見出し画像

トランスグルタミナーゼを使った成形ローストビーフ

今回登場するのはトランスグルタミナーゼを使ったテクニック。トランスグルタミナ ーゼはタンパク質架橋化酵素という肉や魚の身のタンパク質同士をくっつける接着剤 。ざっくりいうとプロテアーゼ(タンパク質分解酵素)の逆の働きをする酵素です。

味の素社が放線菌から取り出すことに成功し「アクティバ」という商品名で販売しています。ちなみにトランスグルタミナーゼは自然界にも多く存在し、特に動物の皮膚に多い酵素。正しく使えば安全なのでご安心を。

一般的にはかまぼこなどの水産加工の分野での活用が期待されている添加物で、このトランスグルタミナーゼを使用することで減塩も可能になるそう。また欧米ではグルテンフリーのパンに添加されていますが、料理の世界では肉の接着剤として使用されています。

例えば牛ヒレ肉のパイ包みをつくる時、ヒレ肉の先の細い部分はこれまで使えませんでしたがトランスグルタミナーゼを振って折りたためば1本のヒレ肉に早変わり、というわけ。三つ星レストラン、FatDuckでも鳩肉の料理に使用されています。薄くボリュームのない鳩肉を二枚重ねることで厚みが出し、火の入り具合も良くなる、というわけ。三つ星レストランの料理ではなくても例えばキエフ風チキン(なかに溶かしバターが入った鶏胸肉)を完璧につくることもで可能になりますね。

このような添加物は使い方がポイントで、例えば牛肉と豚肉(あるいは鶏肉でもいいですが)をくっつけることもできますが、意味がまったくありません。しかし、ホタテにベーコンを巻く時に使うと、ぴったりとくっついて剥がれないので便利という具合に有効な使い方を考える必要があります。

トランスグルタミナーゼはTransglutaminase やACTIVA、Meat Glueなどの商品名称で市販されています。TI FormulaとRM Formulaの2種類があり、厳密にいえば成分と使い方に違いがありますが、基本的に接着用途のみであればMeat Glue(RM Formula)を購入すれば大丈夫。
日本では業務用のみで小分けでは売られていませんが、Amazon.comから個人輸入すると少量購入することができます。(追記:amazonと書きましたが販売しているのは Modernist Pantryで、発送をamazonパターンでした。Modernist Pantryから直接、買うことももちろんできます)注意点としては開封後は力が弱まっていくので、保存は冷凍庫で。少量ずつ買うのがベター。

今日はアメリカ産肩ロースブロック肉を使います。西友で買ってきました。この肩ロ ースという部位は難しい部位。

というのも通常に焼くとこの筋が硬くておいしくないのです。煮れば問題ないのです が、赤み部分はおいしいのでもったいない。

中心に太い筋が見えますね。よくステーキを焼くときには筋切りをし ますが、切ったところで硬い物は変わらないので無意味です。さて、どうしましょうか。そこで登場するのがトランスグルタミナーゼというわけ。

筋は取りのぞいてしましょう。まずは手で引っ張れば肉は剥がれます。

包丁で筋と膜(シルバースキンと言います)を切り取っていきます。この時、まな 板などは殺菌し、肉の外側についた細菌が内側に入りこまないように気をつけましょう。 (手袋もしたほうがベターです)

トランスグルタミナーゼを茶こしでふりかけていきます。(粉に手を突っ込んだり、粉を吸い込むと身体に良くないので注意してください。室温に数時間置いておくだけで酵素はやがて力を失うので少量なら大事にはいたりませんが、人間の身体もやはりタンパク質なので)

ラップでぐるぐる巻きにして肉を圧着させます。

可能であれば真空包装機にかけて空気を抜き、肉同士をさらに圧着させます。真空包装袋に入れる際はラップに穴を開けておきましょう。この状態で冷蔵庫で12時間寝かせます。そのあいだに酵素が働き、肉同士がくっつく、というわけ。

肉がしっかりくっつきました。

そのまま調理してもいいのですが、今回はとりだして表面を焼きました。完全に一体化しているのがわかります。

再び真空包装袋に戻すか、ジップロックにいれて58度で8時間加熱します。

時間になったら袋からとりだして、ここで塩、胡椒を振り、バターで表面を焼いてき ます。バターで焼くことで香ばしくなります。この時、タイムとニンニクをいれると なおよしです。

ちなみに袋に残っていた肉汁はそのままではおいしくありませんが、フライパンで充分に加熱するとおいしいジュをつくることができます。袋の肉汁をフライパンに注ぎ、水分がなくなるまで加熱します。

鍋底に肉汁がこげついてきたら、水かストックを100ccほど入れて(写真は水を入れ ています)さらに煮詰めていきます。濾して塩、胡椒で味をつければジュの完成で す。好みでバターを加えてもコクが出ます。

肉を切ると断面はこんな感じ。まるで一つの肉だったかのようです。ちなみに食品偽装で問題になった成型肉はカゼインナトリウムなどで固めている代物で、技法としてはハンバーグに近く、これとはまったくの別物。トランスグルタミ ナーゼを使うとタンパク質同士が繋がるためまず見分けはつきません。

皿にとりわけジュをかけます。

出来上がり。肉はしっかりとくっつき、筋もないのでやわらかく食べることができま す。肩ロースがまるでロースのような仕上がりです。結着肉は表面についた大腸菌などに注意する必要はありますが、安い肩ロースを有効に使え、コストの削減、食材の有効活用にも繋がります。いい技術にするのも悪い技術にするのも使い方次第といったところ。

トランスグルタミナーゼを使ったテクニックは例えばハーバード大学の「科学と料理 Sceience & Cooking」という講義の動画のタンパク質と酵素の回でも詳しく説明されています。動画の調理例は応用編でピーナッツバターでヌードルをつくったり、大麦にゼラチンを混ぜて固めたりしています。タンパク質同士をくっつけるという性質を憶えておけば色々応用できるはずです。

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

note.user.nickname || note.user.urlname

撮影用の食材代として使わせていただきます。高い材料を使うレシピではないですが、サポートしていただけると助かります!

ありがとうございます。料理のリクエストがあればコメントに是非
74

樋口直哉(TravelingFoodLab.)

樋口直哉 作家・料理家 主な著作として小説『スープの国のお姫様』(小学館)ノンフィクション『おいしいものには理由がある』(角川書店)など。新刊『新しい料理の教科書』が1/17日に発売されました!

料理好きのための21世紀料理教室

低温調理、エスプーマをはじめアルギン酸のカプセルなどの分子料理のテクニックを解説していきます
4つ のマガジンに含まれています
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。