見出し画像

最近読んだ本についてのメモ(12冊)

3月下旬に読んだ本について、感想などを書いてみる。


コンビニ人間(村田沙耶香著:文春文庫)

第155回芥川賞受賞作。
話題作だからという理由だけで選んだ本だったが、思っていた以上に面白く、2時間ちょっとで読破した。
率直な感想として、この作品は発達障害者(とりわけASD者)の視点から見た世界と、定型発達者の生態を描いたような内容だと感じた。
コンビニ店員として働く主人公(古倉)と、物語の後半から主人公と同棲することになる(恋愛関係にあったのではない)コンビニ店員(途中でクビになる)の男性(白羽)は、発達障害的な要素を持っていると思う。
そして、主人公が働いているコンビニの店員、店長や、彼女の妹、友達といった人たちは、発達障害ではない定型発達者たちだろう。

定型発達者から見て、発達障害者はどうしても「異質」な存在として映ってしまう。異質な者はその存在を糾弾され、嘲笑される。
そんな発達障害者の見えない苦悩を描いた作品だと思った。
私もASDを抱えているので、何となく主人公にシンパシーを感じた。

また、作品とは関係のない話だが、昨年の大晦日に某飲食店で店員から嫌な目に遭った時に、noteの記事で自分という存在を「異質」な存在と捉え、異質なものは排除されるということを書いたが…

この「コンビニ人間」でも、主人公が「私、異物になっている。」と感じるシーンや、白羽がコンビニをクビになったことを「私が異物になったときはこうして排除される」と表現している部分があり、これが私が上記の記事で書いたことと妙にシンクロしていたので、何だか嬉しい気分になった。

「読書メーター」などのサイトで他の人の感想文を見てみると、この作品を「気持ち悪い内容」と評価している人が少なからずいたのが印象的だった。
私個人的には特にそういった内容はなかった(強いて言えば、主人公の幼少期のエピソードが、いささかASDの特性を大げさに描いている感があるとは思った)ので、もしかしたら定型発達の人は気持ち悪いと感じるのかもしれない。

ちなみに私は、主人公だけでなく「白羽」という男に結構共感できる部分があった。
ASD持ち、アラサー、定職に就いた経験なし、恋愛経験なし、友達ゼロの私にとって、白羽は未来の自分なのかもしれない。

浮沈・踊子 他3篇(永井荷風著:岩波文庫)

「三田」に関係していた人間として、三田文学に貢献した永井荷風の作品を読んでみたいとかねてから思っていた。
この作品が私にとっての「初」永井荷風だったわけだが、想像以上に面白かった。
特に何が面白かったかというと、主人公の女性が色々な出会いをしていく描写が鮮やかに描かれていて、これが戦時中に書かれた作品とは思えなかった。

徳川時代の宗教(R.N.ベラー著、池田昭訳:岩波文庫)

タイトルに惹かれて読み始めた。
序章が何だか読みづらく、「全部読むのは無理かな」と思っていたのだが、それ以降は結構読みやすく、且つ面白かったため、難なく読み進めることが
できた。
日本の宗教が政治や経済に与えた影響について論じられており、自分の国の宗教と、それに付随する価値観について改めて考えるきっかけになった。
日本は無宗教の国と言われるが、神道や仏教などあらゆる宗教の影響を受けているわけで、また福沢諭吉が「文明論之概略」で述べているように、宗教勢力が国家権力に取り込まれていたことによって、封建社会に都合の良いように宗教が使われていたことが分かる。
また、石田梅岩の「石田心学」に関する記述に多くのページが割かれており、ここが特に面白いと感じた。

北千島占守島の五十年(池田誠著:国書刊行会)

太平洋戦争終戦直後、ソビエト連邦による侵略がきっかけで始まった、「占守島の戦い」が起きた占守島について書かれた本。
1990年代に、戦没者遺族者や生存者たちが占守島に訪れる機会(慰霊巡拝)があり、その時の模様が克明に記録されている。
興味深かったのは、慰霊巡拝の際の厚生省(当時)の役人やマスコミ記者(NHK)の行動や言動が、遺族及び生存者を愚弄したものであったことが、著者の論考によって明確に指摘されていたことである。
その他にも、新聞報道だけでは分からないような詳細な背景が書かれていただけでなく、占守島の戦いが日本にとって如何に重要な戦闘であったか(ソ連の北海道侵攻を防いだ)かが分かるので、たくさんの人に読んでもらいたいと思った。

日本宗教事典(村上重良著:講談社学術文庫)

古代日本から昭和の新宗教に至るまで、日本の宗教に関する知識を一通り概観し、学ぶことができる素晴らしい本。
情報量の多い本なので読み切るのは大変だが、内容はとても面白い。
日本史を簡単にしか学んだことがなかったので、こんなことがあったのかと唸られる記述がたくさんあった。
図書館で借りるだけでは足りないので、実際に買ってみてさらに深く学びたいし、姉妹本の「世界宗教事典」も読んでみたい。

アイヌ神謡集(知里幸恵著:岩波文庫)

アイヌ民族による「神謡」をまとめた本で、日本語の他にアイヌ語がローマ字で書かれている。
北海道と言えばアイヌであるが、残念ながら今の北海道に住む人のほとんどは和人の子孫、もしくは「開拓」後に道外から移住した人たちで占められていて、アイヌの人と出会うことはほぼない。
しかしながら、日高地方は道内でも比較的アイヌの人口が多いことで知られ、現在でもアイヌの血を引く人が多くいるらしい。
そして、とある方の話によれば、日高地方ではアイヌの人に対する差別も比較的最近まで残っていたという。

「神謡」を読んでいて分かることは、アイヌ民族の動物や植物に対する感覚の鋭さというか、自然に生きる者全てを包摂するような力である。
北海道という大地を「開拓」したのは和人だと言われがちであるが、実際は和人がやってくる遥か昔から北海道で生活していた彼らアイヌ民族の文化を、僅かではあるが味わうことができ、本当に嬉しく思う。

札幌学(岩中祥史著:新潮文庫)

札幌学」と題された本だが、著者は名古屋出身で、しかも札幌に住んだことはないという。
そのため、おそらくは旅行などで札幌に訪れた際の経験などに基づいて書かれているのだろうが、意外と間違ったことは言っていないような感じがした。

単なる「札幌礼賛本」ではなく、ちょくちょく札幌のマイナスポイントも指摘しており、(喫煙率トップ、生活保護率の高さ、傍若無人な所、「官」に頼り切り、古い物を大事にしないところなど)その点は好感が持てた。
Amazonレビューでは、特に札幌出身者や市民からの低評価が目立っているが、普通のメディアなどでは出てこない、というか隠されている札幌の悪い部分もどんどん指摘されているから、それが気に障ったのかもしれない。
ただ、著者が隙あらば「すすきのの女性」の話をしようとしたり、北海道の女性は貞操観念が緩いと言ったりと、ちょくちょく女性に対する欲や偏見(実際に貞操観念が緩いかどうかは分からない、他人と関わる機会がないので)が垣間見える部分があった。
とはいえ全般的には面白く、札幌に興味を持っている人なら1度は読んでおくべき本だと思う。

日本共産党 革命を夢見た100年(中北浩爾著:中公新書)

日本で最も古い歴史を持つ政党、日本共産党の歴史をまとめた1冊。
新書とはいえ、情報量は非常に多く、共産党について学ぶ上で最適な本と言って良い。
読んでいて興味深かったのは、現在の日本共産党が、かつての日本社会党と同じような政治的ポジションを取っていると指摘されている点、そして日本共産党特有の「民主集中制」についての記述だ。

政治的ポジションの変化については、それだけこの国が全体的に右側にシフトしていることを示していて、これは立憲民主党など他の野党にも言えることだと思う。
(立憲民主党で「左」と揶揄される議員が社会党右派出身である点など)
民主集中制については難しいところが大きいが、最近も除名職員が出て話題になったように、やや古いやり方ではないかと思える部分もある。
「共産党」という3文字に引きずられがちな政党ではあるが、党の歴史や考え方について振り返ってみることで、どんな特徴を持つ政党なのかがよく分かったように思った。

売春島~「最後の桃源郷」渡鹿野島ルポ~(高木瑞穂著:彩図社)

三重県の志摩市にある離島、渡鹿野島で行われていた性風俗業についての取材をまとめた1冊。
渡鹿野島については、インターネットでその存在を数年前に初めて知って、変わった島もあるんだなと思ったが、それ以上立ち入ることはなかった。
この本では、渡鹿野島で性風俗が発展した歴史や要因、そして性風俗を一掃し、「クリーン化」を始めた島の現状を掘り下げている。
現役風俗嬢や、売春産業に関わっていた元反社会的勢力の男性など、さまざまな人が出てきて、知られざる渡鹿野島の真実を語る。
この国の暗部と言っても良かった渡鹿野島、いざ性風俗業が衰退してしまうと、わざわざ島に来る人がいなくなってしまい、どんどん賑わいがなくなってしまう、そのジレンマも浮き彫りになった。
現在でも僅かながら性風俗は残っているようだが、おそらく地方都市にあるデリヘルと大差ない状況になっていると思うので、全盛期のような雰囲気を味わうことはできないだろう。

シベリア抑留―日本人はどんな目に遭ったのか(長勢了治著:新潮選書)

太平洋戦争終戦後、ソ連によってシベリア等に抑留された日本人にフォーカスした1冊で、いわゆる「シベリア抑留」について学ぶことができる。
情報量が豊富な本で、これ1冊でシベリア抑留でどんなことが行われていたかを知ることができる素晴らしい本だが、著者の思想が垣間見える部分があったので、そこは少し気になった。
太平洋戦争を「大東亜戦争」と表記したり、満州事変やアジア侵略を正当化したり、戦前の朝鮮半島や現在の韓国を「事大主義」と評したりと、右寄りな部分が目立った。
その点は措いて、終戦後のソ連軍による蛮行や、抑留された日本人に行われた共産主義教育や「民主運動」など、改めて知ることも多かったので、戦争の悲惨さを再確認するためにも、読んでおくべき本だと思う。

ルポ自粛 東京の150日(朝日新聞社会部著、朝日新聞出版)

昭和天皇の病状が悪化してから、平成が始まるまでの期間、日本中で起きた「自粛」についてフォーカスした1冊。
当時の朝日新聞の記事をまとめた内容になっていて、昭和末期から平成にかけての日本の世相について学ぶことができる。
「自粛」というと、やはり2020年の新型コロナウイルス流行による自粛が記憶に新しいが、昭和天皇の病状悪化から、崩御に伴う自粛は、コロナのそれとは若干性質が異なると感じた。

コロナについては、もちろん自粛をしないと叩かれるという側面(「自粛警察」)はあったし、県外ナンバーに対するバッシングもあったが、感染症対策のための自衛として自粛をした人が多かったと思う。(私もその1人)

一方で、昭和から平成にかけての自粛は、「周りがやっているから」「右翼に叩かれるから」という理由で行われていることが多く、付和雷同しやすい日本人の性質を示しているように感じた。
しかしながら、面白いと感じたのは、自粛に対するカウンターも大きかったということで、(新聞が大きく見せるように報道しているだけかもしれないが)当時はまだ戦争を経験した世代が多かったこともあると思うが、「戦前戦中と同じ」と言っている人が多く、まだまだ現代よりマシな時代だったんだなと思えた。
ただそれと同時に、自粛や昭和天皇に弔意をあげること等について反対の声を上げたコリアンの人々に対して、「国に帰ったら?」という声が新聞読者から届いた(特に女性の読者から多く寄せられたというのが興味深い)ということも書かれていて、これは今と変わらないなと感じた。

ブックオフ大学ぶらぶら学部(武田砂鉄/大石トロンボ/山下賢二/小国貴司/Z/佐藤晋/馬場幸治/島田潤一郎/横須賀拓著:夏葉社)

ブックオフ探訪をするようになり、ブックオフについてネットで色々と調べていたら、こんな本が出ていることを知った。
表紙のデザインがなかなか良く、街に佇むブックオフの雰囲気と安心感が、優しい色調で表現されている。

この本は、ブックオフを愛する8人が思い思いのブックオフ論を語るという内容になっていて、話と話の間に出てくる「ブックオフあるある」的な漫画も面白い。

特に興味深いと感じたのは、特定の本が本来のそれとは全く異なるジャンルに分類されている時、それを敢えて肯定的な視点で考えてみるという武田砂鉄氏、そしてブックオフに並ぶ商品を見てみると、どんな人がその商品を売ったかが1つの線のように見えてくるという山下賢二氏の論考だろうか。

その他、「せどらー」について述べたZ氏の論考は、せどりの類をほとんどしたことがない自分にとっては新鮮だった。彼(彼女?)はブックオフと「せどらー」は共倒れしたと述べ、「どっちもどっち」という感じで結論付けているが、欲を剥き出しにした「せどらー」によってブックオフが潰されたと捉えることもできると思う。
正直、純粋な知識欲や蒐集欲に突き動かされてブックオフを利用する人たちと、転売をして金儲けをするために利用する人では、同じ愛好家といっても次元がかなり異なるのではないかと感じた。
今現在は、せどりの勢いはかなり弱まったようで、いくらブックオフが全盛期と比べてショボくなったと言われても、せどりのいない今の方が快適ではと感じる。
まあ当時の様子を経験したことはもちろんないので、こんなことを言っても仕方がないのだろうが。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?