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"今何かやらなければいけない"「浦安魚市場のこと」上映会@豊岡劇場

「映画と楽しもう、但馬のおさかな」と題し、ドキュメンタリー映画『浦安魚市場のこと』を上映。上映後は、豊岡在住の歌川達人監督が司会をつとめ、城崎に店を構える「おけしょう鮮魚」の桶生夫妻にお話を伺った。(※以下敬称略)

2023年7月22日(土)豊劇シネマトークvol.5『浦安魚市場のこと』
会場:豊岡劇場  主催:豊岡映画センター


浦安魚市場から、姫路の市場へ想いを馳せる

桶生夫妻

裕介さん:僕は生まれも育ちも豊岡市津居山で地域に根付いた商売(おけしょう鮮魚)をさせてもらってます。

美樹さん:私たちは姫路中央卸売市場の姫路魚類株式会社というところで働いていて、そこで出会いました。(詳細は下記リンクから)

偶然、このお話をいただいた少し前に、姫路中央卸売市場が閉場することになって、すごく驚きました。

活気のある市場で、私たちが勤めていた頃は、仲卸が100店舗程あって、先ほど観て頂いた映画のような世界でした。でも、お店の数がどんどん減ってきて・・・。今回の閉場・移転に合わせ、100店舗あった仲卸が数軒になってしまったそう。浦安だけではなくて、日本全国で同じようなことが起こってるんだなと感じました。

姫路中央卸売市場(2023年)

裕介さん:姫路は豊岡よりだいぶ都会。人口も全然多いわけですけど、こうやって縮小してしまった。豊岡は、生産者である漁師さんがすごく少なくなってきているんです。漁師さんが魚を取ってきてくれないと成り立たない。私たち魚屋は、生産者と消費者と一つの輪の中にいる訳で、その輪を日々なんとか回している状況ではあります。

姫路中央卸売市場(2023年)

魚を見て買いに来てる訳じゃない、人を見て買ってるんだ

裕介さん:僕が一番印象に残ったのは、「お客さんは魚を買いに来ているけど、魚を見て買いに来てる訳じゃない。人を見て買ってるんだ。」と森田さんが言うシーン。「まさにその通り!」と膝を打つという感覚になりましたね。「人が元気じゃないと魚も売れねえんだよ」って。

美樹さん:姫路魚類に働いてらっしゃった人たちもすごく元気で、「魚を売る人は元気じゃないと売れないんだよな」って思います。浦安魚市場で働いてらっしゃった皆さんもすごく明るく、楽しそうに仕事をされていましたよね。そんな中、「みんな、頑張って魚買ってよ」と言うセリフがすごく胸に刺さりました。

「市場で魚買うのって、頑張らないと買えないんだな」って・・・。私たちのような魚屋も同じだと思うんですけど、これからは頑張らずに気軽に買いに行ける魚屋を目指していくのが課題だなって思います。

今何かやらなければいけない

豊岡の北部に位置する津居山漁港。その様子を収めた短い動画を観客の皆さんと鑑賞しました。

裕介さん:(津居山の漁港は)底引き漁船で、一つの船に7〜8人乗ります。冬は蟹を、春はハタハタとホタルイカ等を採ります。その他に、竹野には定置網もありますし、個人で釣りをされる方もいて、獲れる魚が時期や場所によって変わってきます。

歌川:拙作『浦安魚市場のこと』は、上映の過程で漁業関係の方々からお話を沢山伺いました。その中で、「ここ最近は獲れる魚の量も種類も変わってきている」とみなさん口を揃えておしゃるのですが・・・・但馬はどうですか?

美樹さん:今年は、ハタハタとホタルイカの漁獲量が本当に少なくて。。。ハタハタに関しては、過去10年と比較すると2%しか採れなかった。

市場に行くのが辛くなるくらいでした。本当だったら、高く積み上げられていたはずの箱が、一段しかなくって・・・。しかもちょっとしか入ってない。

松葉蟹に関しても、スーパーや城崎温泉を歩いてると店頭には並んでるから、一般の方には実感はないかもしれないですけど、私たちは毎日市場に行っているので、肌で感じていて・・・。

漁獲量はかなり激減してきているので、何かしていかないといけないと、思っているんです。でも、いろんな立場の方がおられるので、『こうした方が良い』と言うのは大きな声では言えないんですけれど、やっぱりに何かできることからと思って・・・去年から、うちの店は”水がに”と言う脱皮したばかりのカニを買うのをやめることにしました。すごく小さなことですし、その選択で急に松葉蟹が増える訳ではないかもしれないですけど、ちょっとしたところから始めようと思ってます。

そしたら、なんと昨日良いことを聞きまして・・・・「来季から津居山漁港は"水がに"の販売はやめる」と言うことで、話が決まりそうらしくって。

ちょっとしたことでも、できることをやっていけば、何かが変わっていくのかなと思ってます。やはり、「今何かやらなければいけない」と言うのは強く感じてます。

裕介さん:水ガニというのは脱皮したばかりの蟹で、もう1年2年経てば、立派な松葉蟹になるんです。でも、松葉蟹そのものの資源がどんどん減ってきている。水ガニって安いんですよ。それをどんどん獲ってしまうのはどうなんですか?って昔から指摘はされてきたんです。

資源は限られてますけど、漁師・魚屋・お客さんと、魚がつないでくれている訳で、例えば「この魚は1000円の価値がある、100円の価値がある」とその時の相場があるんです。でも、「うちはこの魚を1000円で買っても売れる。100円でも買えるけど、そこは1000円で買ってしまおう」と。その分、生産者にも水揚げの金額がいく訳なので。その辺はちゃんと高く買えるなら、高く買おうという意識は常に持っていますね。やはり皆で命をいただいてる訳ですから。

歌川:撮影中に市場でお買い物をしていて、私が今払っているこのお金が、このお店の人たちや生産者に行くというのが見えるというのは、どこか安心するところがありました。

裕介さん:後継者不足というのは、人口が減っている点もあるけれど、「商売としてあまり利益が出ないから、跡を継がない」という理由もあると思うんです。あるいは、「過酷な勤務だから、後継者になりたくない」というのも改善したい。「ちょっとしんどいけど、めっちゃお金もらえるで!」となれば、また後継者も増えていくんじゃないかなと思ってます。

昔から女性がセリに参加してたんです

歌川:映画の撮影中、市場の昔の写真が沢山出てきたので写真集も作ったんです。ひと昔前の写真がすごく魅力的だった。但馬の昔の写真はどうですか?

美樹さん:これは父の祖父母と、曽祖母なんですが・・・後ろにあるのが夫婦岩でして・・・なんと新婚旅行なんですが、なぜ姑が着いていって(会場笑)。

うちは曽祖父が北但大震災で亡くなったんです。家計を支えるために、曽祖母が魚を売り始めたのが、おけしょう鮮魚の始まりです。当時、津居山漁港から城崎温泉まで大八車という台車に魚を積んで、城崎で魚を売ってました。
すごいなあと思って。女の人が歩いて、津居山から城崎まで行くだけでも、結構しんどいんです。

この写真を見て、何か気がつくことありませんか?手前で年配の女性たちがカニを競っている。昔から女性がセリに参加してたんです。逆に今の水産業界は女性が少なくて、津居山漁港で現在セリに参加している女の方はたった一人だけなんです。これからは女性の方にももっと活躍してもらえる業界になればいいなと思います。

この写真も今では考えられないくらい蟹が並んでいて、すごく羨ましいなと思います。

やっぱりお酒じゃないですか?

最後に会場からのQ&Aでは、「浦安魚市場のその後は?」「セリをやってる方々が踊っているみたいで印象的だった」「映画に出てくる朝飲みができる食堂の話が聞きたい」「映画を観て、自分が市場にいるようで楽しかった」など、様々な質問や感想が飛びかいました。

「なぜこんなにも魚屋さんは元気なんですか?」という質問には、「やっぱりお酒じゃないですか?」という回答で会場が笑いで溢れていました。

美樹さん:実は義父が5月に亡くなったのですが、父は人生をかけて魚食の普及に努めて参りました。

受け継いできた大切なものを守り、育て、引き継ぐことが大事である…と
前豊岡市長である中貝氏の著書にありましたが、本当にその通りであると思います。私たちも父の想いを受け継ぎ、そして次世代へ引き継いでいけるように頑張りたいと思っています。

上映後は舟盛りとビールで

「『浦安魚市場のこと』を観た後は、お魚が食べたなくなる!」という声に応えて、上映後は豊劇ロビーで打ち上げ開催。

なんと、おけしょう鮮魚さんから豪華な舟盛りを4隻も!!!混み合うロビーで沢山食べて飲んで、お酒も売り切れになり、大盛り上がり。会場を提供くださった豊岡劇場さん、ありがとうございました。

<あらすじ>
魚屋の活きのよい掛け声。貝を剥き続ける年老いた女性。年末のお客たちとお店の賑わい。─古くから漁師町だった浦安には魚市場があった。工場汚染水の影響で漁業権を放棄し埋立地となった浦安にとって、魚市場が漁村だった町のシンボルでもある。そんな魚市場には、昼は町の魚屋、夜はロックバンドとして活動する森田釣竿がいた。時代の流れと共に変わっていく魚の流通と消費の形。脈々とつながってきた暮らしを謳歌する浦安の人々。しかし、その瞬間は、緩やかに、そして突然訪れる…。
監督・撮影・録音・編集・製作:歌川達人 編集:秦岳志 整音:山本タカアキ カラリスト:田巻源太(Interceptor) 音楽:POSA(すぎやまたくや&紫藤佑弥) プロデューサー:長倉徳生 植山英美 歌川達人 製作:有限会社カサマフィルム 配給:Song River Production
お問合せ:info@songriver-p.com
※自主上映会の申し込みも受付中。詳細は下記リンクより。
https://urayasu-ichiba.com

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