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南光坊天海が好んだクコ飯

角川書店新書『長寿の献立帖』にちなんだ料理のご紹介。

戦国時代から江戸時代にかけて最も長生きした人物といえば南光坊天海である。知名度はそれほどでもないようだが、徳川家康のブレーンとして江戸の都市計画から宗教政策に関与し、家康の死後も二代目将軍秀忠、三代目の家光と三代に仕えた。250年あまり続いた江戸幕府の礎を築いた僧侶だ。

宮地厳夫が編纂した「本朝神仙伝」(平安後期,大江匡房によって書かれた日本最初の神仙説話集)に

残夢好みて常に枸杞飯を食ひけり。天海もまた好みてこれを食ひたり。天海、人に語 りて曰く、「残夢が長生せるは、ことを速やかにせざると、枸杞を服せるが故なり」と

とありますが、天海はくこ飯なるご飯を常食していたよう。調べてみるとクコ飯とはくこの葉を炊き込んだご飯のようです。俳句の季語でも春とされ山口青邨の「枸杞飯やわれに養生訓はなく」という句がありますが、新芽は春にしか入手できないので「常に」食べることはできません。

いつも手に入るのは「くこの実」です。くこの実自体は古くから民間薬として用いられてきた素材で、中国ではお粥に入れたりしますから、炊き込んでもいいはず。というわけで早速、つくってみました。

クコ飯
米  300g(2合)
水  360〜380cc
塩  小さじ1/2
くこの実 20g

昔は白米じゃなかったじゃないかや昔の器は木だったぞ、など色々と突っ込みはあるかと思いますが、現代でもつくりやすいアレンジとご理解ください。

米は研いでざるにあげ、30分以上置いたものを使います。つまり、洗い米です。冬のこの時期は米が乾燥しやすいので濡れ布巾か濡らしたキッチンペーパーを上に載せておいてください。

くこの実は埃やゴミが驚くほどついています。お湯で洗ってから使いましょう。ボウルに分量のクコの実とお湯を注ぎます。軽く混ぜてからくこの実を引き上げればOK。

洗い米と水、くこの実と塩を加えて、あとは普通に炊き上げるだけです。

余談ですが、炊き込みご飯の場合は今回のように水、昆布出汁、もしくは薄めの一番出汁で炊くのがおすすめです。1.5番出汁だと少し旨味が強いので、炊き込んだ素材の味が負けるかもしれません。ま、このあたりは好みですが。

炊きあがり。米がかすかに色づいているのがわかります。

試食。くこの実の甘酸っぱさがアクセントになって、なかなかいい味です。色もアクセントになるので、たまになら良さそう。カレーと一緒に食べるバターライスにレーズンを入れたりするので、塩を入れずに炊いてカレーと一緒に食べるのもアリかも。

春先にクコの葉が手に入れば塩と水で炊き上げたところに、茹でてから刻んだクコの葉を混ぜ込みます。クコの実を健康食品として食べるのは健全ではなく、食べたから長寿になれるわけではないですが、たまには変わった炊き込みご飯として楽しむのもいいですね。


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