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保守的過ぎた私が、ミッキーの耳で変われたこと。

私はカップの底に一口分だけ、飲み残す癖がある。

いつも母に注意されていたのだが、自分も無意識にしていることなので気のつけようが無い。母からすれば「洗いたいのに洗えない」し、飲食店では「下げていいのか分からない」と、迷惑をかけている事は知っている。

「なんでやろ、癖?」
なかなかそう言うものは無くならないのだ。


私はディズニーランドが好きだ。
だが、パーク内でキャラクター武装することに強い抵抗がある。

ミッキーの耳のカチューシャ、限定のTシャツ、キャップに髪飾り。
みんな何であんな物に高い金を払い、揃いで身につけてバカみたいに騒げるのだ?と怪訝な目で見ていた。

私にとって、その同調は金の無駄でしかない。
ディズニー以外の場所で大人の自分が身につける事はない。それは実用的じゃない。
知らない奴等とお揃いの格好して何が楽しいの?私の服に合わないし、ディズニーキャラクターはオリジナルが好きなの、デフォルメされて好みじゃない。
たった1日の為に3〜5千円はする可愛いだけの装飾に金を出すなら、もっと美味いもん食うわ。
と、言いながら、大していいレストランに入ることも無く、ワゴンのご飯で済ませている。夢の国で現実をむさぼり、財布の紐ばかり握っていた。

こうやって「私って合理的なの」感を出し、チリチリと感じている生きづらさは、自分の価値観が周りと違うからだ。お金に困っているわけでもないし。

家庭を持っていない私は、少しの切り詰めでそれなりの軍資金は準備出来る。
大阪に住んでいるので、遠征になるディズニーランド内では、思う存分お金は気にせず楽しんで、夢の世界で現実逃避と洒落込める準備は常に万端だ。

だが、蓋を開ければ、入ってすぐのワールドバザールを歩き出した時点で、楽しそうに武装品を手に入れて身につける人を鼻白んで「あぁゆうの好きじゃない」と言いながら財布の手綱を握っている。

初めにこの考えが過ぎると、その先もドミノ倒しのように同じ考えに苛まれる。
「あのミッキーのプレッツェル可愛い!」が「形変えただけで高いしな」
「限定のドリンクだ!」が「容器だけやし、捨てるやん」
「スーベニアカップ」は「荷物になるし、持ち帰っても使わないから邪魔になる」
「キャラクターグリーティング」も「インスタやってないし、そもそも私は王道キャラあんまりなんで」
全てが否定になっていく。

でも、それでいいと思っていた。
これは個性だから「好きじゃない」気持ちも大切に生きている。

「お揃いは個性がない」「人の真似は自分がない」ないないない、恋じゃない、ないないない愛じゃない、ないないないでも止まらない状態だ。

でも、自分らしくしているはずなのに楽しめてないのも事実だった。
ディズニーに行って見栄を張っているだけではないか?


ONE PIECEの60巻、第590話“弟よ“読んでいてふと思ったことがある。
兄のエースを救えなかったルフィが、全てを否定し自分の弱さを嘆き続けるシーンで、ジンベイが言った言葉だ。

「失った物ばかり数えるな」「無いものは無い!!!」

状況は全く違うが、自分にも言える事だと思った。

私、せっかく楽しみにディズニー行っているのに無いものばかり探してたな。
好みじゃない、価値観が合わない、お揃いは個性がない。

これはいただけない。

毎回ディズニーに誘ってくれる友人が、いつもの様に予定を立ててくれた。
付き合いも長いし、私が武装に否定的な事も知っているので強要はしない。
彼女は周りと同じくディズニー武装で楽しむタイプ、この日も「ちょっとすいません」と私に気遣いながらショップに入ろうとしていた。
今しかない。
いつもなら黙って着いて行くだけだが、私は隣に並んで口を開いた。

「私も買ってみようかな、ミッキーの耳」

思いがけない私の一言に、彼女の目は輝いた。
「買いましょう!私が選んであげます!なみさんの服の雰囲気だと、可愛いゴテゴテより、スタイリッシュな方がいいですね!」
「え?そんなんあんの?」
「ありますよ、色んな人が来ますから、ファッションを損ねないデザインもありますし、男性が付けて楽しめるものもありますから!」
「そうなん」
「はい、これが多様性ってやつですね!このキャップとかどうですか?

彼女のチョイスで、ファッションを損なわない耳がついたキャップを買った。
高いな。とレジで躊躇したが、店員さんが「タグ切ってすぐに楽しみますか?」と微笑んだ。慌てて「はい」と頬を熱くした緊張は、夏祭りで綿菓子を買った時を思い起こさせた。
みんな持っているから欲しい!と駄々を捏ねてお小遣いをもらい、ほかほかになった百円玉を屋台のおじさんに支払った。
大きすぎて食べきれない、自分の顔より大きな綿菓子を、私はただ皆んなと同じ様に持って歩きたかったのだ。

ごった返す店内で、他の客と取り合いしながら鏡を覗いてキャップをかぶる。
長身で180近い私の友人が、私の後ろに立って鏡を見ながらお揃いのキャップを被った。頭ひとつ大きい彼女と、トーテムポールみたいに写真を撮った。
「なんか、サイズ変ですね?カチューシャも頭から浮いてたし、つけてみないと分からんもんですね」
「アジャスターもう閉まらん」
「頭小さすぎんねん!サングラスは隣の店のキッズ用でいいですね」
「どこにあるん?」

手と手をとって次から次へ、あぁでも無い、こうでもない。あ、やばいファストパス並んでない!朝ごはんは限定のアレにしよう!スーベニアカップもお揃いやから、思い出になるね。

私は予定している予算を初めて使い切った。
写真ホルダーは後で整理する写真でいっぱい。いつもより充実した疲れで帰りの飛行機は記憶がなかった。


「あんた、最後の一口残せへん様になったね」

母が笑って私が飲み干したコーヒーカップを回収してくれた。
そう?気付かんかった。
私はダッフィを抱きしめて次のディズニーの予定を確認している。

可愛いな。

色々まとめてます、どうぞよしなに↓

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