僕の心

放課後、騒がしくなる校内。僕は多くの音を遮るようにイヤホンを耳にさし、音楽を送り込む。今の僕にとってこれは点滴と何ら変わりない。僕の心の鎮痛剤であり浄化剤。これのおかげで、僕はいつでも心を澄んだものにすることができる。たとえ、どんなに嫌なことがあっても、どんなに辛いことがあっても。 

靴を履いて外へ出るとグラウンドの上に広がる大きな空。丁度見えている東の空は少しずつ奥の方から闇が迫っている。うっすら聞こえる賑やかな声は気付いていないフリをして校門を出た。頬を滑るひんやりとした空気は、もう時間がないぞ。そう僕を責め立てる。

マフラーで口元を覆う。無力な僕のささやかなる抵抗。
今日は歩いて帰ろう。これも僕の心の治療法。音楽を投与しながら、友人に贅沢だと言われた時間を過ごす。時折周りの景色に目を向け、季節と時間の流れを感じ、流れ込んでくる言葉に心が揺れる。

彼らは、どうしてこうも僕を苦しくさせる言葉を、メロディーを、世界観を創り出すのだろう。僕が単純な心と豊かな妄想力の持ち主だからかもしれないが、それにしても、いくつもの他にかえがたい作品を創造することのできる彼らに対して、僕は大きな憧れといくらかの嫉妬を抱いている。離れた場所の顔も名前も知らない僕の心を揺らす。時に荒波を鎮めるかのように鳴り渡り、時に濁った水を浄化するかのように響き渡る。こんな魔法を使う彼らに無力な僕が憧れ、嫉妬しないはずがない。そんな事をしても何も変わらないこともわかっているのにどうしてもしてしまうことこそ、僕が無力であることの証明でもある。僕はどうしても無力なのだ。

不意に空が大きくなる。線路沿いに田んぼが並んで高い建物が消えるここが僕は好きだ。常に光には背を向けて歩いているが、ここでは必ず振り返る。赤い空と聴こえてくる音楽が似ていて、心が揺れる。目の奥からは熱さがこみ上げてくる。








あとがきのようなもの

高校三年のいつだか、たぶん、秋か冬に書いたこれは、周りに助けてと叫ぶことができなかったあの時のささやかなSOSだったんじゃないかと、おもったりなんだり。

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