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【2分で胸キュン】好きな子に恋愛相談をくらって死にかける男子高校生の昼休み【小説】

「男の子が絶対にオッケーしたくなる告白の言葉って何だと思う?」

中学の頃から腐れ縁の鍋谷が言う。メンチカツサンドを豪快に口に運ぶ様子に色気は感じられないが、発した言葉は完全に恋する乙女のそれだった。

ギャップに思考停止した俺が生返事すると、すかさずちゃんと考えて、と注意が飛ぶ。

「一応聞いとくけど」
「何」
「実は俺が好きとかそうい「ありえない、から」

ですよね。現実なんてそんなもんですよね。俺は自らが放った手留弾で完全にダメージを受けた。誤魔化すようにしてメロンパンを頬張る。

こうして毎日昼飯一緒に食ってるのに。他に好きなやつがいるならそいつと食べろよ。毎回昼休みが始まったらすぐにトイレに駆け込んで、ワックスでヘアスタイルを整え直している俺の気持ちになって欲しい。

お陰で俺はクラスの連中から「めちゃめちゃ腹を下しやすい男」だと思われている可能性だってあるんだ。

そんなモヤモヤを、ちっぽけなプライドで何とか懐に収める。精一杯の強がりで、俺は緑谷の質問の答えをちゃんと考えてやろうと決めた。

武士の情けである。こうなったらセルフ介錯で失恋の痛手も葬り去ろう。どこまでも現実を突きつけてもらい、とことん打ちのめされた方が良い。

開いた窓から入ってくる風が異様に冷たい。死が迫っている合図かもしれない。縁起でもない。俺は緑谷に気づかれないようにそっと窓を閉めた。

入ってくる風のせいで緑谷の二つに結んでいる髪を揺れているのを見るが何より好きだった。だった、と思っている時点で俺の恋心は運命を受け入れだしたらしい。

「どんな奴に告白したいの」
「言わない」
「言わないとアドバイスできねーよ」
「…顔がタイプでぶっきらぼうだけど優し「もういい」

セルフ介錯は失敗である。全て聞いたら今自分が胃の中に詰め込んでいた炭水化物の塊が飛び出してしまいそうだ。

「…とにかく素直な気持ちをぶつければいいんじゃない」
「ええー。それだけでいいの」
「いいよ」

もうこの話はこれで終わりにしよう。俺の失恋の痛手はあと15分しかない昼休みでは癒せそうにもない。武士だって時には恋に破れてしくしく泣いたっていいのだ。

俺の言葉を聞いた緑谷は、黙りこくってしまい、メンチカツサンドに集中し始めた。睫毛が長い。頬のラインが赤ちゃんみたいにぷるぷると柔らかそうで、愛らしい。見た目に反して少し気の強いところが、芯の強さを感じさせて好きだ。

延々と出て来る俺の死に際の恋の叫び。いい加減止めて欲しいという願いが届いたのか、メンチカツサンドを完食しおえた緑谷が、猫背がちだった背中を急に真上から吊り上げられたかのごとく、姿勢を正した。

「分かった。告白する」
「あ、うん・・・がんばれ、よ」

激励の言葉とは思えない、ダイイングメッセージを呟いて死ぬ脇役のような音量で俺は答えた。やっぱり今日は早退しよう。「最近腹が弱くて」って言えばいい。もしかしたら、この為におれは自らフラグを立て続けていたのかもしれない。そう思えると泣けてきた。

「私、この前の数学、赤点だったの」

うん?

「は?赤点?」
「そう。あと5点だったのに」
「そうか。惜しかったな」

だからさ、と緑谷は深く息を吸い、右手で左手のシャツの裾をぎゅう、と掴みながら続けた。

「だから、次のテストまでに数学教えてよ。できれば、毎日。放課後、とか」

お願い、と頼み込む鍋谷の顔は朱に染まっている。死にかけだった俺の心臓も、延命措置を施された如く、急に活気を取り戻し始めた。

「いいよ、勿論。それぐらい」

ほら、素直な気持ちをぶつければ告白はオッケーされる。ぶつけられた俺はスカした答えしかできなかったけれど。

許してほしい。何せ、俺の恋心は、真正面から切り込まれたせいで今にも暴発しそうなのだから。


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