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政治(技術)講座ⅴ1702「ペロブスカイト太陽電池の実用検証」

 日本没落論で日本を鼓舞することなく、悲観する著書が花盛りの時期があった。しかし、戦後の日本経済を見て・実感してきた吾輩は「日本は捨てたものではない」と考える。
日本には四つの季節があり、春夏秋冬と季節は移り変わる。経済も永遠の繁栄はなく、季節と同じように繁栄と衰退を交互に繰り返すのである。日本の歴史で神武天皇から2684年間を俯瞰すると、日本の社会は色々な文化を育んだ。
今回は日本の産業未来をを明るく照らす「ペロブスカイト太陽電池」の話題を紹介する。これを見ると「日本は捨てたものではない」と必ず思うと確信している。これ以外に日の目を浴びずに科学の研究・技術開発に尽力されている研究者に心から敬意表する。
今回はそのような報道記事を紹介する。

     皇紀2684年3月23日
     さいたま市桜区
     政治研究者 田村 司

「あらゆる場所が発電する都市に」 次世代太陽電池、都庁で検証

朝日新聞社 によるストーリー

ペロブスカイト太陽電池搭載の環境センサーを手にする小池百合子知事=2024年3月19日午前11時2分、東京都庁、太田原奈都乃撮影© 朝日新聞社

 軽量で生産コストが安い次世代の太陽電池ペロブスカイト太陽電池」の検証が東京都庁で始まった。早期実用化を目指す都が複数の開発企業と検証を続けている。国内発で世界的にも注目度の高い新技術を発信しようと、都は検証の様子を20日から一般公開する。

都庁展望室に設置されたペロブスカイト太陽電池搭載の環境センサー(上)。測定された温度や湿度は下の画面に表示される=2024年3月19日午前10時45分、東京都庁、太田原奈都乃撮影

 ペロブスカイト太陽電池は、主流のシリコン型太陽電池と比べて重量が10分の1ほどで、薄くて曲げられる。壁面などにも設置できるほか、弱い光でも発電でき、消費電力が大きい機器にも活用できる。都は昨年、下水処理施設で国内最大規模の実験も始めた。

 今回はリコーなどとの共同実施。都庁第一本庁舎45階の南展望室で来年4月まで、同社製の電池を用いたCO2濃度などの測定機器を稼働させ、発電性能や耐久性、通信状況などを調べる。都住宅供給公社が提供する板橋区内の高齢者向け住宅でも同様の検証を予定している。

 19日の開始式で、小池百合子知事は「日本が誇る技術をスピード感を持って実装し、あらゆる場所が発電する未来都市を作りたい」と話した。脱炭素社会の実現に向けて国も開発を後押ししている。(太田原奈都乃)

ロブスカイト太陽電池とは

ペロブスカイトとはなにか

 太陽電池にはさまざまな種類がありますが、基本的には光のエネルギーが当たると、電子(-)と正孔(+)*1が発生し、それらが移動することで電気を生み出します。現在主流となっているシリコン系太陽電池でもシリコン製半導体に太陽光が当たることでこの現象が起こります。

 ペロブスカイトとは灰チタン石(かいチタンせき)のことで、その独特の結晶構造は「ペロブスカイト構造」と呼ばれます。この結晶構造を持つ物質は他にもあり、またさまざまな物質を合成して作ることもできる*2ので、それらを総称して「ペロブスカイト」と呼ぶようになりました。

 これまでペロブスカイトは圧電材料などに広く利用されてきました。他方、有機物を含むペロブスカイト結晶は、電力を光へ変換する発光材料としての研究が行われてきましたが、これを太陽電池に使うことを桐蔭横浜大学教授の宮坂力氏のグループが考え出し、電解液を含む色素増感太陽電池に組み込み光から電力に変換することに成功しました。しかし変換効率は3%台であまり注目されませんでした。その数年後、オックスフォード大学と産総研の共同研究で固体型太陽電池の開発に成功し効率10%以上を達成したことで世界に広がりました。

(*1)正孔はホールとも呼ばれる。電子が抜けた「抜け殻」のような部分だが、電子は電気的にマイナスなので正孔はプラスになる。これを運ぶ層がホール輸送層である。輸送層を形成する材料としては有機物が用いられることが多い。

(*2)ペロブスカイトの結晶構造を作る化学物質の組み合わせや構成比は数百種類におよぶ。


ペロブスカイト太陽電池の特徴

 ペロブスカイト太陽電池には、優れた点がいくつもあります。まず、シリコン系太陽電池とは異なり、材料を塗布や印刷で作ることができることです。一日に製造できる量が多いことから低コスト化が期待できます。

 ゆがみに強いので軽量化が可能であることも長所です。シリコン太陽電池の母材であるシリコンウエハは薄く割れやすいため、通常厚さ3 mm程度のガラスに貼り付けてポリマーシートで挟む構造になっており、通常販売されている製品では1 m²あたり11 kgから13 kgくらいになります。ペロブスカイト太陽電池の場合、小さな結晶の集合体が膜になっているため、折り曲げやゆがみに強く、シリコン太陽電池の10分の1くらいの重量を目標にしています。駐車場、工場、倉庫、仮設店舗など、耐荷重の大きくない建物の屋根などに設置できます。

 材料も、特に高価な貴金属などを使わず、比較的手に入りやすいヨウ化鉛やメチルアンモニウムなどが素材になり、それらをコーティング技術で加工できるため、製造コストを抑えられることも長所と言えるでしょう。

 また、エネルギー変換効率も向上してきており、主流のシリコン太陽電池と比べても遜色ない効率になってきました。前述の通り2009年頃にペロブスカイト太陽電池の研究が始まった当初は、変換効率3%程度でしたが、固体にすることで10%以上に高効率化し、材料や製法の改良が進み、現在は25%を超えるとする論文も出てきています。


ペロブスカイト太陽電池の実用化に向けた取り組み


実用化に向けて世界各国で研究が進む

 研究は世界各地で進み、特に韓国や中国からは論文がたくさん出て、ベンチャー企業も増えました。1 cm²以下の小さな研究用サイズにはなりますが、変換効率で世界最高の数値を現在出しているのは韓国です。またヨーロッパでもいくつかベンチャー企業が生まれています。

 日本では、30 cm角程度の面積のモジュールと呼ばれる太陽電池で世界最高効率を達成しています。また日本の材料メーカーは非常に強く、シェアも大きく、世界中にペロブスカイト太陽電池の材料を供給しています。さらに、エレクトロニクス系メーカー、材料メーカー、化学メーカーなどが実用化に取り組んでいます。

実用化に向けた産総研の取り組み

 実用化するには、高い効率を維持しながら耐久性の向上、量産技術の開発などの課題を解決しなくてはなりません。

 産総研では、企業が注力しにくく、重要な研究課題に取り組む計画です。例えば材料研究や変換効率向上そのものに加えて、劣化の原因やメカニズム、材料の相互作用などについて解明することです。さらにAIを活用したマテリアルズ・インフォマティクスやプロセス・インフォマティクスという手法を用いて性能に影響を与える原因を探索したり、モジュールと呼ばれる大面積化する際にレーザー切削加工の技術を活用したりするなど、幅広い研究をしている総合力を活かして企業が実際に製造し、量産する際の基礎検討で道筋をつけようとしています。例えば、高効率を出すためにドーパント(添加剤)が必要だったホール(正孔)輸送材料を、ドーパントなしにすることに成功しました。ドーパントは長時間経つと、耐久性を落とす原因になっていましたが、これをなくすことで、耐久性が飛躍的に向上しました(2022年3月9日プレスリリース)。

ペロブスカイト太陽電池の性能評価

 もう一つ、産総研の重要な役割と考えているのが、ペロブスカイト太陽電池の評価法の確立です。現在、太陽電池を正確に評価できる技術を持つ機関は、産総研、アメリカのNREL(National Renewable Energy Laboratory)、ドイツのFraunhofer(フラウンホーファー)研究機構です。

 企業がペロブスカイト太陽電池の開発に取り組むなら、研究成果として作製される大面積の太陽電池モジュールを正確に評価する必要がありますが、実はこれがかなりむずかしいのです。大型の装置も必要ですし、評価方法も統一されていません。産総研では2025年を目標に評価に必要な設備を整え、再現良く正確に性能評価する方法を確立すべく研究を進めています。

 加えて、企業がすぐに使える評価手法の開発も考えています。大面積の太陽電池モジュールの評価に最も望ましい光源は自然の太陽光です。このくらいの太陽光のもとでは変換効率はこのくらいになるべき、といった測定の指標や手順を作り、企業の研究開発に利用してもらうことが必要なのです。

実用化には民間企業の参画がカギ

 ペロブスカイト太陽電池の実用化には、市場の確立がカギになってくると感じています。

 電力は工場や自宅など、ある程度特定された場所に供給されるものだった時代から、IoT機器の普及、発展、モバイル通信網の発展など、大型設備のみならず、個人単位や移動体単位、センサー単位でそれぞれが発電する時代が迫ってきていると言えるかもしれません。

 新しい時代に求められる新しい太陽電池として、ペロブスカイト太陽電池はシリコン系太陽電池とは違うサプライチェーンを構築できる可能性があります。ペロブスカイト太陽電池の市場はまだどこにもない状態ですので、これまでに太陽電池に関わってきた実績の有無に左右されず、どの企業にも平等にチャンスがあると思います。むしろ、先入観を持たないほうが、アプリケーションとしての応用アイデアを生み出せるかもしれません。

 いかに優れた技術でも市場がなければ普及せずに終わってしまいます。産総研では新規参入企業の方が相談したり試作したりできるしくみづくりも検討中です。多くの企業がこの分野に飛び込んできて、活気に満ちた状態になってほしいと考えています。

敗色濃厚になった日本のペロブスカイト太陽電池

第2回 技術で勝って価格で負ける典型的パターン

三浦 毅司

日本知財総合研究所 代表取締役、日本知財総合研究所 証券アナリスト 2023.05.17

 現在主流のシリコン素材の太陽電池は、おおむね基本的な技術開発は完了し、現在の変換効率が既に理論上のピークに近づきつつあって、完全に価格競争のフェーズへと移行した。原料となるシリコンの価格は半導体市況の活況とともに高止まりしており、マージンが悪化。日本を含む欧米企業は事実上の撤退を余儀なくされている。

 また、シリコン素材の太陽電池はかなりの照度(明るさ)を必要とするため、屋内での設置は難しい。また大型のパネルを設置する必要があることから、設置する場所の制約も多い。

 これらを解決する新しい太陽電池として期待されるのがペロブスカイト太陽電池だ。ペロブスカイト太陽電池は、光を吸収する材料にペロブスカイト結晶構造を持つ化合物を用いたもので、2009年に日本の桐蔭横浜大学の宮坂力特任教授(以下、宮坂教授)らが開発した。

ペロブスカイト太陽電池に係る世界の特許出願件数

(出所:特許検索データベース「Orbit Intelligence」のデータを基に日本知財総合研究所が作成)

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ペロブスカイト太陽電池への期待が高まるが……

 ペロブスカイト太陽電池は有機系・色素増感太陽電池の一種で、その結晶構造から生成された電子の自由度がシリコン系太陽電池並みに高く、高効率の発電が可能だ。シリコン半導体とは異なり、シートのように薄いタイプの太陽光パネルを製造できる。また、材料価格の大幅削減が可能な上、製造プロセスを大きく簡素化できることから製造コストの大幅削減も可能だ。少ない光でも発電でき、軽量化もできることから設置場所の制約が少ないといった性質も脚光を浴びている。課題だった変換効率は20%台半ばと、シリコン系太陽電池と遜色のない水準に改善している。

 一方で、現在高変換率を達成しているペロブスカイト太陽電池には、ペロブスカイト結晶構造を持つ化合物に鉛を用いている。鉛は有害物質で、厳密に管理された環境下でしか利用が認められず、広く屋内外で個人や企業が利用することができない。環境への対応を重視する「ESG(環境・社会・企業統治)」の考え方の広がりなどから、鉛を材料とする事業の資金調達も難しい。

 世界的に鉛を使わない材料での高変換効率や高耐久性を目指した素材開発が行われており、スズを原料としたものの研究が先行しているが、依然として鉛との変換効率の差が大きく、決定的な素材とはなっていない。

世界の特許出願件数から中国が圧倒的に有利

 ペロブスカイト太陽電池の研究開発は、最終的に日本の宮坂教授が完成させる前にも世界で行われてきた。その後、2009年に基本特許が発表されたことから一気に研究開発が加速した。ところが、2013年以降、中国を除いて特許出願件数は減少に転じる。通常、こうした画期的な発明が行われると、世界中で開発競争がしばらく続いた後に淘汰が起こるのだが、今回の欧米諸国の撤退は早かった。この背景には、中国の積極的な特許出願があり、仮に後続発明に成功したとしても、シリコン系太陽電池と同様の展開となり、中国勢に価格でかなわないと判断したことが大きいと思われる。

 特許出願の中身を見ると、そのほとんどが装置(モジュール化)に係るものであり、素材そのものへの出願は多くない。このことは画期的な材料開発により、技術優位性の順位が変化する可能性があることを示唆している。一方で、素材開発が装置開発と表裏一体であり、安定した性能を確保するためには、装置開発の技術が重要であるといえるだろう。その点では、やはり特許出願で先行する国や企業が優位であり、中国の優位性は揺るがないと思われる。

曲がる次世代太陽電池 日本発有望技術に中国の足音再び

日経ビジネス 2024年3月14日 2:00


積水化学工業が開発中のペロブスカイト太陽電池(写真:同社提供)

軽くて曲がる「ペロブスカイト太陽電池」の実用化に向けて、日本と中国の開発競争が激しくなっている。2035年に世界の市場規模が1兆円に達するとの予測もある次世代の太陽電池だ。日本が生んだ技術だが、中国が猛追している。

ペロブスカイト太陽電池は、基板にフィルムを使うものとガラスを使うものの2種類がある。特に注目度が高いフィルム型は折り曲げられ、重さは従来の太陽電池の10分の1。建物の屋上や壁面、自動車の屋根など様々な場所に貼り付けられる。

ペロブスカイトは、ヨウ素と微量の鉛などを使った特殊な結晶構造を持つ化学材料だ。室内などの弱い光でも発電できる上に、製造技術を磨けば従来の太陽電池に比べ半分以下のコストで生産できるとの期待もある。こうした特徴や将来性を踏まえ、次世代再生エネルギーの有望技術と期待を集めている。

ペロブスカイト太陽電池の開発は、09年に桐蔭横浜大学の宮坂力特任教授らが書いた研究論文から始まった。ただし、当初は光などのエネルギーがどれだけ電気エネルギーとなるかを示す発電効率が数%とまだ低かった。12年に英国や韓国の研究者が改良を施して発電効率を10%台に引き上げたころから世界で開発が本格化してきた。


ペロブスカイト太陽電池を開発した宮坂力桐蔭横浜大学特任教授(写真:菊池一郎)

積水化学など開発の先頭集団に

課題は「発電効率の向上、(発電パネル・シートなどの)面積拡大、長期に品質を保持する耐久性、そして環境に優しくするための鉛利用の減少も重要になってきた」(宮坂特任教授)。日本には現在主流のシリコン系太陽電池で1970年代から研究してきた経験を持つ企業があり、大学も含めて技術の基盤はあるが、どれも一朝一夕に克服できる課題ではない。

例えば、発電効率は現在一般的なシリコン系太陽電池が26%程度なのに対し、ペロブスカイト太陽電池は最高で25%前後。一見僅差のようだが、ペロブスカイト太陽電池の数字は発電効率を上げやすい小型版の場合なので、差はまだ小さくない。

今のところ、日本企業は世界の先頭集団にいるといわれる。例えば、積水化学工業は2013年ごろからフィルム型ペロブスカイト太陽電池の開発に取り組んできた。強みは、耐久性の高さと大面積化。すでに「大型版で10年の耐久性を実現した」(森田健晴PVプロジェクト副ヘッド)という。

もともと持っていた液晶用封止材の技術を生かしながら、ペロブスカイトの材料を改良してきた成果だ。他のメーカーでは、十数センチメートル角程度までの小型版の耐久性がまだ5年まで届いていないところも多い。積水化学は集団から一歩抜け出した格好で、近い将来、耐久性を20年まで伸ばす目標を掲げる。

面積拡大の課題に対しては、これまで幅30センチのシートの表面に連続的にペロブスカイト太陽電池を生成する製造手法の高度化に取り組んできた。ペロブスカイト材料を均一に塗布し、ムラなく乾燥するための湿度管理や材料の成膜技術を改良してきている。

25年までにこのシートの幅を3倍以上の1メートルに広げて、一段と大型化を進める方針だ。ただし足元では発電効率が15%にとどまっており、面積拡大と並行して発電効率も高める必要がある。

京都大学の若宮淳志教授が開発した材料技術などを基に18年1月に創業したスタートアップ、エネコートテクノロジーズ(京都府久御山町)も、ペロブスカイト太陽電池の有力プレーヤーとして注目される企業の1つだ。創業者である若宮教授は取締役の1人として経営に参画している。

若宮淳志京都大学教授。暗い場所でも効率的に発電できるペロブスカイト材料を開発した

大きな強みは「室内など低照度の環境でも効率的に発電できるペロブスカイト材料とモジュール」(若宮教授)。半導体商社マクニカに小型のペロブスカイト太陽電池を供給し、室内の二酸化炭素(CO2)、ちりやほこり、湿度や温度などを測る空気質センサーを共同開発した。23年6月から東京都庁でセンサーの実証事業を進めている。

同じく23年6月、トヨタ自動車とも電気自動車(EV)の屋根などに搭載するペロブスカイト太陽電池の開発に乗り出した。エネコートは7.5センチ角の小型版では21%の発電効率を実現しており、今後は車載用などの大型版の開発にも力を入れていくという。

一方、パナソニックホールディングス(HD)はガラス基板を使って住宅の窓など建材用のペロブスカイト太陽電池の開発を進める。実用サイズの大きさ(800平方センチ)のもので世界最高レベルである18.1%の発電効率をすでに実現。「(研究段階で)20年の耐久性を達成した」(金子幸広マテリアル応用技術センター1部長)という。

特許出願数で中国がトップに

これら先行グループの動きからも分かるように日本企業はここ10年余り、ペロブスカイト太陽電池の開発で着実に成果を上げてきた。ところが、ここに来てライバルたちの急激な追い上げを受けている。その筆頭が中国だ。

世界の特許・商標・論文などのデータの分析とコンサルティングサービスを手がけるクラリベイト・アナリティクス・ジャパン(東京・港)によると、ペロブスカイト太陽電池関連の特許出願数は、直近のデータを確認できる21年時点で180件に上った。開発熱が高まり始めた12年(13件)から14倍近くに増えた。

日本からの出願数は19年まで5年連続で世界一だったが、20年に4位に転落。代わってトップに躍り出たのが中国だ。21年にその出願数は70件と全体の4割近くを占めるまでに増え、19件にとどまった日本に大差を付けた。

特許出願後の登録「成功率」や、出願者以外からの引用などの「影響力」、多数の国で登録された「グローバル性」などからクラリベイトが評価した特許の「権利価値」では、パナソニックHDが世界の企業・研究機関の中で首位。東芝や積水化学もトップ10に入るなど、なお日本が優位にあるようにも見えるが楽観はできない。

中国勢は国の支援の下、1万人ともいわれる膨大な研究者が集中的にペロブスカイト太陽電池の開発を進めているとされる。特に日本にとっての脅威になりそうな要素が、量産化で先行し始めていることだ。

量産化の先陣争い熱く

経済産業省などによると、中国の大正微納科技は江蘇省に生産能力が年1万キロワットのラインを建設し、22年夏から量産を始めたという。その後、生産能力をさらに拡張する計画も打ち出している。中国太陽光パネル大手GCL傘下のGCLペロブスカイトは、大型版で発電効率18%を達成したとされ、24年には100億円を投資し、量産体制づくりを進める。

中国以外にも韓国も特許出願数で日本を上回り始め、欧州でもポーランドのサウレ・テクノロジーズや英オックスフォード大学発のスタートアップ企業が25年ごろからの大量生産を目指すなど、量産化の先陣争いが熱を帯び始めている。

日本勢は開発したペロブスカイト太陽電池をビルなどに実装して実証実験を進めている段階で、量産化は20年代後半から30年ごろをメドにしている企業が多い。用途が広い一方で技術的難易度が高いフィルム型の開発に取り組む企業が多いことや、現状で大がかりな投資に慎重な考えがあることも影響していると見られる。

市場調査会社、富士経済(東京・中央)の推計によると、23年に約630億円だったペロブスカイト太陽電池の市場規模は35年には1兆円に膨らむ見通しだ。

岸田文雄首相は23年6月の記者会見でペロブスカイト太陽電池の名前を挙げて「日本発の新技術の開発を強く後押しする」と表明。経産省の24年度予算案には、洋上風力などとともにペロブスカイト太陽電池のサプライチェーン(供給網)の構築支援のために計548億円が計上された。

00年代、日本はシリコン系太陽電池の開発・実用化で先行しながらも、中国企業に量産化で圧倒された苦い経験がある。中国勢には中国政府から潤沢な資金支援があったと見られている。開発と実用化で先行しながら量産局面で中国に敗れた従来型太陽電池と同じ轍(てつ)を踏むことはないのか。日本勢にとって早くも正念場だ。(日経ビジネス 田村賢司)[日経ビジネス電子版 2024年2月6日の記事を再構成]

ペロブスカイト太陽電池の完全印刷による製造に世界初成功、大量生産の道筋を示す

masapoco

投稿日2023年3月20日 12:12

英国スウォンジー大学のSPECIFIC Innovation and Knowledge Centreの研究者は、世界初となる完全印刷可能なペロブスカイト太陽電池を開発した。

ロールtoロールプロセススロットダイコーティングを使用して作られたこの方法は、太陽電池を低コストで製造することができ、その普及を可能にする。

ペロブスカイト電池は、太陽光エネルギーを直接電気に変換する太陽電池の一種だ。従来のシリコン太陽電池と比べて、製造が安価で簡単であり、レアメタルを必要としないことが特徴となる。また、薄くて柔らかいフレキシブルな形状にできるため、設置場所や用途に応じた柔軟な対応が可能だ。近年では、高いエネルギー変換効率も実現しており、次世代の太陽電池として注目されている 。

ペロブスカイトの大量生産は、印刷技術やコーティング技術を使って試みられてきた。しかし、ロールtoロールでの生産はこれまで実現されていなかった。

ロールtoロールとは、ロール状に巻いたフィルム基材を連続的に加工する技術だ。印刷やコーティング、パターニング、貼合などの工程を一貫して行うことで、高速で大量にフィルムデバイスを製造することが出来る。フィルムデバイスは薄くて軽くて柔軟性があり、透明性や耐熱性などの機能も持つ。タッチパネルやセンサー、ヒーター、アンテナなどの電子デバイスに広く応用されており、この方式は大量生産に向いていることから、コストや時間の節約に繋がる。

研究者らは、この方式の実現に向けて研究を続けてきた。

チームがぶつかった大きなハードルのひとつが、ペロブスカイト太陽電池に塗布される金電極だった。これは、組み立て全体の中で高価な部品であるだけでなく、デバイスをプリントした後にゆっくりと蒸発させるプロセスを用いるため、生産の規模を拡大することが出来ないのだ。

金電極に代わる適切な溶媒を探していたところ、X線回折分析により、カーボン電極インクが下地層を溶かさずに膜の乾燥を実現する適切な溶媒であることを発見した。

「この革新的な層は、低温かつ高速で下地層と互換性を保ちながら連続的に塗布することができます」と、研究に携わったSPECIFIC社の上級研究員であるDavid Beynon氏はプレスリリースで述べている。

さらに、カーボン電極を搭載した太陽電池を分析したところ、硬質ガラス基板上での光電変換性能は蒸着金電極と同等で、13~14%の電力変換効率を示し、長期安定性も実証された。

その後、ロールtoロール生産方式で長さ20mのフレキシブル基板を印刷し、10.8%のエネルギー変換効率を実証したとのことだ。

「わずか4年の間に、この革新的な太陽光発電の方法は、設計と製造、評価と詳細な分析、適応と改良が行われ、世界中で数百万メートルの太陽電池を印刷し設置する可能性がこれまで以上に近くなりました」と、同大学博士研究員のErshad Parvazian氏はプレスリリースで述べている。

研究者たちは今後、ソーラーパネルに似た太陽電池を印刷したものを作り、それを建物に設置して、人々にその効果を実証したいと考えている。

論文

参考文献

研究の要旨

ペロブスカイト太陽電池は、デバイスの効率に大きな期待が寄せられているが、溶液プロセスによる製造によるスケーラビリティも期待されている。ペロブスカイトをスケールアップするための取り組みとして、印刷可能なメソポーラス足場や、フレキシブル基板のスロットダイコーティングによるロールtoロール(R2R)などが行われてきた。しかし、溶液処理可能な裏面電極がないため、R2Rコーティングされたデバイスを完全に実現した例はなく、代わりに高価な蒸着金属コンタクトが後工程として採用されている。本研究では、低温デバイス構造とR2R対応溶液処方の組み合わせにより、層間非互換性や再結合損失を克服した完全R2R塗布型デバイスアーキテクチャを実現した。そこで、SnO2/ペロブスカイト/ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)/カーボンのn-i-pデバイス構造を採用し、p型半導体とプリンタブル炭素電極の間にオーミックコンタクトを形成している。特に、蒸着金電極のデバイス性能に匹敵する13~14%の小型デバイス効率を達成した。また、この完全にR2Rコーティングされたペロブスカイトのプロトタイプは、ゲームチェンジャーであり、70%RH、25℃の環境下で1000時間以上にわたって元の効率の84%を保持する非カプセル化長期安定で10%以上(10.8)の安定した電力変換効率に到達した。

ペロブスカイト太陽電池の解説

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
 ペロブスカイト結晶を用いた太陽電池。
色素増感太陽電池の一種でペロブスカイト型では、従来の色素の代わりにペロブスカイト材料を用い、正孔(ホール)輸送材料(Hole Transporter Material、HTM)としてのヨウ素溶液の代わりに、Spiro-OMeTADなどを使用する。

研究開発

2009年にハロゲン化鉛系ペロブスカイトを利用した太陽電池が桐蔭横浜大学の小島陽広や宮坂力教授らによって発明された。

2009年のエネルギー変換効率は CH3NH3PbI3 を用いたものでは3.9 %であったが、近年変換効率が急速に高まり、低コスト製造できるため将来的な商用太陽電池として注目されている。2011年には成均館大学校の朴南圭が初めてデバイスの全固体化に成功し、2012年にはオックスフォード大学のen:Henry Snaithが効率10 %を達成した。

ハライド系有機-無機ペロブスカイト半導体 (CH3NH3PbI3) は、2009年に初めて太陽電池材料として報告された材料で印刷技術によって製造できるため、低価格化が期待される。

環境低負担に対する研究も進んでおり、2017年10月5日理化学研究所がスパコン『京』を用いた材料スクリーニングで鉛を用いない51個の低毒性元素だけからなるペロブスカイト太陽電池の候補化合物を発見している。

2021年9月、東芝はフィルム型のペロブスカイト太陽電池で独自の成膜技術を開発し、フィルム型では世界最高のエネルギー変換効率15.1 %を達成した。広く普及しているシリコン型太陽電池並みの変換効率を実現している。東芝は2025年までに、変換効率が20 %以上、受光部の面積9平方メートルの実用化に向けて開発を進めており、発電コストは1 kWh20円以下を目指す。

東芝のフィルム型のペロブスカイト太陽電池は、ヨウ化鉛とヨウ化メチルアンモニウムを混ぜた独自のインクと製造装置で、均一な膜を形成する。インクを塗る速度も、量産化に必要とされる毎分6 mを確保した。この研究は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業「太陽光発電主力電源化推進技術開発」の一環で「第82回応用物理学会秋季学術講演会」で発表された。

日本の経済産業省はペロブスカイト型を次世代太陽電池の本命と位置付けており、2030年度までに1 kWh14円以下の発電コストを達成する目標を掲げている。総額2兆円のグリーンイノベーション基金事業でも最大498億円を充てる予定。

世界で開発中のペロブスカイト型太陽電池は軽量で柔軟性があるため、これまで太陽光発電に欠かせなかった広い敷地の確保以外にオフィスビルの壁や曲面など、これまで設置が難しかったところにも使用できる。
2023年、電力変換効率の記録は33.2%に更新した。

実用化

ペロブスカイト型は薄いガラスやプラスチックの基板上に液体を塗り焼いてつくり、印刷技術を使うため従来の太陽電池の半額で製造できる。2021年9月に世界で始めて量産され、ポーランドのスタートアップ企業が建物の外壁などに設置する電池として出荷する。イギリスや中国の企業も2022年に量産を始める予定で、安く設置場所を選ばないため、普及すれば世界の再生可能エネルギーの割合が高まる可能性がある。

宇宙事業での利用

宇宙空間では太陽光発電が唯一無二の日照中の実用的なエネルギー源であり、ほぼ全ての宇宙機に太陽電池が搭載されているが、ペロブスカイト型は太陽電池の最大の劣化要因である放射線に対し極めて高い耐性を有している。一般的な探査機や人工衛星は3接合型化合物太陽電池(以降、3接合型)を使用しているが、こちらは変換効率が約30 %と高くペロブスカイト型を上回っている。しかし3接合型よりペロブスカイト型がコスト面と放射能耐久性において上回っている。今後、研究開発が進み、高い変換効率と熱や光に対する耐久性を有し、高い放射線耐性を兼ね備えた低コストのフレキシブルペロブスカイト型が開発できれば、より過酷な環境下でも探査できると考えられている。


参考文献・参考資料

「あらゆる場所が発電する都市に」 次世代太陽電池、都庁で検証 (msn.com)

「ペロブスカイト太陽電池」とは? (aist.go.jp)

ペロブスカイト構造 - Wikipedia

敗色濃厚になった日本のペロブスカイト太陽電池 | 日経クロステック(xTECH) (nikkei.com)

ペロブスカイト太陽電池、日本発有望技術に中国の足音再び - 日本経済新聞 (nikkei.com)

ペロブスカイト太陽電池 - Wikipedia

ペロブスカイト太陽電池の完全印刷による製造に世界初成功、大量生産の道筋を示す | TEXAL

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