末期がん患者への早期緩和ケア介入は、QOLや生存期間に良い影響があるか?米国、欧州、中国からのRCT論文のまとめ(日本からの研究は見当たらない)

緩和ケアの意義を報告したエポックメイキングなNEJM論文
Early Palliative Care for Patients with Metastatic Non–Small-Cell Lung Cancer

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20818875/

August 19, 2010
N Engl J Med 2010; 363:733-742
DOI: 10.1056/NEJMoa1000678


背景 転移性非小細胞肺がん患者は症状負担が大きく、終末期に積極的なケアを受ける可能性がある。新たに診断された外来患者において、診断後早期に緩和ケアを導入することが、患者報告アウトカムおよび終末期ケアに及ぼす影響を検討した。

方法 新たに転移性非小細胞肺がんと診断された患者を、標準的な腫瘍学的治療と統合された早期緩和ケアを受ける群と、標準的な腫瘍学的治療のみを受ける群に無作為に割り付けた。ベースライン時および12週目に、それぞれFACT-L(Functional Assessment of Cancer Therapy-Lung)スケールおよびHospital Anxiety and Depression Scaleを用いてQOLおよび気分を評価した。主要アウトカムは12週時点のQOLの変化であった。終末期ケアに関するデータは電子カルテから収集した。

結果 無作為化を受けた151人の患者のうち、27人が12週までに死亡し、107人(残りの患者の86%)が評価を完了した。早期緩和ケアに割り付けられた患者は、標準ケアに割り付けられた患者よりもQOLが良好であった(FACT-L尺度(0~136点の範囲で、得点が高いほどQOLが良好であることを示す)の平均得点、98.0 vs 91.5;P=0.03)。さらに、標準治療群よりも緩和ケア群の方が抑うつ症状を有する患者が少なかった(16% vs 38%、P=0.01)。早期緩和ケア群では標準ケア群よりも積極的な終末期ケアを受けた患者が少なかったにもかかわらず(33% vs 54%、P=0.05)、生存期間中央値は早期緩和ケアを受けた患者の方が長かった(11.6ヵ月 vs 8.9ヵ月、P=0.02)。

結論 転移性非小細胞肺がん患者において、早期緩和ケアはQOLと気分の両面で有意な改善をもたらした。標準治療を受けた患者と比較して、早期緩和ケアを受けた患者は終末期における積極的な治療が少なかったが、生存期間は長かった。

緩和ケアの早期介入は、生存を改善した


気分障害も減らした

ちなみに上記研究は、2006-2009年にボストンのMGHで行われたようだ。

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上記の研究内容をほぼコピーしたような(*別に悪いことではない)研究はいくつかありそう。
もっとも最近のものはおそらくが中国から2022年に報告されている。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35088602/


目的:非小細胞肺がん(NSCLC)の予後を改善するための効果的な介入が緊急に必要とされている。我々は、NSCLC患者に対する集学的緩和ケア(WARMモデルに基づく)の早期統合が、生活の質(QoL)、心理状態、がん性疼痛、栄養状態に及ぼす効果を評価した。

方法 このランダム化比較試験では、新たにNSCLCと診断された患者120人を登録し、標準的な腫瘍学的治療と統合した早期緩和ケア(CEPC)群標準的な腫瘍学的治療(SC)群に無作為に割り付けた(1対1)。QoLと心理状態は、ベースライン時と24週目に、それぞれFunctional Assessment of Cancer Therapy-Lung (FACT-L)スケール、Hospital Anxiety and Depression Scale (HADS)、Patient Health Questionnaire-9 (PHQ-9)により評価された。がん栄養状態および疼痛状態は、それぞれPatient-Generated Subjective Global Assessment(PG-SGA)およびNumerical Rating Scale(NRS)を用いて評価した。主要アウトカムは、24週時点のQOL、心理状態、栄養状態の変化であった。解析はintention to treatで行った。

結果 120例が登録された: CEPC群60例(完遂38例)、SC群60例(完遂32例)。CEPC群はSC群よりQoLが良好であった(P < 0.05)。さらに、CEPC群ではSC群よりも抑うつ症状(P = 0.005)が少なかった。さらに、CEPC群の患者はSC群よりも栄養状態が良好であった(P = 0.001)

結論 非小細胞肺がん患者において、早期緩和ケアはQOL、心理状態、栄養状態の有意な改善につながった。

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上記の中国の前にイタリアでも同様の研究が報告されている

Ann Palliat Med. 2019 Sep;8(4):381-389.doi: 10.21037/apm.2019.02.07. Epub 2019 Mar 14.

Early palliative care and quality of life of advanced cancer patients-a multicenter randomized clinical trial

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30943735/

背景 早期緩和ケア(EPC)標準的がん化学療法(SOC)を受けた患者の生活の質(QoL)を比較すること。方法北イタリアの5つの大学病院および地域病院のがんセンターにおける実用的な多施設無作為化試験。過去8週間以内に診断された進行非小細胞肺癌、胃癌、膵癌、胆道癌患者。EPC群では、専任の医師・看護師による緩和ケア(PC)チームが計画的に訪問し、身体的・心理社会的症状を評価し、必要なサービスを実施した。SOC群では、PCの訪問は要請があった場合にのみ行われた。主要アウトカムは、両群におけるベースラインから12週までのQoL[がん治療機能評価(Functional Assessment of Cancer Therapy-General measure:FACT-G)]の変化の差とした。結果2014年11月から2016年3月までに281例の患者(EPC142例、SOC139例)が登録され、218例が12週時点でFACT-Gを完了した。ベースラインの人口統計学的特徴および臨床的特徴は両群で同様であった。ベースライン時および12週時のFACT-Gの値は、EPC群では72.3(SD 12.6)および70.1(SD 15.5)であったのに対し、SOC群では71.7(SD 14.7)および69.6(SD 15.5)であったが、変化スコアは群間で有意差はなかった。ベースライン時のQoLを調整した多変量解析では、2つの潜在的な予後予測因子が統計的に有意であった:肺がん(P=0.03)、パートナーのいない生活と介入群の交互作用(P=0.01)。6ヵ月以内の死亡(P<0.001)も統計的に有意であった。結論本研究では、EPCは進行がん患者のQoLを改善しなかったが、我々の知見はEPCに関する今後の研究の指針となりうる側面を浮き彫りにした。

➡こちらの研究では早期緩和ケアは、有意な改善を認めなかった。

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Support Care Cancer. 2019 Jul;27(7):2425-2434. doi: 10.1007/s00520-018-4517-2. Epub 2018 Oct 24.

Systematic vs. on-demand early palliative care in gastric cancer patients: a randomized clinical trial assessing patient and healthcare service outcomes

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30357555/

早期緩和ケア(EPC)は、生活の質(QoL)、ケアの質、医療費にプラスの影響を与えることが示されている。われわれは、進行胃がん患者におけるこのような効果を評価した。方法この前向き多施設共同研究では、186人の進行胃がん患者を、標準的がん治療(SCC)とオンデマンドEPCを併用する群(標準群)SCCと系統的EPCを併用する群(介入群)に1対1で無作為に割り付けた。主要アウトカムは、がん治療機能評価(Functional Assessment of Cancer Therapy-Gastric)質問票により評価されたTrial Outcome Index(TOI)スコアにおける無作為化(T0)とT1(T0から12週後)の間のQoLの変化であった。副次的アウトカムは、患者の気分、全生存期間、医療とケアの積極性に対する家族の満足度であった。

結果 T0からT1までのTOIスコアの平均変化は、標準群では-1.30(標準偏差(SD)20.01)、介入群では1.65(SD22.38)であり、その差は2.95(95%CI - 4.43 to 10.32)であった(p = 0.430)。胃がんサブスケールの平均値の変化は、標準群で0.91(SD 14.14)、介入群で3.19(SD 15.25)であり、その差は2.29(95%CI - 2.80 to 7.38)であった(p = 0.375)。標準群では43%の患者がEPCを受けた。

結論 我々の結果は、有意ではないものの、EPCによるわずかな有益性を示した。介入の種類、腫瘍医とPC医間の共有意思決定プロセス、標準群混入のリスク、試験期間、主要転帰の評価の適時性、コホート開始の適時性、症状負荷の大きい患者のリクルートなどである。

➡こちらの研究でも早期緩和ケアは、有意な改善を認めなかった。
ちなみにこの研究が行われた場所は、抄録にはないがイタリアのようだ。
https://link.springer.com/article/10.1007/s00520-018-4517-2

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Eur J Cancer. 2016 Sep;65:61-8. doi: 10.1016/j.ejca.2016.06.007. Epub 2016 Jul 26.

Systematic versus on-demand early palliative care: results from a multicentre, randomised clinical trial

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27472648/

背景がん治療における早期緩和ケア(EPC)は、臨床転帰、QOL、コストにプラスの影響を与えることが示されている。しかし、EPCを活性化するための最適な方法はまだ定義されていない。

方法 この前向き多施設無作為化試験は、転移性または局所進行性の手術不能膵癌の外来患者207人を対象に行われた。患者は、「標準的がん治療+オンデマンドEPC」(n=100)または「標準的がん治療+系統的EPC」(n=107)を受ける群に無作為に割り付けられた。主要アウトカムは、ベースライン時(T0)と12週間後(T1)の間における、がん治療機能評価-肝胆膵アンケートを通じて評価されたQoL(生活の質)の変化であり、特に、身体的、機能的、および肝がんサブスケール(HCS)を統合したTrial Outcome Index(TOI)であった。患者の気分、生存期間、ケアに対する親族の満足度、ケアの積極性の指標も評価した。

結果T0-T1間のTOIスコアとHCSスコアの平均変化は-4.47と-0.63で、群間差は3.83(95%信頼区間[CI]0.10-7.57)(p = 0.041)、介入群に有利なのは-2.23と0.28(群間差2.51、95%CI0.40-4.61、p = 0.013)であった。T1時点のTOIスケールおよびHCSのQoLスコアは、介入群84.4対78.1(p = 0.022)、標準群52.0対48.2(p = 0.008)であった。2016年2月までに、186例の評価可能患者のうち143例(76.9%)が死亡した。全生存期間に治療群間の差はなかった。

解釈 進行膵がん患者における系統的EPCは、オンデマンドEPCと比較してQoLを有意に改善した。

➡こちらの研究では、早期緩和ケアは、有意な改善を認めた。ただし生存期間には差がなかった。
ちなみにこの研究も、行われた場所の記載が抄録になかったので本文も見たがよくわからず、欧州のどこか、って感じだろうか。

●まとめ
・2010年ボストンMGHから早期緩和ケアで、QOLよくなるだけじゃなくて生存期間も延長します!という報告がNEJMにされて業界に衝撃が走る。
・その後、欧州を中心に追試が複数行われるが、おおむねシブい結果。QOL改善したというものもあれば変わらないという報告もある。生存期間が延びたという報告はない。
・直近では2022年に中国から報告されている。おおむね良い結果。生存期間のことは書いていない(ので伸びてないのではないか)。
・日本からの研究は見当たらない。

・個人的な感想としては、上記の差異は、ベースの医療提供体制の違いにありそうだなと。つまり、もともとがプアであれば、早期緩和ケア=全人的なサポートの効果が出そうなので、もともとの医療がプアであり米国と中国では早期緩和ケアの追加効果が大きく出てきそう。一方で、欧州のようにすでにおおむねそれなりに医療が提供されているのであれば、早期緩和ケアの追加的な効果は見えにくくなりそう。仮にそうだとすると日本では欧州に近いのかな?と考えた。 むしろ日本では、標準治療に、緩和ケアを上乗せではなく、訪問診療を上乗せすることでの効果は結構出るのではないかと思ったり。





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