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【大人の読書感想文】三浦しをん著『星間商事株式会社社史編纂室』(ネタバレあり)

この記事(マガジン)では、辻村が読んで面白かった小説etcについて、好き勝手に綴る感想文です。

少し早口でしゃべっている女を思い浮かべながらお読みください。

1.どんな小説?


星間商事株式会社社史編纂室 (ちくま文庫) | 三浦しをん | 日本の小説・文芸 | Kindleストア | Amazon

インパクトのあるタイトルに惹かれて読んだ小説。その通り、星間商事株式会社社史編纂室を舞台に繰り広げられるのですが、そこで何が起こるかというと・・・

【あらすじ(公式サイトより)】
川田幸代29歳は社史編纂室勤務。姿が見えない幽霊部長、遅刻常習犯の本間課長、ダイナマイトボディの後輩みっこちゃん、「ヤリチン先輩」矢田がそのメンバー。ゆるゆるの職場でそれなりに働き、幸代は仲間と趣味(同人誌製作・販売)に没頭するはずだった。しかし、彼らは社の秘密に気づいてしまった。仕事が風雲急を告げる一方、友情も恋愛も五里霧中に。決断の時が迫る。

https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480431448/


社の秘密、というのが作品の肝なのですが、なんと、その秘密を暴くために社史編纂室で同人誌を作成し、コミケに出店しようという上司命令が下るのです。

私だったら「上司 無茶ぶり 止める 方法」でgoogle検索しそうな案件。

この社の秘密を暴く過程を柱として、主人公 幸代の恋愛、友人関係、仕事といった、見て見ぬふりしてやり過ごせないエッセンス達とどう向き合うかを描く、直球エンターテイメント小説だと感じました。

2.個人的おもしろポイント

幸代の恋模様がリアル


 幸代には超自由人の恋人(突然ふらっと数か月海外に行ってしまう)がいるのですが、途中で二人の間にすれ違いが起きてしまいます。そんな中で私がめちゃめちゃお気に入りは、二人が仲直りをする、このシーン。

一緒に風呂に入った。バスタブは窮屈だったが、後頭部を幸代の肩に預けた洋平を抱えて座っていると、幸せだった。幸代は湯のなかで洋平の胸をなで、それから指を這いあがらせて洋平の肉の薄い頬をたどった。洋平が身じろぎし、幸代を見上げてくる。

や~~~~~!

脳内少女漫画が炸裂しました。

恋人同士なら何てことのないシーンかもしれませんが、それまでの二人のすれ違い、そして恋人の分かってるんだかわかってないんだかの微妙な態度に、モヤモヤしていた読者(私)からすると、このシーンのギャップがたまらなく良かったです。

三浦しをんさんの描写の柔らかさが相まって、本当にほっこり&トキメキのある、素敵なシーンでした。

劇中作のクオリティが楽しい

幸代は友人とサークルを作ってBL小説の同人誌をイベントで販売するのが何よりの至福の腐女子です。また、「会社で同人誌を作ろう」というとんでもない発想をした本田課長も、自作の小説を得意気に幸代に見せます。

幸代のBL同人誌


「(中略)あなたが、俺の愛そのものなんじゃない。愛するってどういうことなのか、その気持ちがどこに眠っているのか、俺に教え、引きだしてくれたのが、あなたなんだ。だから、もしあなたを失ったとしても、俺のなかの愛までが失われることはないのかもしれない」
消えることのない愛情の光を、だれかの胸に灯せる人間が、いったいどれぐらいいるだろう。

本田課長、渾身の小説


入り婿とは肩身の狭いものです。連れ添って何十年経とうとも、夫婦なぞ所詮は他人。あの気の強い妻と、蓮のうえでも再び夫婦にならねばならぬとは、つらい縁を結んだものよ。それぐらいなら、いっそ来世が来ないよう、永遠に死にたくない、とまで本間は思います。しかし死なずにいるということは、今生で妻とずっと夫婦でありつづけることを意味します。それも困る。ちなみに妻が本間よりさきに死ぬことは、絶対に、天と地がひっくり返ってもありえません。

二人のキャラクター性が良く分かるというか…本田課長のとぼけっぷりが癖になる作品に仕上がっていて、読んでいて笑ってしまいました。

この作品には要所要所に、「物語を紡ぐ」ことがキーポイントになっています。そのため、その時々で出てくる作中作の解釈を考えながら読み進めることも、この作品の楽しいポイントです。


関わる人の数だけ顔がある

仕事、恋愛、友人関係。幸代の悩み(&ぼやき)は尽きませんが、少しずつ模索しながら進んでいきます。

この本を読み終わったとき、まず私が思ったこと。

「面白い小説ってこういうことか!!」

人は関わる人の数で様々な役割と与えられ、色んな顔や表情や感情を持ち合わせながら暮らしています。仕事のことだけ、恋愛のことだけしか考えていない人なんていない。

そういう色んな側面を混ぜ合わせつつも、肝となる部分はしっかり描き切り、最後はすっきり読み終われる…

私もこんな小説書きたい!!と思わずにはいられませんでした。

きっぷの良い、直球エンターテイメント作品。肩の力を抜きながら読めつつ、難局に立ち向かう幸代を応援せずにはいられません。

すかっとした気持ちが味わいたい時にもってこいの作品です!



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