリー映画「ラ・カチャダ」上映後、芸術文化観光専門職大学講師の姚瑶さんを招き、話を伺った。

姚瑶(よう・よう)
芸術文化観光専門職大学・専任講師。
中国江西省生まれ。芸術文化観光専門職大学・専任講師。九州大学博士(比較社会文化)。専門は言語教育、第二言語習得、多文化共生。演劇と語学教育を研究しながら、文化庁の芸術家派遣事業に参画し、ワークショップのファシリテーターとして演劇活動の普及に尽力している。九州大学研究員、九州産業大学講師などを経て、2021年4月より現職。著書に、『演劇的手法による日本語教育に関する理論的・実証的研究』(花書院)

▼語学学習と演劇、自分を受け入れること

私は、教師一家に育ち、将来は教師になろうと思っていました。
中2の夏にドラマ「東京ラブストーリー」を見て日本に興味を持ち、語学教師になることを決心したんです。
大学卒業後は、九州大学で博士号を取り、「外国語を習得するのに演劇の手法が有効」という仮説を立て研究を進めています。

私の第二外国語は、日本語です。以前、私は大学の成績は良いのに、日本の人と話すと上手く通じないことに悩んでいました。
そんな折に、「カチカチ山」の劇に出た際、なぜか上手く喋ることが出来たのです。そこから、その理由を考え始めました。
教育現場では内容の理解や語彙の習得が中心ですが、なぜ日本の人と話す時には上手くいかないのか?

理由は、2つあると私は考えています。

まず「情意領域」、簡単にいうと「緊張」です。
例えば、私に100%の能力があるとして、日本の人と話す時に緊張して60%しか出せないことがあります。
この要因は不安だけではなく、テストで高得点を取りたいといった心理的欲求や動機付けなどの「外的動機」から生じているのです。
達成感やもっと勉強したいという内的要因だけでは、学校の勉強で習得した能力を上手く出せません。

もう一つは、「自信・自尊感情」です。言葉を間違うと笑われるのは、教室の中でもよく起きることです。それにより、自尊感情の低下につながって、うまく喋れなくなってしまう。

それはこの映画にも繋がっていて、映画の女性たちが生活の大変さを表に出せないのは、「自分を受け入れることができない、他人も受け入れることができない」からのように見えるんです。

でも、演劇を通してなら、子どもや両親に対する感情も表に出したり、共有できて、受け入れられるかもしれない。そういった研究をしています。

▼母親として、映画から感じたこと

映画鑑賞前に、あらすじだけを見た段階ではここまで感動するとは思いませんでした。

私にも2歳の娘がいて、何回かウルっとするシーンがありました。
ちょうど「魔の二歳児」なので(笑)、私が一番共感したのはお母さんたちがイライラして子どもに当たってしまって、その後、罪悪感や自己嫌悪に陥るシーンです。映画に出演する女性たちが、悪循環に陥ってましたよね。

後悔する、イライラする、叩いてしまう。
そういったことを、演劇ワークショップという形で、本当の自分の気持ちと向き合うというプロセスは、私は羨ましいなあと思いました。

子育てで困った時、私は自分の母親や友人に相談していましたが、そういう場がない女性も多い。
自分の行き過ぎた行動を、もちろん虐待はダメですけど、例えば言葉の暴力、それはしつけなのか、それとも自分のイライラを子どもにぶつけてしまっているのか。
一人の母親として、この映画の登場人物たちに共感しました。
こういう演劇ワークショップという方法もあるんだと、新しい発見でした。

▼海外にルーツを持つ子を育てる母として

妊娠中は、バイリンガルの本をたくさん読みました。
0歳児の頃から中国語で話しかけたけど、日本語しかしゃべれず、ショックでした。専門家に聞くと、軸になる言葉があって、もう少し大きくなってからが良いと。別の専門家は、同時に話していかないといけないと言う人もいます。

今、娘はやっと2歳8カ月です。中国語を喋らないけど、私の言っていることは通じているようです。中国語で言ったことに、反応してくれます。他方で、私の祖国である中国語と日本語のこと、つまりバイリンガルの教育に関して、私一人の力の限界も感じます。娘には、複数の国にルーツを持つことを誇りに思ってほしいです。

▼豊岡に住む、海外にルーツを持つ方々を想う

豊岡に来て驚いたのは、「留学生はいません」と言われたことです。

豊岡市内の外国にルーツのある方、いわゆる外国人の構成を調べると、技能実習生の割合が大きい。外国人の割合は、全国平均が2.3%、豊岡は1%です。みなさんが街中を歩いていても、確率的にはあまり出会わないと思います。
しかし、2019年の豊岡市・神戸大学共同研究によると、困っている外国人は多いことが分かります。

「外国にルーツを持つ子どもの日本語問題」や、「日本語があまり出来ない外国人女性の妊娠・出産の問題」などは、あまり聞かない話かもしれません。
豊岡に住む多くの技能実習生に対して、3〜5年で母国に帰るから深く関わらなくてもいいと思っている人がいるかもしれません。

先日、市役所で開催した「多文化共生セミナー」で、有識者は「短期滞在の方に、長期滞在してもらうためには、地方の経済がキーになる」と言っていました。短期滞在の外国人の多くは、「本当は長く滞在したい」と思っているそうです。

(雇用や経済的な点で)そういった土壌を作っていければ、外国人も長く豊岡に滞在して、税金も払って、元々この土地に住んでいる方々と一緒にこの取り組みを進めていけるのです。

地元の方から「豊岡は何もないです」という話を聞きますが、私も夫も「そんなことないですよ」と言うんです。
18年間住んだ福岡と比べると、自然豊かで青空がとても美しい。
地元の人にとっては当たり前かもしれませんが、例えば観光客にとっては観光資源になると思います。
気候は、日本海に面していて晴れたら空気も美味しいですし、もっと自信を持って外の観光客にPR出来たら良いなあと思います。

▼豊岡市多文化共生推進事業「中国語と中国文化を楽しもう!」

豊岡市では、2022年8月28日から「中国にルーツを持つ子ども」を対象に中国語と中国文化を楽しむ講座を開催しており、ファシリテーターを姚先生が務めます。18歳以下の中国にルーツを持つ子どもとその保護者の方はぜひ!

※豊岡市では「多様性を受け入れ、支え合うリベラルなまちづくり」を推進するため、多文化共生推進事業「母語・継承語支援の調査研究と実践~外国にルーツを持つ子どもの支援」を芸術文化観光専門職大学に委託して実施しています。

(レポート作成:杉本悠・歌川達人 / 写真:友金彩佳 / 当日ファシリテーター:歌川達人)
開催日:2021年11月3日(水・祝) / 場所:豊岡劇場

 【監督のことば】
 私がこの映画の登場人物たちに出会ったのは、2010年、卒業制作となる短編ドキュメンタリーの撮影のために、スペインからはるばるエルサルバドルへ赴いたときのことだった。取材対象である現地のNGO団体が、街頭で物売りをして生活する人々の子どもたちのケアを主な活動内容としていて、マガリやマグダ、ルースやチレノやウェンディは、そんな母親たちのなかにいたのである。

 初めて中米を訪れた私は、このとき、自分とは完全に異質の現実と直面することとなった。私は当時23歳で、自分とそう変わらない年齢の女性が自分とは全く異なる人生を歩んでいて、子どもたちをできるだけちゃんと育てることしか考えていないという事実に、ショックを受けたのだ。

 ところが3年後、エルサルバドルへの移住を果たした私と再会した彼女たちは、なんと舞台の上に立っていた。あの内気で不安げな女性たちが劇団を結成し、家庭や市場での自身の経験を描く、ささやかな演劇の実験を披露していたのである。私は驚いた。そこにいるのが、かつて出会った人と全く異なる女性たちだったからだ。彼女たちはその頃、プロとして初公演となる劇の準備を進めていた。そこで私は、母親としての実体験を語るこの劇が創作される過程で行われる稽古を、一つひとつ撮影していこうと決心した。

 リハーサルを重ねてゆくごとに、幼児期の虐待、10代での妊娠、ジェンダーにもとづく暴力、性的虐待、貧困など、彼女たちの体験してきた恐ろしい出来事の数々を知ることとなった私は、やがて何か本質的な変化が目の前で起こっていることに気づいた。私は、演劇から力を得た女性たちが自らの声を発見するという実験、そのなかで彼女たちが自身を理解し再発見するという実験の立会人となった。そして、暴力的な現実が自分と子どもに対してもたらす影響や、そうした世代間の悪循環と闘い、打破することがこの実験によっていかに可能であるかに彼女たちが気づいてゆく様を、その目で見届けることになったのである。

#ドキュメンタリー #シングルマザー #ラカチャダ #とよおか月イチ映画祭 #演劇 #豊岡劇場



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