見出し画像

面談こそが人事のメインの仕事になる、という話

”実務協業型”人事制度構築・導入支援を行うTrigger 代表の安松です。

1.退任する人事担当役員の想い
最近、あるグローバルカンパニーのHRのトップを務めていた役員の方が、その任を退任されるにあたり、ご自身のヒストリーと大事に考えてきたことを1冊の冊子にまとめて、後進であるHRメンバー1人1人に渡すとともに、個別セッションにて冊子の内容を直接語り掛ける、という取り組みをされていました。

その中で語られていたあるフレーズがとても心に残っています。
「人事の制度づくりはいつか形を見る。その後は、人の力をいかに伸ばし、開花させるかがHRの役割となる。だから、HRは面談こそがメインの仕事となる」

(誤解なきよう、もちろん人事制度だって環境に合わせて変化していくべきであり、終わり無き旅であることを十分理解された上でのメッセージです。)

その方は、HRの責任者の立場にある期間中ずっと、世界の各拠点に行くたびに面談を行い、最低週1日は本社オフィスではなく別拠点で執務を行いそこでも面談をされていました。
いはく、「面談によって、その人の成功・失敗体験がわかる。すると、この組織ではどのように人が育つのかがわかる。面談には人材育成の実例が溢れている。」

2.私の体験
私は以前、360度サーベイをもとにした管理職の能力開発研修の運営担当の仕事をしたことがあります。全社の部長約200人を3クールに分け、1年半をかけて実施した研修でしたが、研修実施から半年後、受講した部長を訪問し、研修後の心持ちや学びの実践状況、うまくいくこと・いかないこと、メンバーとの関わりの中で感じる喜びや悩みを聞いて回るというものでした

その面談を通じて蓄積した部長たちの、会社の向かう方向に対する想いや職場へ向けるまなざし、はたまた人事から見たマネジメントの課題などを整理して経営陣に報告し、また全社の部長データベースとしてストックしたわけです。それらの情報は、以後の役員選任や重要ポジションへの登用のサポート情報として、また教育・研修体系の検討に際して活用されることとなりますが、何よりの成果は、部長が周囲からの多面的なフィードバックを真摯に受け止め、研修という場で省察し、職場をより良くしようと行動していること、その結果として一部の職場に変化の兆しが出始めていることを感じ取ることができたことでした。

この体験があった私には、「面談こそがHRのメインの仕事」というメッセージが響いたわけです。

3.人事の日常に「人を知るための活動」が組み込まれていることが大事
しかし反面、面談によって得られるこうした定性的な情報は、成果としては認識を得られにくい部分もあります。事実、HR部門内のあるマネージャーからは「時間をかけてそこまでやる意味あるの?」と言われてしまいましたし、私自身の強い想いでやっていたこの全員面談は、研修運営業務を別チームに引き継いだ後、実施されなくなってしまいました(様々な事情があっての判断だったことも事実です)。

このことを通じて私は、「人を知るための活動」を、個人の想い・がんばりによってではなく、人事の日常の活動の中にいかに組み込んでいくか(しくみ化するか)が大事である、という考えに至りました。

例えばいま流行の1on1、その意味合いや効果は様々なところで説明されていますが、1on1をリーダーが、あるいはリーダーを通じて人事が「人を知るための活動」という側面でとらえた場合*。
リーダーとメンバーの間でこれまでもそれなりの頻度で行われてきた面談を、”1on1”というネーミングにして、また科学的裏付けを与えて、制度・しくみっぽくリフレーミングし、組織の日常活動に組み込むことができる点がとても良いところだと思うのです。
*1on1には他にも様々な意味合い、側面があります。

4.どういうまなざしを持って人事の仕事をとらえているか
考えてみれば、そのほかにも、組織内で行われる様々な人事関連活動は、「人を知るための活動」という位置づけでとらえなすことができます。制度が定着し運用が日常になってくると、そのようなまなざしを持って仕事をすることを忘れがちになる自分がいます。

昨今の人事界隈で著名な八木洋介さんは、とあるセミナーの中で、
人事は、
 変革者であり、
 語り部であり、
 教育者であり、
 コーチであり、
 大使であり、
 翻訳者であり、
 相談相手であり、
・・・とおっしゃっていますが、これらはface to faceの面談によってなされる面が多分にありそうです。

人事の役割をどう自己定義しているか?を日々問われていることを改めて身につまされる、冒頭の役員の冊子&メッセージはそんなきっかけになったという話でした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?