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母親に置き去りにされた思い出

皆さんは車に乗ると、賑やかなタイプですか、静かなタイプですか。

私はどちらかというと後者のタイプでした。

小さい頃から車に乗るときはいつも好んで後部座席に座っていたので、助手席に座りたがる姉とは席の取り合いになることが一度もありませんでした。

後部座席はいいですよ。車窓から流れる景色を眺めて物思いにふけったり、ぼんやり考え事をしたりするのにちょうどいいんです。
逆に助手席は運転手と会話をする役であったり、前方の情報量の多い景色を嫌でも目にしたりするので疲れます。

母はよく運転中にラジオをつけていました。大体はニュースなのですが、夕方になると相撲実況が流れていました。私はそのラジオを聴きながらぼんやりと車に揺られる時間も好きでした。


その日は母と車で5分のスーパーへ買い物に行きました。
姉は部活があったので家には私しかおらず、「買い物行くけど一緒にいく?」と聞かれ、私は首を縦に振りました。買い物についていけばお菓子を必ず1個は買ってくれるからです。

スーパーの平面駐車場はいっぱいで、母は仕方なく店の屋上(といっても店自体は2階までしかない)駐車場へ停めることに。

店内でぶらぶら見てまわる母の後ろにくっついていると、「今日はパンが残ってないねぇ。あそこの○○パン屋さんにあとで行こうか」と軽く私に話してきました。
そのパン屋はスーパーとは反対方向にあり、一旦家の前を通り過ぎてさらに向こう側にあるお店です。スーパーから車で7分といったところです。

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ひととおりの買い物を済ませ、屋上駐車場にやってきたふたり。

昔の車なので鍵を開けると全てのドアロックが解除されることもなく、まず運転席のドアに鍵を差し込みドアを開け、運転席に乗り込んで内側からそれぞれのドアロックを解除するというスタイルだったので。

いつものように私は母が後部座席の鍵を開けてくれるのをドア前に立って待っていました。

先に乗り込んだ母はまず、助手席に今買った荷物をどさどさと置いていました。そして運転席のドアを閉める。


さぁ、次は後部座席のロックを解除されるぞ。
私は乗り込む気満々でドアノブに手をやりました。
ところが、母が次にとった行動はエンジンをかけることでした。


おや? と思って運転席に座る母を見る。
母はハンドルをギュッと握っている。

おや? と思っていると車が動き出し、あっけなくブーンと走り去っていきました。


おや???!?!??!? おやおやおや!!?!?!?!?


屋上駐車場にひとりポツンと残された小学生の私。
まぁ、でもすぐ気が付いて戻ってくるかなと思いしばらくその場で待機していました。


いやいやいや、帰ってこないぞ!?!?!?!???!!!!???


これ完全に私のこと気付いてないよね?
え、待ってお母さん私後ろ乗ってないんだけど???
バックミラーとか見たら一目瞭然なのに何で気付かないの??? 前しか見てない人なの???

さすがに屋上駐車場に小学生がひとり立っていたら変だし、店の人に騒がれるのも恥ずかしかったので私は意を決して車を追いかけることにしました。


今思えば、一度店内に戻って1階まで下りてから外に行けばよかったのですが、軽く私もテンパっていたんでしょう。車が上り下りするスロープを走って下りて行きました。(危ないのでマネしてはいけません)


母は次、○○パン屋さんに行くと言っていた。そこに向かえば出会えるだろうし、もしくは途中で私の不在に気が付いて引き返してくるかもしれない。
車を走らせる道は分かっていたので、変に細道・寄り道せずに母が走っているであろう道を選んで追いかけていきました。


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時刻は夕方。車内のラジオは今ごろ相撲実況だろうなと考えながら、さながらジョギングやってます風に私はリズミカルに走り続けました。


一本道で、ようやっと遠くに母が乗る車が見えました。米粒ほどの大きさです。まだ気づいてないんかい!


持久走、そんな得意でもない私でしたが「母に置いてけぼりにされた娘」ということを誰にも気付かれて欲しくなくて、必死に「私は今ただただ走っているだけの人」を装っていました。内心「お母さん早く気づいて!」と思っていました。


とうとう車は我が家の前を素通りし、目的のパン屋さんめがけて一直線のご様子。
一瞬、もうこのまま家帰ろうかな。お父さん、ちょうど帰ってくるころだし。
なんて考えもよぎりましたが、母が私の不在に気付いて再びスーパーに戻り、そこにも私が居ないとなると大騒ぎになるなと考えやっぱり走り続けることにしました。


私が我が家の前を通り過ぎてしばらく走ったころ、車はとうとうパン屋さんに入っていくのが見えました。


ちょ、お母さん! 結局最後まで気付かんかったな!!!!!


もう笑いが込み上げてきて。
どうやって母を責め立ててやろうかとニヤニヤしながら走っていますと、ようやっと車が引き返してこちらに向かってくるではないですか。
私は足を止めました。


母が車で近くまできたとき、大きく手を振って娘であることをアピール。
慌てたように車が止まり、窓を開けると「あんた! 乗ってなかったんで!」と言われました。

いや、鍵開けてくれんかったから乗れんし。そう伝えると、

「もう全然気付かんかったわ! いっつもあんた静かやけん、お母さんてっきり乗ってるんかと思ってひとりでめっちゃ話しかけよったのに。あれ独り言になってたんか!」

笑ってました。母、私が普段静かすぎるのが原因だと言って謝りもせずただ大笑いしていました。なんでやねん。


それ以来私は、車の中では「静かなタイプ」から「賑やかなタイプ」にシフトチェンジしたのでした。


母は「これ絶対、大人になってからも思い出話で言われるやろな~」と笑っていたので、ここnoteに書き残しておこうと思います。(娘の意地)



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