たなか ひろき

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2年以上かけて会社も辞めて書いてる小説、『ファミリーレコード』について

タイトルのとおり、僕は無職になってまで時間をつくり、一本の小説を書き続けている。 『ファミリーレコード』という小説だが、たぶんこの小説でやっていることはまだ他の誰もやっていない。 普通の意味で「小説を書く」というレベルではない、複雑怪奇なプロジェクト。 あまりに面倒なことをしているため、せっかく人が興味を持って聞いてくれても、ちゃんと説明ができなかった。 この機会に、どういうことをやってるのか整理しておきたい。 たぶんこの創作過程自体が、一つの読み物、人生論、創作論

    • 普通の朝

      朝のニュースで ガザ地区の悲惨な様子が流れる ぐったりした子どもたちの姿を見ながら 自分の息子の姿を その子たちに重ねる 向こうの部屋で息子が泣いた 息子を連れてきて 壁にかかったテレビの下に置いた 病院への資源供給が断たれ 明日生きるか死ぬかもわからない支援者が 送ってきたメッセージ その下で 窓から温かな朝日が 息子に注ぐ 妻と四人の子どもを亡くした父親が 血まみれになった白い布 赤子の亡骸を抱えて訴える その下で 光のなかで 息子が僕に笑いかけた この

      • 悠季仁と桜

        家族ではじめて はなみに行った 産まれてはじめて さくらを見た きみの名は、 はじめての町を歩き 公園へ 青い空に白い線 あれはひこうき雲って言うんだよ ぼくも 見たのは久しぶり 目に入ってたはずなのに まるではじめて見たような 桜の木の下 花びらの絨毯の上 レジャーシートに 横たわる 枝々の影と木漏れ日が きみに模様をつくってる 外では眠ってばかりの きみが目をあけて 世界を見る 瞳にうつる 青空、さくら、ぼくの影 きみは見る 不思議

        • 産まれてきてよかったな

          感動をことばにするのは無粋なことかもしれない。 現実のできごとの細部、感情や感触まで完全に再現できることばなんて存在しない。 ことばは必ずなにかを歪め、削ぎ落とす。 だけど、再現はできなくても、それがあったことを記録することはできる。 記録すれば、未来の自分が思い出せる。ほかの誰かにも、知ってもらえる。 だからこの文章を書くことにした。 2023年1月23日、息子・悠季仁(ゆきと)が産まれた。 コロナ対策のため、出産当日はガラス越しに一瞬しか会えなかった。 最

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        • 少女シリーズ
          5本
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          7本
        • 『ファミリーレコード』関連
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          2022年 良かったもの・こと

          本坂口恭平『土になる』 エーリッヒ・フロム『愛するということ』 桜庭一樹『ファミリーポートレイト』 漫画魚豊『チ。-地球の運動について-』第5集、7集 新井英樹『ひとのこ』 藤本タツキ『さよなら絵梨』 タイザン5『タコピーの原罪』 演劇安住の地『iplay!』『凪げ、いきのこりら』 ペトリの聲『満月』 共通舞台『Why theatre? Why you?』 劇団ケッペキ『無差別』 ダンススタディーズ1#6『透明なパズルをつかまえて』 映画クリストファー・ノーラン『インセ

          2022年 良かったもの・こと

          ダンススタディーズを観て思ったこと「美しい自由」

          2/27、東山青少年活動センターで行われた『ダンススタディーズ1#6』修了公演を観てきた。 ダンス初心者も含む8名のダンサーによるコンテンポラリーダンス。 とても面白かった。 会場アンケートにかなり長文の感想を書いたのだけど、後になって書きたいことが出てきたので追加でここに書きます。 「コンテンポラリーダンスって何?」 僕もよく知らないけど、調べたら コンテンポラリーダンスとはテクニック、表現形態に共通の形式を持たない自由な身体表現=ダンスです (引用元:神楽坂セ

          ダンススタディーズを観て思ったこと「美しい自由」

          演劇ビギナーズユニットで役者をやってみて思ったこと、変わったこと

          京都市の東山青少年活動センターが主催している、演劇ビギナーズユニット。 下は中学生から上は30歳まで、演劇初心者(およびそれに準ずる人)が集まり、3ヶ月ほどの講座と練習期間を経て一つの劇を創り上げ、公演を行う。 僕は2021年度のビギナーズユニットに参加し、生まれて初めて役者として舞台に立った。 得難い発見がたくさんあって、細かく書きだすときりがないのだけど、なるべくサクッと感想や気づいたことをまとめてみたいと思う。 ①演劇をやるのは大変いきなりそれかよ……と思ったか

          演劇ビギナーズユニットで役者をやってみて思ったこと、変わったこと

          2022年1月 良かったもの、考えたこと/受け継がれていくもの、祈りについて

          演劇:安住の地『iplay!』金沢公演『iplay!』は「ユニ・ベース」という未来の架空のスポーツを巡る「令和流スポ根演劇」だ。 「スポ根モノ」らしい圧倒的な熱量を、役者の生の身体や、迫力の音響・照明で表現する。 目の前で、自分の身体を通して「生きた熱」に震えるという、演劇の醍醐味をこれでもかと言うほど味わえる作品。 笑ったり泣いたり大変だった。 ただ、『iplay!』の伝える「熱」は単なる「スポーツの熱狂」ではない。 「スポーツを巡る人間ドラマ」への感動が大きかっ

          2022年1月 良かったもの、考えたこと/受け継がれていくもの、祈りについて

          てんとう虫女のバラッド

          「先輩? 卒業証書とチョコレート、どっちがほしいですか?」 「バレンタインデーはもうずいぶん遠くなってしまったが」 「馬鹿な、わたしはあんとき旅行していたんですから、ノーカンです」 「でも、一週間後くらいには、帰ってきていたよなあ!」 「生意気なことを言っていたら、ネカフェで犯しますよ」  犯すといったって、跨がられたのは胸の上だった。構造上、股間はパソコンの乗った板の下の暗闇に入っている。 「あの、胸が苦しい。俺、言ってなかったっけ喘息持ちで、あばら骨も人より弱いし、折れて

          てんとう虫女のバラッド

          死者の思春期

           私たちの体の特徴は、紫・腐敗・異様に白くて、すぐに破れる。  でも、黒い髪の毛や制服で、体の多くが覆われているから、白い肌はあまり人目につかない。  私が、池のそばの道を歩いて帰っていたら、前方から男の子が、シャボン玉を吹きかけてくる。  私たちのなかには、目玉が溶け落ちそうになっている私がいる。涙は白くて、目玉もほとんどが白くて、溶け出している白目と涙の区別がつかない。  指が取れそうな私もいる。ネズミの肌と、同じ色をした指。左手の薬指、せっかく銀色に輝く指輪をもらっ

          死者の思春期

          わたしと魔王

           魔王とは小学校で一緒だった。  しゃがんで飼育小屋のうさぎに餌をやる魔王の顔には笑顔が張りついていた。わたしが後ろから声をかけると立ち上がって振り向いた。笑顔は完全に剥がれていた。 「なんで入ってやらんの」わたしは飼育小屋を指差した。「やりにくいやろ」  魔王は金網のあいだから野菜を差し込んで食べさせていた。 「怖いん? 魔王のくせに」わたしは笑った。 「おれは昔、うさぎの足をつかんで逆さにして、ナイフで腹をかっさばいた。腸がぼたぼた落ちた。ハエがたかった。酷かった。それを

          わたしと魔王

          映画『ドライブ・マイ・カー』感想。演技という名の罪と救い。真実、奇跡、愛、信仰

          (ネタバレありの感想です) 京都シネマで、濱口竜介監督の最新作『ドライブ・マイ・カー』を観てきた。 傑作だった。濱口監督の映画、これまでに5本観てるけど、自分的には全部傑作だったのですごいと思う。 映画監督に限らず、自分の中で「5作品みて全部傑作」という創り手は今のところ他にいない。 しかもほぼ毎作品泣いている。『ドライブ・マイ・カー』でも涙が止まらず映画館で嗚咽をこらえるのに必死だった。 僕は極端な例かもしれない。そこまで感情移入できないという人もいるようだ。

          映画『ドライブ・マイ・カー』感想。演技という名の罪と救い。真実、奇跡、愛、信仰

          人と比べなければ、なにが違っているのか、なにが自分のオリジナルなのかもわからない。

          「だからかな、僕が人と自分の比較ばかりするのは。そのせいでよく、劣等感にやられるけど……しんどいときは家にこもって、気の赴くままにギターを弾いていると、自分が戻ってくることもある。回復したらまた外に出て、比較と点検をくり返す。失敗したときは特に、分析が必要。『どこがダメだったのかな、どうすれば改善できるだろう』って、他人事みたいに自分を分析する」 「その感じ、わかる。わたしは、いつも『もうひとりの自分』が、上から自分を見てる感じ。研究者みたいに、自分を観察して、攻略本をつくっ

          人と比べなければ、なにが違っているのか、なにが自分のオリジナルなのかもわからない。

          境界線=ルールとの戦い。あたらよ『はい、げんきです。』を観て思ったこと

          8月22日、京都の華山寺というお寺で劇を観てきた。 あたらよという劇団の『はい、げんきです。』という劇だ。 いろいろ計算されていて、新しさもあって、考えさせられもする、とても面白い公演だった。 まず、お寺で劇を観るのは初めての体験だったし、それだけでも新鮮だったのだけど…… 入場してからもびっくりした。 会場は、畳張りの和室に長机が並べてある。 客席は二つに分かれて向かい合い、そのあいだに二つの長机があって、役者はそこで演技をする。 つまり、舞台と客席のあいだに

          境界線=ルールとの戦い。あたらよ『はい、げんきです。』を観て思ったこと

          ファースト・アンド・ラストブロー

           誰よりも美しいボクシングをしていた兄と、こわれた家族の物語。  僕はこれまでいくつの「舞台」を見てきただろうか。暗闇の中で観客たちが静かに目を瞠っている、大きなホールの舞台はもちろん、街中の空き地や、山の中で出くわした何でもない空間も、すべて僕には舞台に見える。誰かが立つのを待っている舞台に。  自分が演者として舞台に登ることを、僕は避け続けてきた。そこは僕のための場所ではないからだ。にもかかわらず、あ、舞台だ、と思える空間があれば、近づいてしまう。人と一緒にいるときでさ

          ファースト・アンド・ラストブロー

          水槽の見る夢(後篇)

          前篇はこちら⇒水槽の見る夢(前篇)  私が最初に担当した子供は、永遠に繰り返される夏の夢を見ていた。 「彼は、夢の中で人生を生きています」と職員が私に説明した。「彼は、親の下に生まれ、成長し、幼稚園へ行き、その後、小学校、中学校、高校、大学へ進学し、大手とも零細とも言えない規模の、電気機器メーカーへ入社、三十三歳で結婚し、子供も産まれます。それまで、彼には三十三回の夏が訪れたことになりますが、そのうち、小学生の間に過ごしたいくつかの夏が、特別なものとして、彼を縛り続けます。

          水槽の見る夢(後篇)