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人と比べなければ、なにが違っているのか、なにが自分のオリジナルなのかもわからない。

「だからかな、僕が人と自分の比較ばかりするのは。そのせいでよく、劣等感にやられるけど……しんどいときは家にこもって、気の赴くままにギターを弾いていると、自分が戻ってくることもある。回復したらまた外に出て、比較と点検をくり返す。失敗したときは特に、分析が必要。『どこがダメだったのかな、どうすれば改善できるだろう』って、他人事みたいに自分を分析する」
「その感じ、わかる。わたしは、いつも『もうひとりの自分』が、上から自分を見てる感じ。研究者みたいに、自分を観察して、攻略本をつくってるみたいな」
「攻略本! めちゃくちゃわかる。そうだよね、自分は自分なんだ、どこまでいっても……僕さ、人の話を聞いてるときに、表面ではすごく聞いてるフリしながら、頭では完全に聞き流してることが多いんだ。それって、ただ面倒くさがりだからかなって思ってたけど……ちがうのかも。僕は、自分は自分だって思ってる――思いたいから、人の話を聞きすぎないようにしてるのかも。自分を知り、高めるためには、たくさんの人を知って、自分と比較しないといけないけど――それをやりすぎて、人のルールで動いちゃったら意味がない。人はあくまで参考なんだ。僕の人生は、僕のルールで動かすべきだ。最終的には、そこに人の同意を得る必要もない」
「……どうしてそう思うんだろう? 自分のルールで動かしたいって」
「……責任をとるため」
「責任」
「うん」悧麗はうなずく。「人の意見で動いたら、失敗したときに人に責任を帰してしまう。それは大人の態度じゃない。自分の意志なら、自分で責任をとろうって思えるよ。けじめをつけられるかどうか。それが大人だと思う」
「『立派な大人』になりたいの?」
「……うん。そうだね。その気持ちはずっとあると思う。だからほんとうは、いつまでもあんな感傷的な音楽をやってちゃいけないって思うんだ。いつまでも少年時代を引きずってちゃ……」
「……だめなのかな? どうして、大人になりたいの?」
「……そうしないと……認められないから?」
「それは、自分で自分を認められないってこと? それとも、人から認めてもらえない?」
「……どっちだろうね。前者でありたいとは思うけど。後者だとしたら、話がおかしいし……情けない」ハハ、と乾いた笑いを漏らす。
「……『大人』ってなんなのかわからないけど、無理になろうとする必要はあるのかな。完全な『大人』も、完全な『子供』も、いびつな気がする。……ずっと思ってたんだけど、悧麗くんは手がすごく綺麗だよ。知ってた?」
 悧麗は自分の手を、人のものでも見るみたいにたしかめてみて、「ありがとう」と答える。
「うん。……ずっと楽器をしてたから綺麗なのかもしれないけど、自分自身のものでもあるでしょ? 生まれ持った……子供のころからの。悧麗くんの手は、いろんな言語を話すみたいに、ほかの人の音楽を演じられてすごいな、って思うけど、やっぱりたくさんの演技のあいだに、悧麗くん自身の固有のスタイルがあって……それがすべてを支えてる。過去の自分を切り捨てたら、ぜんぶ崩れてしまうかもしれない」

上記の会話は、『ファミリーレコード』という執筆中の小説の一部です。

『ファミリーレコード』についてはこちら⇒2年以上かけて会社も辞めて書いてる小説、『ファミリーレコード』について

天秤座のキャラクター・悧麗(リウラ)と、水瓶座のキャラクター・亜句恵(アクエ)の対話です。

天秤座は9/23~10/23生まれ、水瓶座は1/20~2/18生まれとされています。


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