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本は友人、そしてサーフボード:出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと

『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』を読んだ。すぐ読み終えた。めちゃめちゃ面白くてめちゃめちゃ勇気が出た。久しぶりに、人生に前向きになれた。元気を出すためにすることは、たくさん寝ることでも高級スーパーに行くことでもなかった。この本を読むことだった。

まずは手短にあらすじ。

・著者は花田菜々子さん。
ヴィレッジヴァンガードの店長を12年していた方。夫と別れる、という段になって、 ほぼ、仕事と本と夫で回っていた自分の人生の狭さに途方に暮れる。

・「広い世界に出て、新しい自分になって、元気になりたい」と思った花田さんは、「知らない人と30分だけ会って、話してみる」という出会い系サイトに登録する。

・プロフィール、「趣味は読書です」じゃ、無難すぎる。じゃあ、これは?
「 変わった本屋の店長をしています。 1万冊を超える膨大な記憶データの中から、今のあなたにぴったりな本を1冊選んでおすすめさせていただきます」

ここから繰り広げられる、本と、本を薦める人と、本を読んだり読まなかったりする人の話です。

で、ここからが感想です。

面白い人が世の中にはいっぱいいると思い出した。

本の1章から5章まで、花田さんが出会った色んな人の話が出てくる。
TOEICerの人(TOEICを愛してやまない人をそう呼ぶらしい)。リアルわらしべ長者をやっている人。花田さん(著者)と情事になだれこむという妄想から始まる、Wordファイル90ページ分のポルノ小説を送ってくる人。

世の中には、色んな人がいて、面白いんだなあ。

…いや。

最近、毎日人に会うのが怖くてびくびくしてたけど、私だって、前はこのこと知ってたじゃん。人に会うのって、たしか面白いことだったじゃん。

花田さんが書いているのは、特別な世界の話じゃなくて、東京のことなんだよ。私のいるところだって、ほんの5メートル先だって、全部世の中なの。

辛いとき、いつも、本とか映画とかインターネットに救われてきたことを思い出した。

辛いとき、相手が、家族でも友人でも恋人でも、上手に励ましてもらうことは難しい。それはたぶん、もらうだけではいられないからだ。

救われなくてももっと傷ついても「ありがとう」って言わなくちゃいけないかもしれないし、正直に「ほしいのは、そういう言葉じゃない」って言っても後で「ああ、せっかく励ましてくれてるのになあ」って自己嫌悪に陥っちゃうし。

そういうときすべきことは、本を読むことだ。映画を観ても、ブログを読んでもいい。
相手に絶対なにか返さなくちゃ、って思わないでいいものに頼ったらよかったんだ。

違うな、って好きに思っていい。
受けとりたくないな、って思ったらページを閉じたらいい。

寄り添われ方を選べるのが、体温なき友人たちの、頼もしいところだ。

本を薦める喜びを噛み締め直した。

第7章。花田さんが「お客さんに対して、その人の読書傾向とか悩みに対して、みんなでよってたかって本をすすめるってイベント」を主催する。このシーンが、ジェットコースターみたいな楽しさだった。明るい緊張が、紙の向こうから伝わってくるような。

私は人に本を薦めるのが好きだ(薦められるのは、todoリストが増えてどきどきしてしまうので、あまり好きでない)。

それはなぜかというと、薦めた本を読んでもらえる、それを気に入ってもらえる、の周りには、幸せしかないからだと思う。

本を読むって時間がかかる行為だから、私の薦めた本を読んでくれる、って他の何よりたしかにセンスを信用してもらってる感じが伝わってきて嬉しいし、本を読んで充実した気持ちになったら薦められた人もたぶん嬉しいだろう。押し付けがましくならないように、ってところだけは注意深く慎重になれるなら。これって、超Win‐Winじゃない?

この前、素敵な文章を書く方が、文才のない人の書くレビューへの呪詛を流されていて、「だ、だよねぇ…」ってちょっとひるんでいたけど。

下手でもね、やっぱり私はレビューが書きたいな。

これまでは、楔を打つような気持ちでレビューを書いてきたけど。この本を読んで、どこかに流されるきっかけになる行為でもあるんだ、ってわかったから。流されるのは、私かもしれないし、それを読んだ人かもしれない。あるいは、その両方かも。

ならばどこまでも流れていって見てやろう。行けるいちばん遠くまで。


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