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MBTIの性格モデルに「不純物」?

前は、MBTIが作成された目的を考えてみた。

今回は、MBTIの骨幹を成す、マイヤーズとブリッグスの理論に感じた違和感を述べていきたい。
そして、その引っかかるところは悪いものではない、ということも。


タイプに当てはまらない自分

別の記事の後半に載せたとおり、ユング的心理機能から考えて、自分はINFJだという結論にたどり着いた。

そこで凄く悩まされたのが心理機能の優先順位だ。

MBTIではINFJの心理機能の頼りがちランキングは、
Ni内向直観 > Fe外向感情 > Ti内向思考 > Se外向感覚
と言われている。

それを念頭に置いて、改めて自分を見つめてみたいと思う。

私は、独自考察を好んでいながら、基本的に周りや世間からの評価がとても気になる。他人の生き方や捉え方ならば、合理的だと思ったものを取り込むことも多い。
自分の意見を飲み込んだほうが「相手を傷ついていないか」という悩みが減ると思うし、自分の思考プロセスに浸ることが楽しいのだ。
Tiが一番気楽で、Feが行動基準のようだ。

合理性をアウトプットするのが好きなんてそれTe外向思考じゃん、と思うかもしれない。
しかし私が読んだ限り、Teは実用性に関心を向けがちだ。それとは違って、私は抽象的な概念の結びつきや統合に関心を向けている。
現実がどうなっているのか、どんな手段が必要なのか。伝え方の工夫の一環としてその論法を借りることはある。ただ、関わった人間が苦しだり悩んだりしていない限り、今の現実は割とどうでもいいのである。
それから権威の言葉や他人の理論はすべて疑う対象であり、一回自分のロジックの検証を通らないと決して受け入れることはない。
現にこうして、MBTIの理論を検分しているのだ。
内向的なのは明白だろう。

自分の思考は、パッと思いついた答えを合理化させるために働きがちだ。答えが浮かび上がってから、そこにたどり着く理屈を掘り起こし、その結論を聞きたい・聞くべき人が現れたら話す。
Ni内向直観 -> Ti内向思考 -> Fe外向感情 -> Se外向感覚、という思考過程を経ることが多いのだ。
Ni優勢のINFJ (Ni > Fe > Ti > Se) であって、
Ti優勢のINTP (Ti > Ne外向直観 > Si内向感覚 > Fe) でも、
ISTP (Ti > Se > Ni > Fe) でもあるまい。

ならば、頼りがちランキングでTi > Feのタイプはないのか。
ENTP (Ne > Ti > Fe > Si)と、
ESTP (Se > Ti > Fe > Ni)が存在する。
現実を見ない私にSe優勢はあり得ないだろう。
物事を見た瞬間に結び付くのではなく、答えが出るまでかなり時間がかかってしまうほうだ。Neではあるまい。

やはりINFJなのだろう。

でも待ってほしい。
それでは自分の心理機能の優先順位は、自分のタイプとまるで一致しないではないか。

もう少し考えてみよう。

自分探しで見つけたサブタイプの必然性

この順位が固定されすぎていて、人間の偏好を説明しきれるとは思えないのだ。

補助機能(第二機能)は必ず優勢機能(第一機能)とは種類と方向が違うように定義されている。
T思考F感情が一番ならば、2番目はS感覚N直観でなければならない。
S感覚N直観が一番ならば、2番目はT思考F感情でなければならない。
一番がe外向的ならば二番目はi内向的。一番がi内向的ならば二番目はe外向的

そして第二機能と第三機能は性質も方向も逆である。
TかFが一番ならば、SiとNeかNiとSeのどちらかでなければならない。
SかNが一番ならば、TiとFeかTeとFiのどちらかでなければならない。
順番は、一番と方向が逆のほうが二番、揃うほうが三番。

INFJの例に戻ってみよう。
一番頼ってしまう心理機能がNiで、行動基準がFeの人は、どんなにTiが好きでもFeが二番目で補助機能なのだ。
MBTIは心理機能の優先順位を記述していると言っているのに、FeではなくTiのほうが好きならば、正しくない順位になってしまうようだ。Ni > Fe > Ti > Seは正しくて、真ん中の二つを逆にしたら不健全なのだそうだ。

現実はそうではないと思う。
FeとTiの力関係によって、INFJの中でもさらにタイプ分けができると思われる。
Ni > Fe > Ti > SeというFe好きな外向型、
Ni > Fe ≒ Ti > SeというFeもTiも好きなバランス型、
Ni > Ti > Fe > SeというTi好きな内向型、
に分けられるはずだ。

そこで私はマイヤーズの著書に当たることにした。
こういう風に矛盾が生じている時は、自分の理解のほうが間違っている可能性が高い。そう学習してきた。

マイヤーズはこう語った

この心理機能の順位は、あくまでも当人の好みだと言っている。そこは間違いないようだ。

These basic differences concern the way people prefer to use their minds, specifically, the way they perceive and the way they make judgments.
【筆者訳】
これらの根本的な違いは人々が好む頭の使い方、特にその知覚の仕方と判断の仕方にまつわる。

Ch. 1, Pt. I, Gifts Differing: Understanding Personality Types. Peter B. Myers, Isabel Briggs Myers. CPP, California, 1995. Retrieved from Kindle version on 2023-08-21.
第1章,第1部,分かれる才能:性格類型を知る。ピーター・B・マイヤーズ,イサベル・ブリッグス・マイヤーズ。CPP,カリフォルニア,1995。Kindle版より2023年8月21日にて抜粋。

マイヤーズとブリッグスの理論では、補助機能(第二機能)は必ず優勢機能(第一機能)とは方向が逆だ。そこも間違っていない。

If the auxiliary process differs from the dominant process in every respect, it cannot be introverted where the dominant process is introverted. It has to be extraverted if the dominant process is introverted, and introverted if the dominant process is extraverted.
【筆者訳】
補助機能が優勢機能とあらゆる点で異なるとすると、優勢機能が内向的な場合、補助機能が内向的ではあり得ない。優勢機能が内向的であればそれは外向的であり、優勢機能が外向的であればそれは内向的である。

Role of the Auxiliary in Balancing Extraversion and Introversion, Chapter 2, Part I, Gifts Differing: Understanding Personality Types. Peter B. Myers, Isabel Briggs Myers. CPP, California, Retrieved from Kindle version on 2023-08-20.
外向性と内向性の均衡における補助機能の役割,第2章,第1部,分かれる才能:性格類型を知る。ピーター・B・マイヤーズ,イサベル・ブリッグス・マイヤーズ。CPP,カリフォルニア,1995。Kindle版より2023年8月20日にて抜粋。

そして第二機能と第三機能の違いについてだ。
MBTIマニュアルを私は入手できていないが、少なくともマイヤーズの著書では明示した説明は見つからなかった。
それでも前提として、第三機能は優勢機能と方向が同じだ、という性質はきちんと暗示されている。
補助機能の役割の解説に使われたこのINFPの例を見てみよう。

INFP people (introverted feeling types preferring intuition to sensing as auxiliary) normally run their outer life with their second-best process, their intuition, so their outer life is characterized by spurts and projects and enthusiasm. They do not leave it to their third-best process, sensing, as they would have to do if both their feeling and their intuition were introverted.
【筆者訳】
INFPの人(感覚よりも直観を補助として好む内向的感情タイプ)は普段、外界生活を二番目に得意な機能である直観に回らせているため、その外界生活はスパートとプロジェクトと情熱によって特徴付けられる。感情と直観が両方とも内向的だった場合のように、この人たちが三番目に得意な機能である感覚に外界生活を委ねることはない。

Role of the Auxiliary in Balancing Extraversion and Introversion, Chapter 2, Part I, Gifts Differing: Understanding Personality Types. Peter B. Myers, Isabel Briggs Myers. CPP, California, Retrieved from Kindle version on 2023-08-24.
外向性と内向性の均衡における補助機能の役割,第2章,第1部,分かれる才能:性格類型を知る。ピーター・B・マイヤーズ,イサベル・ブリッグス・マイヤーズ。CPP,カリフォルニア,1995。Kindle版より2023年8月24日にて抜粋。

要するに、Fiが一番でNが補助機能の人は、Sで外の世界と関わることがないから、補助機能はNeでしかあり得ない、ということだ。
三番目の機能はやはり、優勢機能と向きが同じだ。

しかし、今までの理解と合致しないところもある。

その言い方だと、まるで三番目の機能は内向的にも外向的にもなれるみたいではないか。
そんな変幻自在なものだったのだろうか。

もう少し読んでみよう。

Good type development thus demands that the auxiliary supplement the dominant process in two respects. It must supply a useful degree of balance not only between perception and judgment but also between extraversion and introversion. When it fails to do so it leaves the individual literally “unbalanced,” retreating into the preferred world and consciously or unconsciously afraid of the other world.
【筆者訳】
このように、良好なタイプ発達は二点において、補助機能が優勢機能を補うことを必須とする。知覚と判断の間だけでなく、外向性と内向性の間にも有用な程度のバランスを作り出さなければならない。タイプ発達においてそれに失敗すると、当人はアンバランスな状態に取り残され、好む世界の中へと退避し、それから自覚無自覚によらず別の世界を恐れる。

Role of the Auxiliary in Balancing Extraversion and Introversion, Chapter 2, Part I, Gifts Differing: Understanding Personality Types. Peter B. Myers, Isabel Briggs Myers. CPP, California, 1995. Retrieved from Kindle version on 2023-08-20.
外向性と内向性の均衡における補助機能の役割,第2章,第1部,分かれる才能:性格類型を知る。ピーター・B・マイヤーズ,イサベル・ブリッグス・マイヤーズ。CPP,カリフォルニア,1995。Kindle版より2023年8月20日にて抜粋。

外向と内向、そして判断と知覚をしっかり育てないとアンバランスだという。
「不健全」とまでは言っていないようだ。ただ、言葉が置き換わったとしても、そういった意味合いはまるで隠せていない。
サブタイプが「正しくない発達」だという見方は、少なくともこの本が書かれた時点ではマイヤーズの中に存在していたようだ。

それは一旦置いておくとして、変幻自在なのかどうかの答えは、その直後に書いてあった。

Such cases do occur and may seem to support the widespread assumption among Jungian analysts that the dominant and auxiliary are naturally both extraverted or both introverted; but such cases are not the norm: They are instances of insufficient use and development of the auxiliary.
【筆者訳】
そのような事例は発生するし、優勢機能と補助機能が両方とも外向的もしくは両方とも内向的、というユングの学説の分析者の間に広まっている前提を支持しているように見えるかもしれない。しかしそのような事例は普遍ではない。それらは補助機能の使用と発達が不足している事例である。

Role of the Auxiliary in Balancing Extraversion and Introversion, Chapter 2, Part I, Gifts Differing: Understanding Personality Types. Peter B. Myers, Isabel Briggs Myers. CPP, California, 1995. Retrieved from Kindle version on 2023-08-20.
外向性と内向性の均衡における補助機能の役割,第2章,第1部,分かれる才能:性格類型を知る。ピーター・B・マイヤーズ,イサベル・ブリッグス・マイヤーズ。CPP,カリフォルニア,1995。Kindle版より2023年8月26日にて抜粋。

まず、第三機能は優勢機能と方向が揃うのが自然だとマイヤーズは言っているのだ。なぜなら、第二機能が発達していれば、第三機能に回ってくることはないからである。
それから、タイプのデフォルトから踏み外したサブタイプはやはり不正解扱いをされるようだ。

やはり心理機能の並び順への理解は間違っていなかった。

それでもやはり良く分からなかった。私の発達が悪かったのか、MBTIの理論が「べき論」だったのか、それとも両方だったのか。「発達障害」を示唆されて途方に暮れた末に、私は自分に生活に支障が出るほど「不健全」ではないと結論付けた。

MBTIは実は、人間の性格をありのまま記述していないのでは?
そう疑い始める私だった。

MBTIは自己啓発ツール

人間の性格をありのまま記述していなければ、一体何を目的としているのか。
それは前回、軽く触れてみたテーマである。

要するに、人を救うことを目的としているのだ。
バイアスがかかっているという疑念に拍車をかけたのは、補助機能を育てる呼びかけの必死さだった。

心理機能の強弱は関係なく、あくまでも好みだというスタンスは、前の部分で引用したとおりだ。
しかしそのスタンスで居ながら、E外向I内向でも、J判断P知覚の2ペアはしっかり使えるまで揃えないとダメだとマイヤーズは言う。

The success of introverts’ contacts with the outer world depends on the effectiveness of their auxiliary. If their auxiliary process is not adequately developed, their outer lives will be very awkward, accidental, and uncomfortable. Thus there is a more obvious penalty upon introverts who fail to develop a useful auxiliary than upon the extraverts with a like deficiency.
【筆者訳】
内向型にとって外界との接触における成功は、補助機能の有効性にかかっている。補助機能を十分に発達させていなければ、内向型の外の生活は大変いびつで、想定外で、心地悪いものになる。そのため、内向型が有用なまでに補助機能を発達させられなかった場合、似たような欠陥を持った外向型よりも顕著な不利益を被る。

The Role of the Auxiliary Process, Chapter 1, Part I, Gifts Differing: Understanding Personality Type. Peter B. Myers, Isabel Briggs Myers. CPP, California, 1995. Retrieved from Kindle version on 2023-08-13.
補助機能の役割,第一章,第一部,分かれる才能:性格タイプを知る。ピーター・B・マイヤーズ,イサベル・ブリッグス・マイヤーズ。CPP,カリフォルニア,1995。Kindle版より2023年8月13日にて抜粋。

しっかり育てる必要があると呼びかけている。育てなければ「必ず損をする欠陥」だと言い切った。

なぜそこまで必死なのか。

そんなことをする必要があるのは、内向型な人が内向機能に落ち着いてしまいがちだから、ではないだろうか。
もしくは、内向型が外向機能を発達させないと見てしまう不幸を過大解釈している、ということではないだろうか。

本当は第二機能と第三機能の順番は逆なのでは?
もう一度INFPを例にすると、MBTIでは好みの順位は
Fi > Ne > Si > Te
としているけれど、
実はNeとSiを逆にしたほうが、
Fi > Si > Ne > Te
のほうが自然なのでは?

人間の言葉に翻訳すると、
INFPが他人に見せる寛容さ・外側に発信する想像豊かな世界観は実はちょっとした仮面であり、内面では自分の価値観に対して忠実でブレにくい、といったところだ。

要するに、内向型にとって外向機能が落ち着くとは思えないのだ。
外向型でも、向きが優勢機能と方向が揃っているほうが同調しやすくて落ち着くはずだ。

そういった事例を、マイヤーズ自身も挙げている。

One brilliant and very extraverted young woman (an ENTP) protested, “But I’m never sure whether my work is good or not until I know what other people think of it!”
【筆者訳】
ある聡明でとても外向的な若い女性(ENTPの一人)は抗議した。「でも他の人が私の仕事の成果についてどう思っているのかが分かるまで、それがよかったかは永遠に分からないものでしょう!?」と。

Ch. 4, Pt. II, Gifts Differing: Understanding Personality Type. Peter B. Myers, Isabel Briggs Myers. CPP, California, 1995. Retrieved from Kindle version on 2023-08-27.
第四章,第二部,分かれる才能:性格類型を知る。ピーター・B・マイヤーズ,イサベル・ブリッグス・マイヤーズ。CPP,カリフォルニア,1995。Kindle版より2023年8月27日にて抜粋。

内向型の判断基準が自身の中にあるのに対し、外向型は判断基準が外に委ねられている。この一節が抜き出されたところは、そんな論旨が語られていた。

ENTPの心理機能の順位は、
Ne > Ti > Fe > Si
となっている。
つまりこの例は、Feに頼ることを描いたものなのだ。
外向型も第三機能に頼らざるを得ない傾向があることを、マイヤーズ自身も認めたことになる。

一位と二位の方向性が逆だという性質は、あまりにも不自然に思えた。

誤訳が生んだ悲しい誤解?

しかし、著書の中で引用されたユングの言葉を見てみると、補助機能は「どう見ても」完全に違うらしい。引用された言葉はこうだ。

【Gifts Differingで引用された英訳】
For all the types appearing in practice, the principle holds good that besides the conscious main function there is also a relatively unconscious, auxiliary function which is in every respect different from the nature of the main function.
【筆者訳】
意識的な主機能以外にも比較的に無意識的で補助的な機能が一つ存在し、その機能はあらゆる分野において主機能の性質と異なる。この原則は実際に現れるすべてのタイプに対してよく保たれる。

P. 515, 11, III, C, X, Psychological Types. C. G. Jung. Kegan Paul, Trench, Trübner, London, 1923.Retrieved from https://archive.org/details/psychological_types/page/515/mode/1up
on 2023-08-23.
ページ515,11,III,C,X,心理学的類型。C・G・ユング。キーガン・ポール、トレンチ、トリュープナー,ロンドン,1923。https://archive.org/details/psychological_types/page/515/mode/1up より2023年8月23日にて抜粋。

なるほど、補助機能の存在は確かに触れられている。マイヤーズの解釈は正当性が見られる。
しかしそれは、引用した文章が正しい場合のみである。
ドイツ語の原文を見てみよう。

Für alle praktisch vorkommenden Typen nun gilt der Grundsatz, dass sie neben der bewussten Hauptfunktion noch eine relativ bewusste, auxilläre Funktion besitzen, welche in jeder Hinsicht vom Wesen der Hauptfunktion verschieden ist.
【筆者訳】
自覚的な主機能以外、比較的に自覚的で補助的な機能がまた一つ存在しており、その機能はあらゆる観点において主機能の本質とは異なる。この原則は実際に現れるすべてのタイプによく当てはまる。

11, III, C, X, Psychologische Typen. C. G. Jung. Rascher Verlag, Zürich, 1921. Retrieved from https://www.gutenberg.org/cache/epub/61543/pg61543-images.html on 2023-08-20.
11,III,C,X,心理学的類型。C・G・ユング。ラッシャー・フェルラーク,チューリッヒ,1921。https://www.gutenberg.org/cache/epub/61543/pg61543-images.html より2023年8月20日にて抜粋。

まず、補助機能が無意識的だと言っている英訳は誤訳だった。
それから、「また一つ」という表現に注目してほしい。
文脈を補足すると、この一節は直前に第二機能に関する記述の段落があった。
すると、英訳の「besides (the main function) there is also a (function)」は、第二機能を語る前の段落があったとしても、「(主機能)以外にも一つの(機能)がある」と「(主機能)以外にもう一つ別の(機能)がある」の二通りの解釈が可能だ。
一方、原文の「neben (die Hauptfunktion) noch eine (Funktion) besitzen」は、「(主機能)以外にもう一つ別の(機能)が存在する」以外あり得ないのである。

要するに、彼女たちが今まで第二機能のものだと思っていた記述は、実は三つ目の機能のものだったのだ。
しかも、機能の所有者本人は自覚しているので、その三つ目の機能は第二機能と遜色ない重要性を持っているはずだ。

結局、「補助機能=第二機能」というのはマイヤーズとブリッグスの独自考察だった。
俗に言う1-3ループのほうが自然で、不健全ではないことも察せられるだろう。

誤解?それとも意図的な曲解?

使用者が補助機能を使っている自覚があるかどうかはともかく、誤訳が入っていたとしても、マイヤーズとブリッグスが第三機能を第二機能に間違えてしまうとは若干考えづらい。
果たしてその読み間違いは誤訳によるものなのか、それともマイヤーズが母娘二代にわたっての願望が引き起こしたものなのか。

答えは両方とも違っていた。

マイヤーズとブリッグスは、人間をありのままに記述しようとしたのだった。

To be useful, a personality theory must portray and explain people as they are. Jung’s theory must, therefore, be extended to include the following three essentials.
【筆者訳】
人格理論が有用になるには、人々をありのままに描写し説明しなければならない。ユングの理論は、そのため、下記三つの要点を取り入れるように拡張しなければならない。

Overlooked Implications of Jung's Theory, Ch. 2, Pt. I, Gifts Differing: Understanding Personality Type. Peter B. Myers, Isabel Briggs Myers. CPP, California, 1995. Retrieved from Kindle version on 2023-08-24.
見落とされたユングの理論の含意,第二章,第一部,分かれる才能:性格類型を知る。
ピーター・B・マイヤーズ,イサベル・ブリッグス・マイヤーズ。CPP,カリフォルニア,1995。Kindle版より2023年8月24日にて抜粋。

さらには、考察も踏まえて、JP判断と知覚ペア外は側に働く機能を表す、という風に定めたのだ。

When Jung’s theory was published in 1923, (Briggs) saw that it went far beyond her own, and she made an intensive study of it. Putting together the sentences quoted earlier in this chapter, she interpreted them to mean that the auxiliary process runs the introvert’s outer life. She looked at the outer lives of her “meditative” friends to see if this was true and concluded that it was.
【筆者訳】
ユングの理論が1923年に発表された時、(ブリッグス)はそれが自分のものより遥かに進んでいることを認め、徹底的に読み込んだ。本章では前に引用した文をかき集めた上で、補助機能が内向型の外界生活を回していることを意味する、という風に彼女はこれらの文を解釈した。「黙考型」の友だちの外界生活に目を向け確かめてから、間違いないと結論付けた。

The Role of the Judgment-Perception Preference, Ch. 2, Pt. I, Gifts Differing: Understanding Personality Types. Peter B. Myers, Isabel Briggs Myers. CPP, California, 1995. Retrieved from Kindle version on 2023-08-22.
判断-知覚好みの役割,第2章,第1部,分かれる才能:性格類型を知る。ピーター・B・マイヤーズ,イサベル・ブリッグス・マイヤーズ。CPP,カリフォルニア,1995。Kindle版より2023年8月22日にて抜粋。

ここで言う「黙考型」というのはブリッグスがユングのタイプ論が発表される前に自分で思いついた性格タイプの一つである。内向型とほぼ一致していたそうだ。
この一節は、内向型は第二機能で外の世界と接触していることを物語っている。その観察結果で、マイヤーズとブリッグスは「補助機能=第二機能」と「第一機能と第二機能は方向が逆」という風に結論付けた。

作成当時は本当の人間を記述していたと思われる。

しかし、マイヤーズとブリッグスがはMBTIを完成させたのは1950年代だという。

In the spring of 1957, ETS agreed to publish the Myers-Briggs Type Indicator. By fall, Myers had developed Form D, which contained 300 items on which she wanted data, and ETS began testing the form in schools in the Philadelphia area. A year later, Form F, which contained 166 of the best items and was to be the standard for the next 20 years, was developed. It is still in use.
【筆者訳】
1957年の春、ETSはマイヤーズ-ブリッグス類型指標の公開に同意した。秋の頃には、マイヤーズは彼女が望むデータ300項が含まれた表Dを開発し終え、それからETSはフィラデルフィア周辺の学校でその記入表の実用を試行し始めた。一年後、166の最良の項目が含まれる、そしてそれから20年の標準となる表Fが開発された。それは現在でも使われている。

About Isabel Briggs Myers, Gifts Differing: Understanding Personality Type. Peter B. Myers, Isabel Briggs Myers. CPP, California, 1995. Retrieved from Kindle version on 2023-08-27.
イサベル・ブリッグス・マイヤーズについて,分かれる才能:性格類型を知る。ピーター・B・マイヤーズ,イサベル・ブリッグス・マイヤーズ。CPP,カリフォルニア,1995。Kindle版より2023年8月27日にて抜粋。

当時の人々に、我々の社会がどんどん内向的に進んでいくことをどうして予測ができよう。
インターネットというもう一つの世界が手に届く距離になったことで、たったの70年弱で外界の定義がまるごと変わってしまった。外向性が物理世界に表れなくなり、内向的な心理機能も物凄く手軽に発信できるようになった。
そのことを、マイヤーズとブリッグスはどうして予測ができよう。

彼女たちに非はない。
ただし、そろそろ性格の本質を改めて捉えないと、MBTIはありのままの人間に置いていかれてしまうのではないだろうか。

新しい説明を求めて

マイヤーズの著書を読んでみて、若干不条理なところはありつつも、きちんと現実を捉えようとしていたことが明らかになった。

しかし、時代はマイヤーズとブリッグスの母娘を顧みることなく、置いていこうとしている。

なぜ、厳密性が損なわれてしまったのだろう。

答えは、イサベル・B・マイヤーズの息子であるピーター・B・マイヤーズの想いあってか、やはり著書の中に書いてあった。

The onset of World War II made dramatically clear to Isabel Myers the extent to which human differences can cause misunderstandings—even to the point of threatening an entire civilization. She wanted to find a way for people to understand rather than to destroy each other. She also became particularly interested in finding a way to help people, and especially women, fit into the new jobs that were created by the war effort and those vacated by men serving in the armed forces.
【筆者訳】
第二次世界大戦の開戦は、人間の差異がいかに誤解を生むことが可能なのかを劇的なほどにイサベル・マイヤーズに明確に示した――文明まるごと一つを脅かしてしまうほどだった。彼女は人間を互いに破壊ではなく理解させる方法を探そうとしていた。更に、参戦と男性の入隊で空けた職場の新しい欠員に、人々が、特に女性が適応するように支援する仕方を探すことに、彼女は殊更に関心を向けていた。

About Isabel Briggs Myers, Gifts Differing: Understanding Personality Type. Peter B. Myers, Isabel Briggs Myers. CPP, California, 1995. Retrieved from Kindle version on 2023-08-27.
イサベル・ブリッグス・マイヤーズについて,分かれる才能:性格類型を知る。ピーター・B・マイヤーズ,イサベル・ブリッグス・マイヤーズ。CPP,カリフォルニア,1995。Kindle版より2023年8月27日にて抜粋。

世界大戦の再発防止が彼女の悲願だったのだろう。
呼びかけに強い言葉を使わなければ、なかなか動いてくれない大人たちが相手だった。
INFPの自分の価値観に一直線なイメージと違って、しっかりと大局観を持った見方だ。
それと同時に、平和と平等を願うという気持ちに物凄く忠実で、批判に挫けないところは、どこまでもINFPらしいと言えるだろう。

そして原因はもう一つあったと思われる。

Despite a long and protracted battle with cancer, Isabel Myers completed her book shortly before she died. Gifts Differing was published posthumously, just a few months after her death. It remains a tribute to her lifetime appreciation for the beauty, strength, and infinite possibilities of human personality in all its fascinating varieties.
【筆者訳】
長く長引いたガンとの戦いを経てもなお、イサベル・マイヤーズは著書を他界する直前に完成させた。Gift Differing(分かれる才能)は彼女の死後に出版され、その死からはわずか数か月だった。この一冊は、性格の魅せる多様性に宿る美しさ、強さ、そして無限の可能性に対して、彼女の生涯分の感嘆を表した捧げ物として残るだろう。

About Isabel Briggs Myers, Gifts Differing: Understanding Personality Type. Peter B. Myers, Isabel Briggs Myers. CPP, California, 1995. Retrieved from Kindle version on 2023-08-27.
イサベル・ブリッグス・マイヤーズについて,分かれる才能:性格類型を知る。ピーター・B・マイヤーズ,イサベル・ブリッグス・マイヤーズ。CPP,カリフォルニア,1995。Kindle版より2023年8月27日にて抜粋。

彼女がガンで日々弱っていく体と戦いながら、なんとか力を振り絞ってこの「分かれる才能」を書き終えたことは、容易に察せられるだろう。

ならば、すべきことは一つなのではないだろうか。

マイヤーズとブリッグス母娘がしたように、そして新しくなった時代の生き方に応じて、ユングの理論を再構成するべきではないだろうか。

その目標は、私が車輪を再発明するように、基盤から作り直すまでもない。すでに有志の方が思いついて、未完成でありつつも理論として書き上げている。

でもそれは、また別の記事の話である。