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サクセッションプランの実行は、パズル式よりも積み木式が良さそう、という話

”実務協業型”人事制度構築・導入支援を行うTrigger 代表の安松です。

事業成長の要となるキーポジションを、常にその時のベストの人材に担っていてほしい、というのは経営リーダーの皆さんの等しい想いなのではないかと思います。事業はやはり「人」-誰がその仕事を担うかが大事です。
したがって、キーポジションを次に担う人材・その次に担う人材にいかに目途をつけていくかは、経営者・人事の主要課題の1つです。

私はこれまでいくつかの会社で、組織を支えるキーポジションのサクセッションマネジメント(後継者育成計画)の仕組みづくりと運用に携わってきました。サクセッションマネジメントの仕組みづくりについては、メソッドも多く幅広い認知を得ていると思いますので詳述しませんが、実際に作った仕組みを運用する中で感じてきた、運用側が持つべきスタンスといったものについて書いてみようと思います。それは、サクセッションプランの実行は、どうやら「パズル式よりも積み木式」がうまくいきそう、というものです。

1.サクセッションマネジメントのステップ

そうはいってもよくあるサクセッションマネジメントの仕組みづくりのステップについて整理すると、次のようなものが一般的だと思います。

図1

対象とするポジションを決める ⇒ そのポジションの役割・責任およびそれらを担うために必要なポジション要件を決める ⇒ 現任者の経験を参考にしながらそのポジションに就くために必要な経験を洗い出す ⇒ ポジション要件に該当する候補者を選ぶ ⇒ その人材の経験・実績・スキル等について棚卸しする ⇒ 候補者の個別育成計画を考える ⇒ 育成計画を実行する。

このプロセスで言う人材レビュー/個別育成計画づくりあたりまでは、割とロジカルに設計することができるのですが(ゆえにコンサルティング会社の得意領域でもある)、その後工程を事業会社側で引き取ってやってみると、作った育成計画どおりに候補者のアサイメントを行うために組織や人を動かしていくのはとてもとても難しい、という問題に直面します。

2.経験資源は、その時々で限られている

そもそもサクセッションマネジメントというのは、「良質な経験」という組織内で非常に限られた資源を、将来のリターンが最も高い人材に優先的に配分していくという取り組みです。したがって、選出された候補者たちは、経験資源の優先的配分権を得る人たちなわけです。しかし、例えばあるキーポジションに対して10人の候補者がいたとして、10人それぞれが将来のキーポジション就任に向かうキャリアプラン(そしてその多くはポジション就任計画)を作ったとすると、その10人においてすら、経験資源(ポジション)が不足する状態になっている、ということがほとんどなのではないか、と実感しています。ここに、サクセッションプランの実行が頓挫しがちな理由があると思うのです。サクセッションプランはプラン通りにいかない構造がある、ということです。

3.ある部門長のアイデア

ある組織で、サクセッションマネジメントの仕組みづくりを行い、実行を模索していたとき、私たちはちょうど2に書いたような状態に直面していました。候補者複数人の選出を行い、この優れた人材にアサイメントするポジションを検討していたのですが、その年度の組織体制とポジションの状況からして、適切な空きポジションがどうしても見つかりません。もちろん、候補者間の優先順位も考えるのですが、ポジションと人材をパズルのように当てはめていこうとすると、うまくいかないのです。

この組織の部門長ー「組織やポジションの状態は事業環境によって常に変わるから、候補者個々の育成計画で立てたポジション就任計画をピースをはめるように考えていてもうまくいかないね。候補者全員をタテに並べた上で、5年くらいの少し広目の期間を1単位として、この単位期間で積んでほしい経験の性質を定義した方が、特定のポジションに縛られず、アサインメントが考えやすいかも。」

これを聞いたとき、私は子どもが複数人集まって、積み木で塔を作るようなイメージだと思いました。積み木で塔を建てるとき、土台部分⇒中間部分⇒先端部分と積み上げていくわけですが、何人かの子どもが集まってこれをやると、積み木のパーツがどんどん減っていきます。したがって、例えば中間部分を作る時に、本当は大きな円柱1つが欲しくても、パーツがない場合は、小さい別の形の積み木2つで中間部分をつないだりします。

図2

子どもたちは、「このあと先端部分を積み上げるベースとなるべき中間部分には、『一定の高さと強固さ』という性質が必要」であり、それにぴたりと当てはまる積み木(ポジション)がなくとも、場に転がっているほかの積み木(経験)の組み合わせによって、中間部分に必要な性質を確保しようとします。これと同じではないかと思いました。

このような発想で、
①就任ポジションのパズルという発想から、ある幅広な期間でしてほしい経験の性質という発想への切り替え
②候補者全員を並べて、その期間にあらまほしい経験の性質をどのような仕事の組み合わせでつくりだしていくかを可視化するシートを用意
を行うことで、実行を前進させるに至りました。

1のサクセッションマネジメントのステップはよくあるものですが、育成計画実行の場面になると、それまでロジカルに考えてきた設計が実装できない、ということは多々あるのではないかと感じます。実行場面で起こりそうな組織の状況や制約なども考慮して、精緻化しすぎない適度な仕組みをつくることが大事!と思った出来事でした。


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