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靄のかかる場所

嫌な夢


嫌な夢を見た。雨も遠のいてせっかくの晴れた日曜日だったのに。私はたまに夢でうなされる。近くにうちの人がいて良かった。両足がどっぷりと沈みこまない内に私を現実に引き戻してくれる。

夢には時間の感覚がないので行きつ戻りつしながらの全体像でしかその夢の内容を説明できないでいるけど、とにかく
【クリームパンが食べたいと父から連絡があったから、レンタカーを借りて向かう】
という物だった。車の免許は持っているが長らく運転はしていない。それで高速に乗ろうなんていう事が既に自殺行為である。行きたくはないけれど、行かねばならない、というそのままの感情が出た内容だった。


私とあの人


父には今年の頭まで送金していた。年金のみで生きられる程、あの人は会社に長く勤めなかった人だ。私が小五の頃に離婚したが、原因は自身が作った遊びの為の多額の借金であった。その後、母方に引き取られる形となった私は生き抜くのも地獄のような日々を過ごした。だから私は、母方とはもう10代で離縁している。何があったのか等その辺りの事は、わざわざ父には話さなかった。言ったところで、だ。誰のせいだ、なんて話合いは不毛である。

前回の結婚の時、いよいよ生活が大変だ!と打診してきたので、次女が生まれてすぐ~三女を出産間近の約二年と半年間のみ一緒に暮らした。その生活が終わったのも、自分が好きにできない·楽ができない、手助けは要らないから自分の力で生きて行くことにした、とあちらが急に言い出して、終わった。

面白くなければ人を殴る人間だ。性格は悪くはないが、いかんせん、知能が低い。その約二年半の中で、後半は殆どが嫌になるような日々でしかなく、最終妊娠中の私の、耳から血が出る程殴りつけて出て行った。自分の父親ながらに恥ずかしい話だ。大変な人、という感想しかもっていないが、本当に扱いずらい人間である。

誰の世話にもならないと言った手前、少しくらい根性見せるのかと思いきや、金の無心はすぐに始まった。私にはそう言ってしまった手前言い出しづらかったのだろう、先に、母方に残った私の妹に無心した。環境は人を変えてしまう。昔、可愛かった妹は、母によく似た物言いをするらしく
『悪いんだけど……ハッキリ言って父親らしい事もしてくれなかった人を助けなきゃならない理由は?』
と言われたと私に告げ口をしてきた。それはまぁ……言い方はあれですけど、何も間違ってはいないので、仕方がないのでは?と返すと、どうにも怒りが収まらない!と、だからもう腹が立ってLINEもブロックした、との事。

本当にどうにもならない、と娘がブロックするのはわかるが、何故お前が、と言うのが私の思うところだけれど、生んで頂いた恩はあるし、全く知らない人間でもないし、どうしようもない人だけど、これは血縁があるから余計にイラつくだけの話かもしれない、と思い、シングルマザーになって、三人の子を育てながらも、少ないながらに幾らかを渡していた。

助け船を出そうと思うと働かねばならず、私が働いている間は日中ずっとLINEを鳴らしてきた。内容は時事ネタが多かったが、独自視点の正義感が大きく、それはあなたのルールなので……と言いたくなるような感想ばかりで
(そんなしょーもない事言ってる暇があったら働けばいいのに)
と思う事もまた多く、あまりそこに突っ込み過ぎるときまって不機嫌になるし、言いたくない事や聞きたくない事も互いに出てくるだろうと思い、私はATM役にのみ、徹した。本当はそんなお金があったら、子供が欲しがるもののひとつでも買ってやりたかったが。

二月のこと

2023年に入ってから、無心する頻度が増えた。その癖、生活保護者は社会の荷物、負け犬だ、と、生活保護を受けていらっしゃる方を白い目でみるような発言が多くなった。遊んでいようが働いていようが、人は何があるかわからない。たまたま収入がなくなっただけだろうし、たまたま家がなくなった、そんな事もある時代に、全く何も残しもしなかった人が言うべき言葉ではない。私が居るからあなたはまだ何とかなっているだけで……

そんな言葉もぐっとこらえて、一体前回のお金はどこに消えたのだ、と思いつつ、職場で毎日山の如く積みあがる目の前の書類と格闘していた。休憩をとり、喫煙所でLineを開く度、発言ごとに並ぶ名前が目に入る。いつでも名前がトップにいた。

歳をとると、攻撃的になりやすい。元々、作りがしっかりしているとは言い難い脳をお持ちだ、これはもう本当に劣化した何かなのではないかしら……と思い始めて、受け取ったら、読みましたのスタンプだけを送っていた。

ある日、全く返事を返さない、とか、お前はいいよな、の罵詈雑言が続々と寄せられるようになった。いいわけねーだろ、自分の為にも使えないような金の稼ぎ方して楽しいわけあるかよ、と思っても、心の中で毒づいていただけで
「そうかしら。毎日すべき事が山のようにあって、旅行にでもいきたいなーなんて気持ちになるけどね」
と、それに対しては何も触れず、空気を薄める活動に励んだ。

放っておいても次から次にLINEが入る。逆に他人だったとしたら、なんというだろう。独りぼっちで友達もおらず、助けてくれる人もおらず、いい歳して言いたい事いいまくってぶら下がってるなんてお荷物でしかないし、それまでの人生の皺寄せが来てるだけじゃん、そんなの自業自得なんでは?
きっと私でもそういうと思う。でも、もうそうした判断もつかないところに脳みそがあるのかもしれないし、一概に、あんたの言ってる事は甘えだ!とか、バカかよ!とも言えず、黙っておくのが賢明として、様子を伺った。

その寄せられるメッセージの中に
『息子さんが働かずで米も買えないから米代を貸してと来るおばちゃんがいるんだけど、もう毎度のように、来たら貸してくれるが定着してて困ってるんやわ。お父さんもお金がないし、送ってください』
という一言があった。

はい?

どうやら、聞くと、そのおばちゃんにずっと横流しをしていたらしい。その家の息子は幾つなの?と尋ねると50歳で未婚、というではないか。知らない奴の面倒まで見られない。

「悪いんだけど、お金がないなら、その貸した分を返して貰って生活の足しにしてくれない?」

そう返事をすると、金がないから借りにきているのに、返せと言ってかえる物か、と言う。わかってるじゃない……返せと言っても帰らない者にばらまいてるのはあなたであって、私はそこまでの面倒は見られないし見る義理はない。もう少し考えて欲しい、と溜息が出た。

『あんた、今、いいとこで働いてるんだし、お金結構貰ってるはずだ。お付き合いしてる相手もよい企業で働いてるみたいだし、あんたの生活は困ってもなんとでもなるだろ?貸してって来てるのに、大の大人が一円も持ってないなんて言えないし、俺が恥かくばっかりやん。』

と言い出した。私は彼のお金を宛にして生きて等いない。これには少し、カチンときて

「きつい事を言うようだけど、私は私で色々ある。子供達も今年、入学組が二人もいるし、私は自分で稼いだお金で生活をしてる。彼にお金があるから好きだってわけじゃなくて、彼を好きだから好きなんだし、好きなら迷惑かけたくないと思う気持ちを理解してくれない?ずっとこんな事できるわけじゃない、私だって仕事辞めたら、もうこんな事出来ない。できたら役所できちんと相談して……」

と言っていたら、酷い奴だな、ひとでなし、確かにお前には世話になってるけど生活保護受けるなら自害した方がマシだ、とまた、他所様を罵るような事をいうので

「私には充分立派に見える。自分の人生を自分でなんとかしようという形が見えてるだけ、まともに見える。言えば動くとか、情でなんとかなるとか、口先だけで自害するって命を人質にしてるやつよかよっぽど生きる価値あるように見える。お金、出来たとしても、今すぐにはなんとも出来ない。給料日までまだ先だし。

それに今月、私、誕生日があるのに、それだって忘れてるんでしょ?」

と言ったら、それ以降、返事がこなかった。当然、おめでとうもなしだ。貸した金は返さなくてよいから、死ぬだの生きるだの命を人質にとるような事を言うな、と思った。この場合、ここまで行くと、正直なところ、本当に生きる価値がないので助けるに及ばない、となってしまう。皆まで言わせてくれるな。助けたいような人間であれよ、とも思う。

その後、私から連絡をするも、何の返信もないところを見ると、私もブロックされたんだろうなと思う。

満たされない理由

それが私の夢見を悪くさせた。これが欲しいと言われても、それを与える事が本当に愛かと言われたら、そうでないような気もして。お前が生きているのは父親である自分がいるからで、それなのにお前はわかってて放っておいた、と、自分の生を私にあてつけてくる、それらのこと。国が救ってやるべきだなんて、そんな大それた事も思わないけど、高齢者社会になるなら人の尊厳もしっかり考えた上で、まだ意思のある内に、自分で終わらせる安楽死のようなシステムも考えるべきかもしれないな、とは思う。

ハッキリ言ってあの人は、金があろうがなかろうが楽しくないのだ。金があったとしても、きっと、自分が思うような自分に釣り合った友達、なんていうのは持てやしないんだろうし(身の丈を知らない)、あの人がバカにする人間のやる事のその中には、そこまでして生きて行きたいんかね?というような要素が含まれており、人の一生懸命さを理解していない。生かして貰えているのだ、という感謝が足りない。自分自身の姿をきちんと捉えようとはしなかった。そこにあの人の満たされない理由がある。

若い頃は相当にモテただろう。顔だけはどうしようもないくらいにカッコいい。でもそれも、若かったからだ。チヤホヤされている、を見抜けず、馬鹿みたいに調子に乗って誰も正してくれなかった!人は怖い!あの頃はよかったな、なんて言われても、もうどうしようもない。

でも、私はそれでも心配はしている。出来た事をしなかったのは私の責任だと言われたら、それはそうだろうし、こんな話は起きていても夢見が悪い。

あぁ。生きるのって大変ですね。元気にしてくれていたらいいけど。

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