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世界をとりまく最大の外交的な問題、アメリカの内向き志向はなぜ誘発されたのか?

世界の国際情勢を大きく揺るがすのは権威主義の台頭や際限なき軍拡よりもむしろアメリカの内向き志向であるかもしれない。


アメリカの内向き志向が何によってもたらされたかを考えるには1991年のソ連崩壊まで遡る必要がある。これ以降アメリカは核戦争や潜在的敵国の脅威から開放された。クリントン政権下のロシアは経済的に混乱していたし、ドイツや日本は経済的に沈下しつつあった。この時代は中国やインドがまだ本格的な経済成長を始める前でもあり、アメリカは超大国の地位を満喫することができたのだ。


しかし、2001年の同時多発テロによってアメリカは対テロ戦争に踏み出すことになったが、予想外だった対テロ戦争の長期化により徐々に国民の自信は喪失された。しかし、サブプライムローンの蔓延による好景気もありアメリカはその問題を乗り切ることができた。


その後のサブプライムローンバブルの崩壊はアメリカ経済に深い傷跡を残した。このときの政府が、経済的に困窮する国民ではなく経済危機の元凶となったウォール街を救済したことは「ティーパーティー運動」や「ウォール街を占拠せよ」運動を引き起こした。その後アメリカ国民の生活水準が2006年の水準に戻っていないことや富裕層の資産の増大による格差拡大が国民に経済的な自信を失わせることに貢献した。  


そこにさらなる外交政策の失敗が重なった。アフガニスタンやイラクからの撤退は先送りされ続け、アメリカ例外主義を否定したオバマも結局はリビアやシリアへの軍事的介入というアメリカ例外主義的な価値観による政策に舵を切った。それらもあり政府への不信感は増大したのだ。


エネルギー的な観点から見るとシェールガスの開発によるエネルギーの自給に踏み切ることができたことも結果的として外交的コミットメントを減らすことに貢献した。(もっともシェールガスの開発は環境問題を引き起こすため民主党内で意見が割れているが)


つまりアメリカの内向き志向は外交政策における失敗と経済的な低迷に基づくものであり、多くの人がアメリカが公平で可能性に満ちた国であるととらえることができなくなっているのだ。そしてそれを形成した「エリート」への不信感の増大と、それに呼応する形で引き起こされたポピュリストの台頭がその問題の解決を極めて困難にしている。


アメリカの外交的失敗の傷跡が癒えることや経済的格差の解消に時間がかかることを考慮すれば、このアメリカの内向き志向がすぐに改善されることはないだろう。それが同盟国を極めて不安定な立場に追い込みつつある。かつてのように(必ずしも素晴らしいものとは限らなかったが)アメリカのリーダーシップに期待できる時代ではないのだ。多くの同盟国は戦略的自立を要求されることになるだろう。つまり、多くの同盟国はある程度アメリカなしで外交や安全保障の問題に対応することを余儀なくされるが、それがアメリカをさらなる内向き志向に追いやる可能性も否定できない。全ての同盟国は、アメリカのリーダーシップ不在の国際社会で生き残る方法を模索すべきであり、それが複雑な時代でアメリカの同盟国が外交的プレザンスを維持する方法でもあるだろう。

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