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高卒就職問題 相場情報の必要性

 高卒就職問題研究のtransactorlabです。高卒就職市場における待遇相場情報の欠乏の問題の解消、そしてそれを通じて若年層の待遇が改善されることを求めて研究と提言を続けております。

 高卒就職市場は平成27年ごろから求人倍率3倍前後の超売り手市場となっていますが、初任給平均額は最低賃金をわずかに上回る程度の低い状態が続いています。公開される求人票のうち充足できるのはわずか1割前後、9割近くは売れ残る・・・これほど人材獲得競争が激化しているのに最低賃金ラインギリギリの低待遇の求人票が3割から4割もあります。

 これは現在の高卒就職市場に公正な競争原理が働いていない、つまり市場として不健全であることのあらわれだと私は考えます。そしてその最大の要因が相場を俯瞰的に把握できる情報が極端に乏しいことです。乏しいというより「ない」と言うほうが正確でしょう。求人事業者が待遇条件を考慮する際、確定的要素が最低賃金ラインだけで、応募が集まるだいたいの相場が分からないため、どうしても最低賃金寄りになります。結果的に全体の平均が低くなる。

 高卒初任給は地域別最低賃金算定における重要な要素の一つです。高卒初任給と最低賃金を重視して算定される。最低賃金の方も高卒初任給を重視して算定される。つまり両者は「マイナスのループ関係」にあり、互いに足を引っ張り合っている。相場情報が十分に流通すれば「マイナスのループ」を断ち切ることができるのですが、そのためには高卒就職の枠組みのうち次の2点を変えなければいけません。

 一つは、全ての高卒求人情報の唯一の源である「高卒就職情報WEB提供サービス」へのアクセス権を教育関係者限定ではなく、一般公開にすること。
 もう一つは、同WEBサービスの情報提供のあり方を、紙ベースの設計思想に基づくものから、統計処理が可能なデジタルデータベースに変更することです。

 この2点の改善により相場情報の不足はすぐに解決できます。そうすれば最低賃金ギリギリの求人票を出す求人事業者は激減し、市場は健全化するでしょう。また、高校教員の負担が大幅に軽減されますし、生徒の求人票選びもぐっとスピードアップします。これらの変化は、生徒の「よりよい就職」にとって必ずプラスに働き、高校生の就職だけに限らず社会全体の利益をもたらす・・・ このような考えから私は、高卒求人の相場情報を提供したり、提言を行っております。

 こちらのホームページで全国の相場情報を提供しています。昨年度のものは全国、今年度のものは現在、北海道・東北・関東・愛知・関西を掲載しています。就活中の高校生や保護者、先生方、求人事業者など、どうぞご活用ください。

  とくに注目していただきたいのは待遇分析度数散布グラフです。縦軸に年間休日数、横軸に月給を取ったグラフ上で、個々の求人票(青い点)がどの位置にあるかを表します。全体の相場と、自分が見ている求人票の待遇がどれぐらい良いのか、または良くないのかを一目で判断することができます。グラフの右上が「給料も高く休みも多い」、逆に左下が「給料も安く休みも少ない」求人票ということになります。

東京2021全求人

岩手2021全求人

 上は今年(2021年)7月から8月にかけての東京都(4485件 17,621人)と岩手県(1996件 4,902人)の公開高卒求人の分析です。とくに月給面で大きな差があります。平均値はこのようになっています。

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 高校生が応募先探しをする上で、このような相場情報を知った上するのと、知らない状態でするのとでは大きな違いがあります。月給が1万円高くでも月当たり労働日数が1.5日多ければ逆にマイナス評価(グラフでは右下寄り)になるのですが、求人票だけだとよほど見慣れた人でないと見抜けないものです。

 今年度(令和3年度)は就職試験解禁日が従来の9月16日に戻りました。この短い期間のうちに志望先を決め、応募準備を整えるため就活高校生諸君と支援にあたる先生方は大変な毎日を過ごしていることと思います。

 みんなが良い就職先と出会えるよう応援しています。先生方も少しでも休みが取れますよう祈っております。


(タイトル画像は、厚生労働省「新卒者の早期離職状況調査」の一部。上段が卒業3年目、中段が2年目、下段が1年目に離職した率を表すもの。昭和62年3月卒から平成31年3月卒までの統計。約40%から50%の状態が30年以上続いている。皆さん、この統計をどう見ますか? こんなに辞める・・・それも確かでしょうが、辞められた職場がこれだけある・・・採用した若者に「続けたい」と思わせることができなかった職場がこれだけある・・・こういう見方も成り立つと私は思うのですが・・・どうでしょう?)


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