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政治講座ⅴ1616「香港、100万ドルの夜景と自由はいずこ」

半世紀前に自由の世界の香港旅行にいった思い出がある。今や、恐怖政治が支配する監視社会になった。何もしなくとも恣意的に嫌疑をかけて逮捕・拘束する警察国家になったようである。今回は香港の報道記事を紹介する。

     皇紀2684年2月2日
     さいたま市桜区
     政治研究者 田村 司

香港、新たな治安関連条例を制定へ スパイ防止、国安法を補う狙い

朝日新聞社 によるストーリー • 14 時間

香港国家安全維持法をアピールする政府広告=2020年8月、香港、益満雄一郎撮影© 朝日新聞社

 香港政府は30日、国家の安全を守るためとして、治安関連の新たな条例の制定に乗り出した。憲法にあたる香港基本法の23条で求められている手続きだが、市民の反発が強かったため長く見送られてきた。政府は、2020年に施行された香港国家安全維持法(国安法)が網羅できていない部分を埋める狙いだと説明している。

 香港政府は中国から、条例制定を強く求められてきた。政府は新条例で「海外勢力」が香港の行政や立法、司法、選挙に影響を与えることを禁じたい考えを表明。スパイ行為を防ぐためとして、海外勢力から市民らが利益を得ることを制限したいという方針も示した。また、香港内外で設立されたNGOなどが香港の安全に悪影響を与える活動に関わることを制限する方向という。2月28日まで市民から意見を募り、条例案に反映するとしている。

 李家超(ジョン・リー)行政長官は年内の制定を掲げており、30日の会見では「すでに条例案の作成を命じた。新条例は、経済活動にも域外人材の獲得にもプラスになる」と述べた。

香港GDP、2022年は3.5%減 人材流出が深刻

習政権

2023年2月1日 19:07

香港が享受してきたグローバル化の恩恵がしぼみつつある=ロイター

【香港=木原雄士】香港政府は1日、2022年の実質域内総生産(GDP)の伸び率(成長率)が速報値で前年比マイナス3.5%だったと発表した。新型コロナウイルス対策の規制で個人消費や輸出がふるわなかった。22年までの4年のうち3年がマイナス成長となった。グローバル化の恩恵がしぼみ、深刻な人材流出に直面している。

GDPの内訳は民間消費支出が1.1%減、設備投資をはじめとする固定資本形成は8.5%減だった。GDPのほかにも経済指標の悪化が目立つ。政府が算出する住宅価格指数は22年12月、前年同月より16%下がった。通年の下落はリーマン・ショックの08年以来14年ぶり。22年12月の輸出は同29%減で、約68年ぶりの大きな落ち込みになった。

香港の経済環境は10年ぶりのマイナス成長を記録した19年から厳しい状況が続く。同年には大規模な民主化デモがあった。20年には新型コロナの感染拡大にくわえ、香港国家安全維持法(国安法)が施行された。厳しい新型コロナ対策と政治情勢の変化が重なり、中国本土と世界をつなぐ香港のハブ機能は損なわれた。

深刻なのが専門人材の香港離れだ。日本貿易振興機構(ジェトロ)などが1月に実施した香港の日系企業向け調査では、56%が過去1年間で「人材流出があった」と回答した。38%は香港外への流出を経験した。

中国式の「愛国教育」を嫌う子育て世帯が海外に移住し、強みだった人材の蓄積が薄くなっている。人材流出があったと答えた日系企業の38%は代わりの人員を確保できていない。

競争力低下を危惧する香港政府は大がかりな広告宣伝キャンペーンを始める。すでに有力経済人らが参加する特別チームを発足させた。欧米との関係悪化を踏まえ、東南アジアや中東とのパイプづくりも急ぐ。李家超(ジョン・リー)行政長官は4日から経済人ら約30人を伴いサウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)を訪問する。

李氏は中東訪問によって中国の広域経済圏構想「一帯一路」を強化したいと語った。豊富な石油マネーを中国に呼び込む役割を目指す。

香港は長く欧米企業の中国ビジネスの拠点だった。だが、李氏自身が米国から制裁を受けるなど、欧米との関係改善は当面、望みにくい。香港の不動産大手、恒隆地産の陳啓宗会長は「香港はグローバル化の大きな恩恵を受けてきたが、それが逆回転するのならば、役割を修正しなければならない」と話す。

2021年11月08日

【今の香港で今起きていること①】規制と統制が進む香港で市民たちはスマホを掲げて行進した

「これで言い渡しを終わります」

裁判長の事務的な判決が言い終わるやいなや、傍聴席から

「頑張れ!」「いつまでも応援するよ!」

の大合唱。

ガラスのパネルで仕切られた向こう側の席にいた被告たちが

「民主を我らに!」

「みんながんばろう!」

などと言って拳を挙げ、刑務官に引っ張られ法廷をあとにしていく。

何度、こんな光景を見たことだろう。私はもう1年半以上、香港で裁判所通いを続けている。今やここだけが、市民の心の叫びを直接見聞きできる唯一と言っていい場所になっているから。

忘れないために書いておく

私は2018年7月に香港に赴任した。2019年夏から本格化した大規模デモは年を越しても続いた。それを最初から現場で見続けてきた。

時に香港の未来を熱く語る若者たちに胸が熱くなったり、過激化するデモで混乱していく街の様子に心を痛めたりしてきた。

香港の抗議デモ(2019年)

そして2020年、香港国家安全維持法が施行。

これによって活動家や政治家、新聞記者まで、民主派の主要な人たちはほぼすべてが拘束され、街中から姿を消した。

その代わりに法廷では毎日毎日、冒頭に書いたような光景が繰り返されている。

「香港の民主化運動はもう終わった」

という人もいれば、

「混乱から安定を取り戻した」

などという人もいる。

でも少なくとも裁判所では民主派の闘いが続いている。

新型コロナの影響もあって、デモの当時から国家安全維持法の施行後も、激変する香港の今を追い続ける日本メディアの記者はごくわずかだ。

そして取材できる空間が急激に狭まっていることを実感するからこそ、香港に居続ける私はなるべく多くの現場に直接足を運び、人々のことばに耳を傾けなければと思っている。

でも日々あまりにいろいろなことが起きすぎて、そして動きが速すぎて、伝えきれないと焦るばかり。

まずは、今一番気になっている彼女のことから書いておきたい。

いろいろ考えてもしょうがないから

この2年あまりで私が直接話しを聞かせてもらった人たちの中には、逮捕、起訴されて今はもう自由には会えない人たちが何人もいる。

鄒幸彤(すう・こうとう)さん(36)もその1人。

最初の出会いは2020年5月、街なかで行われていた街頭宣伝活動を取材した時、その場にいた彼女にインタビューした。

中国の習近平指導部によって、香港で反政府的な動きを取り締まる国家安全維持法の導入が決定されたばかりで、来たる法律の施行を前に、彼女はこう批判していた。

鄒幸彤(すう・こうとう)さん:

「私たちのような活動はもうできなくなるでしょう。でももっと怖いのは、新しい法律が社会に恐怖感を植え付け、人々を沈黙させてしまうことです」

香港国家安全維持法に対する民主派の人たちの憂慮を的確に表現していたと思ったけど、このとき私は、彼女のことをあまり気にとめていなかった。

彼女はほかにも多くいる著名な活動家たちの陰に隠れて、表舞台で発言することも少なく、どちらかと言えば“裏方さん”という印象だったから。

鄒さんはイギリスの名門、ケンブリッジ大学を卒業した弁護士。化粧っ気のないTシャツ姿でケラケラとよく笑い、「だれもこの先のことはわからないし、いろいろと考えてもしょうがないから」と話していた。

イギリス留学中に民主化運動に興味を持ち、中国本土の労働者や活動家の支援に関わるようになったという。

そして帰国後、香港の市民団体「支連会(香港市民支援愛国民主運動連合会)」に加わった。

支連会は1989年5月、北京で民主化を求めて座り込みを続ける学生たちとの連帯を示そうと、香港で結成された団体だ。

学生たちの運動が武力で鎮圧された天安門事件に抗議の集会を開き、その後も32年にわたって犠牲者を追悼し、事件を伝え真相を追求してきた。

当時の学生運動をきっかけに始まった団体だから、メンバーはほとんどが50代や60代。事件当時は4歳だった鄒さんが前面に出る場面は多くなかったのかもしれない。

初めて集会に参加したころ(12歳)

たとえ1人になっても

最初の取材からちょうど1年後のことし6月、支連会の副代表として積極的に発言する鄒さんに会った。

この時すでにほとんどの幹部が逮捕、勾留されていて、ほぼ唯一保釈されて自由の身だったのが鄒さんだった。鄒さんはことしも追悼集会を開こうと訴えていた。

街頭でろうそくを配る鄒さん

支連会が30年にわたって毎年6月4日に開いてきた追悼集会は、去年「新型コロナウィルス対策」を口実に初めて許可されなかった。

私はその去年の夜のことを、今も鮮明に覚えている。集会は不許可だったにも関わらず、予定されていた公園には市民がろうそくを手に続々と集まり、その場を埋め尽くした。

その数、数千人。

歌を歌う人もいれば、静かに目を閉じて祈りを捧げる人の姿もいた。それが香港市民の「声」だった。

2020年6月4日 市民は公園に集まった

「追悼集会を続けたい」。鄒さんがかたくなに主張する姿は、私には「逮捕されたほかの幹部たちの分まで自分がやり遂げなければ」という強い責任感から来るもののように見えた。

しかし鄒さんが警察に申請した追悼集会はことしも禁止になり、6月4日当日、会場になるはずだったビクトリア公園は午後になると封鎖された。

ビクトリア公園を封鎖する警官たち

「たとえ1人でも追悼する」と言っていた鄒さんは、この日の早朝、「禁止された集会を呼びかけた」として逮捕されていた。

呼びかけた鄒さんが拘束され、追悼しようという人はどれくらいいるのか。気になった私は夕方、公園を見に行った。

警察官の姿しかない。

「禁止された集会を行うと罪に問われる」

静まり返った園内に時折、不釣り合いな大音量で警告が鳴り響いていた。

しかし公園の外を見ると、大勢の市民がスマートフォンの灯りをともしながら歩いていた。人の数は去年に比べれば格段に少なかったが、それはとても静かで、厳かな姿だった。

市民たちは力ずくで抑え込もうという当局の姿勢に無言で抗議していた。行列は公園の周辺から1キロほど離れた隣駅の繁華街まで続いていた。

大勢の市民がスマートフォンの灯りをともしながら歩いていた

【香港取材の”おと”】

大勢の市民がスマホをつけながら歩いていた2021年6月4日夜の香港、このときの街の音


他の街でも同様の光景が見られた。私は「気が済まない」と思う市民が、まだこんなにたくさんいるんだと、正直驚いた。

2日後に鄒さんは保釈された。警察所の前に集まった記者たちの前で、鄒さんは多くの市民が追悼の気持ちを表してくれたことに、ただ感謝の言葉を述べていた。



(若槻支局長の香港取材ノート、次回は「蒸し暑くせまい拘置所で彼女はどう解散を受け止めたのか」。来週月曜日に掲載します。ご意見ご感想もお寄せください)

若槻真知 香港支局長

島根県出身。97年NHK入局。大阪放送局、横浜放送局
韓国ソウル支局、富山放送局を経て2018年から香港支局長
地方局時代は主に検察事件や裁判を担当
海外でも人権や社会問題の取材を続けている。
趣味は山登りと美術・映画鑑賞。香港4大トレイルを踏破。

赴任した街ではマラソンに「挑戦する」のがマイルール。

【香港取材ノート】

【今の香港で起きていること①】規制と統制が進む香港でも市民たちはスマホを掲げて行進した
【今の香港で起きていること②】蒸し暑い拘置所で彼女は「敗北」をどう受け止めたのか
【今の香港で起きていること③】裁判という舞台で共に闘う“共演者”たち
【今の香港で起きていること④】「大好きな香港」を捨てて旅立つ彼女を見送りながら、涙が止まらなかった私
【今の香港で起きていること⑤】多くの市民から「ありがとう」と言われた新聞があった
【今の香港で起きていること⑥】”愛国者”しか議員になれない あの民主化の熱狂からたった2年で
【今の香港で起きていること⑦】「何をしても親中派が勝つ選挙」それは”儀式”なのか
【今の香港で起きていること⑧】“We Are Hong Kong” 香港から日本へ問いかけること


参考文献・参考資料

香港、新たな治安関連条例を制定へ スパイ防止、国安法を補う狙い (msn.com)

香港GDP、2022年は3.5%減 人材流出が深刻 - 日本経済新聞 (nikkei.com)

【今の香港で今起きていること①】規制と統制が進む香港で市民たちはスマホを掲げて行進した|NHK

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