※①の続きです。

Nさんは、10分ほど歩いたところにある、野菜がたくさん食べられる店まで連れて行ってくれ、我々はそこでランチをとった。

世界一周中、どこの国に行きたいかという話をするのは楽しい。

私は、説明会の何日か前にブックオフで購入した（だから最新版ではない）世界地図を持参していた。

「丸をつけているのは、行こうと思ってる国？」と、Ｎさん。
「そうです。いろいろ調べているうちに行きたい国がどんどん増えちゃって、果たしてお金が足りるのか･･･Ｎさんは特にどのあたりにご興味があるんですか？」

行きたい国の話をしていると、これまで行った国の話になる。

「この間、ロシアの森の近くに宿泊するツアーに参加したんだよね。そこで暮らす木こりの人のおうちにお邪魔してさ」

Ｎさんは、iphoneで撮影したという写真を見せてくれる。
ずっと前からそこにいたような大きな木、手作りの料理、きらきらした川の水･･･。
写真に興味を持ち始めたのは最近とのことであったが、美しい色と光でいっぱいの、素晴らしい写真ばっかりだった。

「海外じゃないんだけどね、そういえば小笠原諸島にも１か月くらい行ったよ。気持ちよかったな」

「人前で歌ってみたいと思って、歌を習いに行ったんだ。そのあとちょっとしたライブみたいなのに出て楽しかったよ」

Ｎさんの話を聞きながら、私は心底びっくりしていた。

「こんなことしてみたいなあ」と考えたことを、
こんなに即実行している人が世の中にいるのか！

Ｎさんはほかにも、屋久島でユースホステルを手伝ったこと、ピアノを習ったこと、山伏修行に出たこと、沖縄でパーマカルチャー（※）の体験をしたこと、森で木の皮をはがす活動に参加したこと･･･ととにかくいろんなことについて話してくれた。

（※）「パーマカルチャーセンタージャパン」なる組織のＷｅｂサイトによるパーマカルチャーの説明：パーマカルチャーとは、パーマネント（永続性）と農業（アグリカルチャー）、そして文化（カルチャー）を組み合わせた言葉で、永続可能な農業をもとに永続可能な文化、即ち、人と自然が共に豊かになるような関係を築いていくためのデザイン手法です。

自分で自分の家を建てることにも興味がある、とのことだったので、ちょうどそのとき空き家改装に興味を持っていた私は、「もし漆喰を塗るような機会があったらぜひ教えてください！私も塗りたいです！」とお願いして、Ｎさんと別れた。

そのときは聞いてはいけない気がして聞けなかったのだが、その後知った情報によると、Ｎさんは元検事さんで、早期退職して人生を謳歌しまくることを決めたらしい。

説明会の数か月後にきっちり世界一周にも出発して、また素晴らしい写真をたくさん撮っていた（Ｎさんは帰国後、写真報告会を開催してくれて、それにもお伺いしたのだ。老若男女15名くらいが集まって（Ｎさん以外皆さん初対面の方）、お酒飲んでおいしいもの食べて、クッションによりかかりながら拝見したハワイの写真、最高だったな！）。

Ｎさんに会ったときの私は、母が癌と闘病している様子に、疲れ切っていた。

母ほど人のことを思って自分を犠牲にして生きてきた人はめったにいないのに、
そんな人が、
逃れられない痛みと死の恐怖に苦しまなくちゃいけないこの世が、
傲慢で支配的な夫から逃れられないこの世が、
私は大っ嫌いだった。

今でも基本的にこの世のことは大っ嫌い。

だけどＮさんに出会って、

もしかしたら、

素晴らしい人生にするぞ！と本気で決めたら、
実現するための方法を頭をひねってひねって考えたら、
フットワーク軽く、とにかく行動することにしてみたら、
いい人生らしきものが手に入る可能性があるのかもしれない･･･と

一縷の望みを持つことができるようになった。

心折れまくっているけれど、
決心した人・行動した人にしか、
そんな人生は手に入らないと思うから、

もう少し、がんばろう。

＝こぼれ話のコーナー＝

当時、今の仕事を辞めた後の生活について考える中で、「収入が少なくても自分の作ったもので生活していければよいのでは？」という仮説を立てて情報を集めていた。『月3万円ビジネス』や『電気代500円。贅沢な毎日』という本や小倉ヒラクさんのブログ（特に、昔の家を改装して自宅にする記事）を繰り返し読み、空き家バンクを検索しまくり、地方で新しい暮らしをつくる人たちの体験談を読みあさっていたのだが（島根県海士町や千葉県匝瑳市に非常に興味があった）、最近その熱は収まっている（やっぱり都会っぽい暮らしは好き＆虫が怖い＆自分の不器用さを思い出したため）。

だけどストローベイルハウスはいまだにつくってみたいし、地方で街をつくっていく感じは面白そうだよなあ。