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新卒のチームワークは、既存社員のチームワークを超えるか? 新卒のデザイン研修からの考察

「疑問だと思ったことを素直に口に出せるチームだった」

5日間に渡るエンジニア職5名、デザイン職1名の新卒社員におけるデザイン研修終了時に感想を共有してもらった時に1人の新卒メンバーが言った。
疑問だと思うことが素直に口に出せるということは、チームの心理的安全性を端的に表している言葉だ。これは、エイミー・C・エドモンドソンが提唱している心理的安全性における重要な”要素の一つ”である。

今回の研修の内容は、既存社員が普段働いている中で感じている課題や要求からそれを解決する新しいサービスを創るというものだ。
手法としては、普段新規サービス開発で既存社員が行なっている”デザインスプリント”を採用した。

結果として5日間で新しいサービスのプロトタイプと検証までを無事に終え、ワーク進行中も終始笑い声と白熱した議論の両方が繰り返され、良い雰囲気のまま終えることができた。

そして、冒頭の言葉に戻る。
私が、その言葉を聞いた時に感じたことは、「まあ、そうでしょうね」と思った(他意があるわけでもなんでも無く、事前に予測していたので普通にそうおもっただけ)。何故ならチームとして心理的安全性が高くなる要素が、始める前から十分揃っていたからだ。

<心理的安全性が高まると予測できる要素>
・新卒メンバーという同じ背景をもっていること
・すでにコミュニケーションも十分に取れていたこと
・実務ではなく、研修プログラムとしての立て付けであること
・メンバーの多くが、デザインスプリントをすでに経験していたこと

その後、他のメンバーの感想も聞いて和やかに研修は終わったが、どうしても冒頭の言葉が頭に残ってしまった。

「本当に新卒メンバーとしての背景が同じで、かつお互いをわかっていて、ワーク(プロセス)も経験済みだから、疑問を素直に口に出せるのだろうか?」

 たぶん間違ってはいないが、では既存社員に同じような状況を作ったら同じようにここまで和やかにかつ活発な議論ができるだろうか?

この湧いてしまった、クエスチョンについて、考察をしてみた。

本当に新卒メンバーのチームワークは良かったのか?

まず、本当に新卒メンバーは、チームワークが良かったのかを考える。実際のメンバーの声やファシリテーターである私からみても明らかによかった。
ただし、それは主観でしかないのでできるだけ客観的に判断できないかと考える。

まず、チームワークについて判断する一つの変数としては、「発話量」「発話のバランス」「熱量」がある。

録音していないので、発話量はわからない。すると、付箋を発話と捉えるならば、その量で判断できるのではないだろうか。
(私はワークの前に、話しながら(付箋を)書きなさい、書きながら話しなさいと必ず伝える)

そこで、今回の新卒メンバーのうち、2名が以前参加したデザインスプリントのワークと今回の研修のワークを比較してみた。

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上が、過去のワークで、下が今回の研修のものである。
黄色付箋(一部、オレンジ・緑・赤の付箋も含む)が、アイデアに対してのメンバーのフィードバックになっている。

過去のワークのおける付箋数「37枚」
研修のワークにおける付箋数「52枚」
付箋数比較「1.45倍」

公正に比較するために、まったく同じ内容のワークと、アイデアの数も4つに対しての付箋のみをカウントしたが、付箋数が研修ワークの方が優っていた。
もちろんこれだけでチームワークが今回の方が良いとは言い切れないが、「研修における新卒メンバーのチームワークの方が良いと示唆された」とは言えそうだ。

なるほど、「チームワークが良いと示唆」されたことはわかった。
では、改めてチームワーク研究における実証項目から新卒研修チームのチームワークが良かった要因を考察してみる。

「何が」新卒メンバーのチームワークを支えたのか?

今回、要因分析として使うものとしては、組織心理学におけるグループがチームに変化するためのプロセスを使って確認していく。

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1.共通の目的を作り上げる→△
→今回は研修を通して、一つのサービスを作り上げるという明確なゴールが最初に設定されていた。

2.目的に対して全員がコミットしている→△
→これは、確実に全員がコミットしていたかは怪しい。コミットとは、目的を達成する、または目的に向かうことが自分にとっても十分メリットがあると理解していることである。

3.役割が明確になっている→○
→これは見事に出来ていた。事前にそ役割を決めていたわけではないが、自然発生的にここのメンバーは、自分がチーム内においてどういう役回りをすれば良いのかを把握して行動していた。

4.共通の作業アプローチを定義する→○
→今回は、デザインスプリントという決まった流れがあることによって、合意形成が事前になされていた。

5.チームの規律・ルールができる→○
→これについては、初日にワークを進めていく中での基本ルールをファシリである私から伝えた。

以上、「チームワークプロセス面」を評価してみたが、これについて平均以上は確実に達成されていたと言える。

次に、「チームの特性」から見てみる。チームパフォーマンスに影響する特性についても、いくつかの項目が存在する。

<チーム特性の評価項目>
1.年齢・学歴・勤務年数が近い
2.人間関係と任務重視のリーダーがいる
3.人間関係がすでにできている
4.非公式だが実質的なリーダーと勇気あるメンバーが揃っている

1.年齢・学歴・勤務年数が近い→○
→これは全員が新卒であったので、間違いなく近いと言える

2.人間関係と任務重視のリーダーがいる→○
→実際のところは聞いてみないとわからないが、リーダー的なメンバーは、人間関係と任務の両方をきちんと重視しているように見えた。

3.人間関係がすでにできている→○
→これも事前にお互いのコミュニケーションが十分取れていた

4.非公式だが実質的なリーダーと勇気あるメンバーが揃っている→○
→役割を決めていなかったが、リーダー的メンバーが最初から決まっており、それをフォローするメンバーも勇気を持っていた印象を受けた

以上、「チーム特性」の面からの評価については、ほぼ満点と言って良いと言える。

最後に、「チームメンバー特性(個人特性)」を見てみる。これについては、私も専門領域の中でも弱いところなので、経験則から判断することをご了承いただきたい。

<良いチームにおけるメンバーの特性(6人メンバーの場合)>
1.明確なリーダーが存在している
2.リーダーをサポートするフォロワーメンバーがいる
3.完璧なるバランサーメンバーがいる(マルチタイプ)
4.反対視点を持ったメンバーがいる
5.原理原則に立ち返るメンバーがいる
6.異端者(イノベーター)メンバーがいる


1.明確なリーダーが存在している→○
→今回明確なるリーダーが存在していた

2.リーダーをサポートするフォロワーメンバーがいる→○
→リーダーの言動をすぐにフォローするメンバーがいた

3.完璧なるバランサーメンバーがいる(マルチタイプ)→○
→視点の足らないところや議論が偏っているところを指摘するメンバーがいた

4.反対視点を持ったメンバーがいる→✖️
→意図的に反対から見れるメンバーはいなかった

5.原理原則に立ち返るメンバーがいる→✖️
→明確に立ち返っていたメンバーはいなかった

6.異端者(イノベーター)メンバーがいる→○
→明らかに視点が異なるメンバーがいた

以上、「チームメンバー特性」の評価では、4/6といういこと概ね平均より良いと言える。

「プロセス」「チーム」「チームメンバー」から新卒チームのチームワークの要因を見てきた。

「プロセス」→平均よりも高いレベルで実行していた
「チーム特性」→ほぼ最適なチーム状態であった
「チームメンバー特性」→平均よりも少し良い状態であった

結論、チーム特性がチームワークに大きく貢献しており、その状態がためにチームワークプロセスもうまく機能した、一方メンバー構成については、必ずしも最高ではなかった、ということになりそうだ。

既存のチームのチームワークを向上させるためにできること

ここまでの考察から、では既存のチームやこれから組成するチームに新卒チームのチームワークから参考にできるものがないを最後にまとめたいと思う。

その前に、話を一番最初に戻す。

「疑問だと思ったことを素直に口に出せるチームだった」という言葉は、心理的安全性が高い事を端的に表していることはすでに書いた。

ただ、ここで言いたいのは、「チームワークがよかったのは心理的安全性が高いからである!」ではない。

重要なので、もう一回書くのだけれど、
「チームワークが良い」=「心理的安全性が高い」
ではない。

チームワークを上げるために心理的安全性を担保するとは間違っていないが、心理的安全性が上がれば”必ず”チームワークが向上するわけではない。あくまで複数ある要素の1つでしかない。
(本当に世の中で誤解されてしまっているのであと3回は言いたい)

では、新卒チームからみたチームワークを生み出すものは何か? 何を参考にチームを形成していけばいいのかをまとめたい。

1つ目は、リーダーシップ
実質的なリーダーがいることが重要でかつ、それぞれが役割を認識してその役割の視点からリーダーシップを取ること。

2つ目は、意思決定
目的や目標が明確にあって、全員が等しくそれを重要だと認識している合意していること

3つ目は、コミュニケーション
発言量が多く、特定のメンバーに偏ることなく、メンバーがそれぞれきちんと発言ができている

4つ目は、協力体制
みんなで作っていくものである、ということを全員が理解をしているからこそ、メンバーの同士でお互いにカバーし合うことを自然に行える

5つ目は、創造的に対立をする
チーム全員が、なんでも「いいね!」「いいね!」というやり方ではチームワークは向上しない。「それは違くないか?」「ちょっと最初に戻ろうか?」「そもそも、どこを目指しているんだっけ?」と視点の違いを恐れずに発信することで、チームは強くなっていく。

6つ目は、プロセスが見えている
自分たちのチームが目指すゴールまでの道筋が、見えていて合意していること。それは間違っていたり、遠回りだったりする場合は多分にあるのだけれど、自分たちのチームはこのルートで行くんだ! ときちんと握れていることが余計な思考を取り除きチームを前に進めてくれる。

そして、それらを支える3つの要素として重要なのが、
「心理的安全性」・「謙虚さ」・「好奇心」である。

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