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#4 出会い

リカーショップの店員。

それが、僕にとってはじめての
アルバイトでした。

レジ打ちや商品補充、重たいビールケースを
積み上げていく業務がありましたが
中でも驚いたのが「バーコードの発行作業」
でした。

様々なお酒にコード番号が割り当てられており
機械でシールを作り、貼っていきました。

世界各国から輸入されたお酒は、当時
地域ごとにバーコードの仕様が違い
使えなかったからです。

それまでバーコードとは
予め商品についているものだと思っていたので
「自分でバーコードを作って貼る」という
作業は、とても不思議な感覚でした。

年末の忙しい時期は、バーコードシールを
貼る時間がありませんでした。
そのため、ヘネシーVSOPは「1004」
WILD TURKEYは「904」など
よく出るお酒のコードを覚え
バーコードスキャナーを使わず
正確かつ迅速にレジ打ちを行いました。
僕はその作業に喜びを感じ
暇さえあればコードを覚えていました。

コードは、そのお店独自のものだったので、
その後、何の役にも立ちませんでしたが、
ワインやウィスキー、ブランデー、ジン、
ウォッカ、ラム、日本酒、焼酎など
多くのお酒の種類を覚えることができました。

バーコードとともに気になったのが
POSシステムのレジでした。
POSレジは、小売業の効率化を
肌で感じさせてくれましたが、
ごくまれに、そのPOSレジ達が
「ピー、ピー、ピー」と悲しそうな
悲鳴をあげることがありました。

すると、決まって上の階から色白で
メガネをかけた優しそうなお兄さんが
降りてきました。

お兄さんは、POSレジに触れると、
僕たちが普段見たこともないような
黒い背景画面を瞬時に表示させ、
流れるようにマウスを操り、
問題のありかを探りました。
原因の箇所を見つけると、
掛けてるメガネをクイッと持ち上げ、
位置を正し、ひと呼吸をおきます。
そして、一気に問題解決に向け
パチパチとキーボードを弾きました。

問題が解決し、画面を元に戻すと、
そばで固唾を飲んで見守っていた
僕たちに向かって、

「はい、これで大丈夫。迷惑かけてごめんね。」

と、にこやかに語りかけ、颯爽と
エレベーターで上の階に戻っていきました。

それはまるで、ウルトラマンのようでした。

それから、僕はレジがピーピー鳴くと
「セブンが来る!」と
心のなかで、そっと喜んでいました。

セブンを見ることができるのは
月に一度くらいでしたが
その仕事は、いつも見事で爽やかでした。
同じ会社の社員さんなのに、
普段はどこにいるのかわからず、
それがまたミステリアスでしびれました。

ある日、またPOSレジがピーピーとなった時、
セブン登場と思いきや、なんと階段から
降りてきたのは、モジャモジャ頭の
ちょっと頼りない兄ちゃんでした。

モジャの兄ちゃんは、修復作業を試みたのですが、
まだ新人なのか、うまく直らない状況が続きました。
あきらかにモジャは焦っていましたが、
ほどなくして、セブンが登場すると
モジャに優しく指導しながら、見事に解決しました。

すべてが終わると、
「これで次からは対応できるようになったな!」
とモジャの肩を叩き、優しく励ましていました。

僕はその姿を見て、
(すごい!かっこいい!)
と思いました。

セブンやモジャが、「システムエンジニア」
という職業だと知ったのは、
ずっと後になってからでした。

今思うと、システムの世界に憧れを感じた瞬間は
実は、この時だったのかもしれません。

10年後、あるシステム開発を依頼され、
POSレジの開発担当になった時、
ここでの知識や経験が役に立ちました。

リカーショップでは、
アルバイトという職域でありながら、
上役の方々から社員さん、バイト仲間まで
とても距離が近く、
プライベートでもよく飲みに
連れて行ってもらいました。

大学やサークルの仲間や友達ではなく、
仕事で苦楽をともにする仲間がいる。
そんなコミュニティーがある。

これは当時の僕にはとても新鮮な感覚でした。
今でも仲良くしていただいている人生の師匠
との出会いもこの頃でした。

「システムの世界」そして、
「仕事仲間とのコミュニティー」
を教えてくれたリカーショップ。

僕と社会が初めて出会った場所でした。

(つづく)

以前、会社のメールマガジンで掲載していた起業記です。
お時間よろしければお付き合いください。

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