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読書記録(4月1~14日:12冊)


札幌の地名が分かる本(関秀志著:亜璃西社)

私は日頃から札幌のあれこれについて愚痴を言ってしまうことが多いが、札幌が嫌いというわけではもちろんない。
札幌の地理や歴史、交通などには凄く興味があって、暇さえあればいつも調べている。
図書館の郷土資料コーナーで発見したこの本は、タイトル通り札幌の地名にフォーカスした1冊となっている。
第1章では、札幌市10区の地名(例えば中央区であれば、大通東や大通西、盤渓、旭ヶ丘、宮の森など)の由来や歴史などを細かく解説している。
第2章では、アイヌ民族の時代まで遡りながら、札幌の地名(「札幌」を含め)がどのようにして名付けられ、変化していったかを説明した後、学校や公園、河川、鉄道駅、橋など、さまざまな場所に付けられた名前を分析し、その傾向や歴史を紐解いている。
字名改正事業によって、アイヌ語由来の地名が数多く失われたことにも言及されている。
改めて札幌の地名を概観してみると、自分の知らない地域や、地域の歴史がまだまだたくさんあることが分かった。
札幌移住から約2年、地下鉄沿線はもちろん全ての駅に降りたし、JRや路線バスでないとアクセスできないエリアへ訪問することも数多くあった。
それでも、まだ行ったことのないエリアが相当残っていて、札幌市の全てのエリアを制覇するのはかなり大変なことだなと思った。

県民性の日本地図(武光誠著:文春新書)

北海道から沖縄まで、47都道府県の「県民性」を、歴史や気候、地理的観点から分析した一冊。
私が住む北海道についての記述は、やはり「新しいもの好き」「おおらか」という他のメディアでもよく見かけるものだった。
それに加えて、離婚率が高い、水商売に抵抗のない女性が多く、すすきのの発展につながったと書かれていた。
全国で歴史が一番浅い地域なので、北海道についてはかなりあっさりとした記述になってしまっているが、欲を言えば地域別(道南や道北など)の説明もあるとさらに良かった。
それ以外の地域は、特に西日本を中心とする歴史の長い地域は、古代からの気質が現在まで受け継がれているところや、江戸時代の藩政によって形作られたところなど、さまざまあり面白いと感じた。

両さんと歩く下町―「こち亀」の扉絵で綴る東京情景(秋本治著:集英社新書)

「こち亀」の作者が、作品に出てくる東京の下町(亀有、浅草、上野、神田など)を漫画の「扉絵」とともに案内している一冊。
寅さんで知られる「男はつらいよ」の監督、山田洋次氏と秋本治氏との対談の模様も収録されている。
私は浅草には一度しか行ったことがなく、亀有に至っては一度もない。
全く無知だが、その土地の歴史やランドマークに関する説明や、作品のエピソードも豊富に書かれているため、興味深く読むことができた。
下町に詳しい人が読めば、より楽しめると思うし、この本を見ながら「聖地巡礼」のために、実際に下町に出かけてみるとより楽しめるだろうと感じた。
扉絵の精密な描き方は目を見張るものがあり、「勝鬨橋」の開閉や三社祭など、実際に取材を重ねた上で作品を描いていることも多いらしいことも分かった。
首都圏に住んでいた時に、もっと東京のあちこちを散策しておけば良かった。

日本はなぜ貧しい人が多いのか 「意外な事実」の経済学(原田泰著:新潮選書)

経済に関する本のはずが、序盤からサッカーや少年犯罪の話になったりと、やや混乱する部分もあったが、まあ読みやすかった。
全体を振り返ると、サッカーや少年犯罪の話が本当に必要あったのかは疑問で、おそらく経済関連の話題が苦手な人でも取っ付きやすい内容にするために敢えて盛り込んだのかもしれない。(もしくは、データを用いて物事を判断するための重要性を伝えるためか?)
2010年頃の本なので、今読むには情報が古いのは否めない。
(さらに、当時は「若者世代だけ」とされてきた経済格差の増大が、今では中高年世代まで拡大しているという恐ろしい事実が…)
しかも所々議論が稚拙な部分が見受けられ、また大阪府の橋本元知事の施策(人件費をメインに費用を引き下げる)を成功例として紹介したりしている点は、若干違和感があった。
年金制度について筆者は、高齢者への給付を引き下げ、その分を現役世代に回すべき、多少減らしても世界的に見たらまだまだ高齢者福祉が充実している方だ、と語る。
どうなんだろうという感じだが、一口に年金世帯と言っても、夫婦両方が厚生年金を貰っている場合と、単身で国民年金の場合とでは経済的余裕の度合いが大きく異なるので、その点を含めてより詰めた議論が必要になると思う。
色々と異議を唱えたい部分もあったが、他の経済本にはないような視点からの分析はなかなか面白く、特に日銀の金融緩和に関する記述は、「デフレ脱却」「マイナス金利解除」が言われている昨今においては、今後を占う上で役立つ知識が得られたのではないかと思う。

首都感染(高嶋哲夫著:講談社文庫)

ワールドカップが行われていた中国から強毒性の新型インフルエンザウイルスが世界中に広まり、日本(東京)にもウイルスが上陸、感染者の増殖を防ぐために東京都心を封鎖する。封鎖によって都心圏外ではほとんど感染者が発生せず、封鎖は功を奏したが、都心では多くの犠牲者が発生した。
そして、日本人が開発したワクチンによってウイルスの脅威が急激に収まり、都心の封鎖が解除され、世界の感染拡大も収束するというハッピーエンドで物語は終わる。
巻末の「解説」では、高嶋哲夫の小説は未来を予言していると書いている。この作品も、2019年末~20年に発生した新型コロナウイルスの流行を予言しているような内容と言えなくもないし、事実そのように評している人が(コロナ後は)非常に多い。
私個人の意見としては、確かに未知の感染症(しかも肺炎を伴う)が中国から発生し、それが全世界を覆うというストーリーは、新型コロナの流行と全く同じものだと言えるが、これを単なる「予言書」と見做すのはやや考えが浅薄なようにも思う。
「解説」にもある通り、この本は平常時には意識されないような有事を作品に落とし込むことで、一般大衆の感染症に対する関心を惹くという役割を果たした本だと考えている。
災害にしろ感染症にしろ、「最悪の場合」を考えて防止策を取り組むのが理想的だが、実際は「金の無駄」「そんなこと起きるはずがない」と一蹴されてしまうことが多い。
高嶋哲夫作品は、このような短絡的な視点を否定し、長期的視点で国の未来を考えていく必要性を私たちに伝えたのではないだろうか。

白痴(坂口安吾著:新潮文庫)

個人的解釈(「白痴」に関して):太平洋戦争中、うらぶれた日々を送っていた主人公の部屋に、突如として「白痴」の女が転がり込んでくる。彼は彼女の普通の人間にはない性質に惹かれつつも、同時にそれを軽蔑していた。世間を見下していた彼が、世間と同様の考えに囚われていた。ある日、自分の家が空襲された時、主人公は女と一緒に逃げようとする。その時女が彼の言葉に静かに頷いてくれたことで、彼は女への愛情を強めるが、無事空襲から逃げ切った後、女があっさりと寝入ってしまう様を見て、兼ねてから抱いていた侮蔑の念が再燃してしまった。

坂口安吾の小説は相変わらず難解である。難解であることを素直に認めることは自分にとっての敗北を意味するが、勝負をするために読書をしているわけではないのだから、別に問題のないことだ。
戦時中の日本を舞台にした作品が多く、空襲に遭う場面が出てくるが、この描写には迫力があった。
解説」では、有象無象の私小説を批判しつつ、坂口安吾がロマンチストであると述べている。
確かに私の浅い理解でも、そのように思える部分は大きい。この「白痴」に収録されている7作品には、いずれも男女の関係が描かれている。
そこにはただただ女性の肉体を貪ることしかできない男の精神的葛藤というような、ダメ男の心境を吐露したようなものも見受けられる。
おそらく現代にもこのような類の男はいて、実際私は仕事もせずに彼女に寄生して、彼女のカネと肉体を貪って生きているという、30代のある男の存在を思い出したものである。
坂口安吾が、常識という概念を取っ払った男女の関係を描くことによって、読後に生じる不思議な余韻が形作られているように思える。
とにかく、常識というものは要らない。既成概念をぶち壊すという坂口安吾の姿勢が、登場人物にも乗り移っている。それは時に不快感すら催させるが、物語を読み終わるとなぜか何とも言えない余韻が残るのである。
なぜそのような感情が引き起こされるのかは私には分からないが、おそらく坂口安吾作品の魅力とはそういうところにあるのではないだろうか。
最後に、「青鬼の褌を洗う女」という作品の中で、力士が相撲勝負をする際の話が出てきたが、これは純粋に面白いなと感じた。

小説の方法(大江健三郎著:岩波書店)

難解な本だったが、特に「想像力」についての話が面白かったし、狭山事件の脅迫状や海外文学など、実際の例を示しながらの説明が多く、興味を持続しながら読み進めることができた。
マスコミュニケーションを含めたメディアの言葉が、支配構造によって覆われようとしている時代、個の言葉が如何に重要になるのか、また作家は「未来の経験」を文章で呈示することによって、原子力発電や核の悲惨さを示すことができるということを述べた最後の章は、現代にも充分通じる話だと感じた。
ただ、文中に引用されている文学作品のことを全く知らないと、いささか理解が難しいところがあるので、事前に読んでおいた方が良いかもしれない。(「戦争と平和」「特性のない男」「浮かれ女盛衰記」「ヴェニスに死す」「ドン・キホーテ」など)
小説をより理解しようとするための知識を学ぶ上でも役立つし、純粋に作家がどんなことを考えながら作品を書いているのかということが分かるので、読んでよかったと思う。

もういちど読む山川日本史(五味文彦、鳥海靖編:山川出版社)

山川出版社の本を手に取るのは、大学受験生以来約7年ぶりのことだ。
私は高校時代には社会の科目として地理を選んでおり、日本史はあまり勉強してこなかったので、改めて日本史を一通り概観してみたいと思った。
高校教科書のような体裁で、特に明治以降の記述は集中して読み込んだ。
ただ、日本史全体を薄く広く網羅しているので、情報量はそれほどではなく少々物足りない部分もあった。
読みづらいと感じる点もあった。
普通、振り仮名はその単語が初めて出てきたときに付けられるはずだが、この本ではなぜか2度目/3度目の登場で初めて振り仮名が振られていることが何度かあった。

図解 裁判傍聴マニュアル(鷺島鈴香著:同文書院)

取材や裁判スケッチ等の仕事をするために裁判傍聴をする人(有田芳夫氏など)のインタビューから始まり、刑事裁判・民事裁判それぞれの特徴の説明、そして実際の裁判傍聴の流れ、罪名などについても細かく解説されている。ちょくちょく出てくるイラストはかなり独特なテイスト。
傍聴席の両端列は事件関係者が座ることが多いなど、傍聴をしたことのない人であれば分からない情報が豊富に掲載されており、勉強になった。

ただ、1999年の本であるため、情報が若干古いところはある。(「ストーカー規制法」「危険運転致死傷罪」がまだ存在していない、公訴時効についての記述など)
また、後半には「NEWS FILE」と題して裁判になったさまざまな事例(薬害エイズ訴訟、リクルート事件など)が紹介されているが、最終的な裁判の判決については触れられていない(この本執筆時点ではまだ確定していない)事例もあった。出版直後であれば報道などで事実を確認できただろうが、現在ではいちいち調べなければならないので少し大変だ。

読んでいて一番印象に残ったのは、当時はオウムウォッチャーのジャーナリストだった有田芳夫氏のインタビュー記事。
有田氏は、統一教会やオウムにハマった人の共通点として、「反抗期がない」「父親との関係が希薄」「文学的想像力がない」「社会性がない」という4つの傾向があることを指摘している。
文学的想像力」という言葉の真意がよく分からないが、国語が苦手とか、登場人物の心情が理解できないとか、そういうことを言っているのかな。

私は父親との関係が希薄、社会性がないという点は確実に当てはまっていて、文学的想像力に関しては不明。反抗期は確かにあったので、こちらは当てはまらない。
宗教へのハマりやすさについては、普通レベルという感じだろうか。

神仏習合(義江彰夫著:岩波新書)

日本国内において土着の神道と仏教が時代とともに徐々に融合していった、所謂「神仏習合」についての本。
第1章では、どのような経緯で仏教と神道の融合が始まり、神宮寺が各地で建立されるかに至ったかを述べ、第2章では空海が密教を会得し、それを用いて真言密教を朝廷から認められるまでに至った過程を中心に、仏教が地方豪族を中心とする人々に浸透していった過程が説明されている。
第3章では、菅原道真が如何にして怨霊として恐れられるようになったか、またそれが平将門や藤原純友による反乱に与えた影響、そして祇園御霊会に代表される怨霊信仰について詳細に述べられている。
第4章では、「穢れ」を忌避する概念が登場した時代背景を解説し、仏教に見合うような価値体系を作るために構築された概念であることが説明される。
第5章では、穢れ忌避信仰を説いた「往生要集」に端を発した、本地垂迹説と中世日本紀によって、仏教が神道を抱き込む存在として発展した事実と、その経緯について述べられている。(神宮寺が建てられた時代には、神道が優位に立っていたがこの頃にはそれが逆転した)

新書のため内容は程よくマイルドで、さらに難解な用語には振り仮名も入っているため、神道や仏教に関する予備知識があまりなくても、すいすい読み進めることのできる本だった。
神仏習合が始まったのは、豪族や上位農民と私的所有を正当化するためだったという指摘、そして菅原道真に始まる怨霊信仰が、当時の社会に不満を持っている人々によって利用されていた、という話が特に面白いと感じた。
宗教がどのようにして変質し、社会に浸透していったのかを楽しく学べる1冊だと思う。

婚姻の話(柳田国男著:岩波文庫)

とりあえず分かったポイントを列挙する。
・私生児(結婚していない男女が生んだ子ども:現代では非嫡出子と呼ぶ)を生むことは、女性にとって大きな「恥」だった
・「夜這い」の意味するところが、地域によって異なる
・娘宿、若者宿の存在が、男女の交際において合理的に作用していた
・各地を回っていた遊女の存在、奄美大島や沖縄の話
・「嫁盗み」の風習・・・全国各地にあった
・女性に知らせない場合は少なかった、あらかじめ親などが承認、若連中の同意を得て、複数人で結託して嫁盗みを実行する
・嫁盗みは女性の側から見ても悪い話ではなかった?合理的に利用されていた部分があると指摘
・略奪婚の名残ではなく、仲人が上手くいかない場合に嫁盗みを実行していた?
・外側にこれを正しく導くような施設(結婚を仲介する仲人など)がなければ、自由(婚姻の自由)はその価値を発揮できない
・結婚せんとするものを結婚させようとする努力=嫁盗みの風習等に現れている
・男仲人の普及は、娘組・若者組といった団体が健全に機能しなくなったところから生まれた
・日本の婚姻に関して、民俗学から得られる知識を活用することは非常に重要なこと
・かつての歴史学が抱えていた問題=文書に書かれていることだけを重視し、それ以外は存在しないとしていた

結構難しい内容の本だった。
巻末の上野千鶴子氏による解説を読んで、おぼろげだった内容が、輪郭だけは少し見えるようになった気がした。
(上野氏が挙げていた、赤松啓介(実際に夜這いを体験し、その模様を記録した人)の本もいつか読みたいと思う。)
著者が何を言いたかったのかを考えてみると、「民俗学の観点から婚姻について考察することの重要性」「婚姻に関する仕来りは意味もなく生まれたものではない」「結婚相手を集落の外に求めるようになり、徐々に風習が変化していった、また武士階級の台頭による影響もあった」「見合いは古くからあったわけではなく、近代になって普及したもの」などだろうか。特に後半は難しく感じたので、あまり分かっていないことが多い。
色々な地域の風習が挙げられているが、外界とのかかわりの少ない島々(この本を読んで、高知県に沖ノ島という島があることを初めて知った)では、比較的最近まで特異な風習が残っていたといい、この点も面白いと感じた。

基礎から学ぶ刑事法第6版(井田良著:有斐閣アルマ)

学んだポイント
応報刑論目的刑論の対比
・責任能力と「非難」としての刑罰
・保安処分と大阪池田小事件がきっかけとなった心神喪失者等医療観察法
・罪刑法定主義の概念は当たり前だが民主国家にとって大事なこと
・犯罪の成立条件=構成要件該当性、違法性、有責性の3つ
・心神喪失は有責性が認められない
・道義的責任論の難しさ
・裁判員制度、裁判員はお金も貰える(最高1日1万円)
・被疑者の段階から国選弁護人を付けることができる
・参考文献として挙げられていた「刑務所の経済学」(著者の中島先生の授業を大学時代履修したことがある)に興味を持った
・刑務所の作業報奨金の平均は1月当たり4260円
・更生緊急保護対象者向けの施設である更生保護施設は全国に103、定員は2392人
・判例=基本的には最高裁、大審院判例
・文献の探し方=「いもづる式検索法」と「網羅的検索法」がある
・いもづる式検索法=教科書や参考書に引用されているものにまずあたり、図書館などで読んで、そこに引用されているものをさらに探す
・網羅的検索法=文献リストを用いてあるテーマについての文献を網羅的に入手する(例えば、法学関係の雑誌を用いて、最新の文献を網羅的に確認する)

法律のことをほとんど知らない私(非法学部卒)でも、すらすら読むことができる内容になっていた。
法学部生や法曹志望者だけでなく、普通の人でも役立つ知識が得られるので、読んでおくと良いと思う。

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