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ひとり折り返し地点に入る

「えー皆さん、たぶんご存じかと思いますが、5月15日をもってタダノ君が退職することになりました」


4月16日、私が今勤めている会社を辞めるまで、丸一ヶ月を切った。

その日の朝、私が勤めている会社の営業所では、普段から滅多に行われることのないミーティングが行われた。そこで所長は皆の前で、私が退職する旨を通知したのだった。

すでに私は、今から1、2ヶ月ほど前に退職願を所長に提出している。そして会社がそれを受理したことを証明するかのように、退職証明書や失業保険を申請するのに必要な諸々の書類が、先週あたりに本社の方から送られてきていた。

大体にして2週間分の日数があった有休は、この先に控えている大型連休を挟み込む形で消化に当て込んでいる。ただ会社の決算月は4月としているため、気は進まないがその近辺に出勤するつもりだ。

これで晴れて私は間もなく、ある意味で自由の身となるわけだ。ようやく自ら帰りたいと願い続けていた、自分が在るべき場所に戻ることができる。だがそれは同時に、自分自身が無職になるということも含まれている。

いずれにせよ、およそ一年半に渡ってひとり苦しみを抱えながら、留まり続けざるを得なかった現在地から、解き放たれようとしている。



しかしこれを、素直に喜ぶことができないのも事実だ。この日に至るまで、私はこれまで大事にしてきた物を、泣く泣く手放さなくてはならない事態に遭ってきたからだ。

もしかしたら今後、思いがけないことで大事な物を失うことに直面してしまうかもしれない。さらに骨の髄なる部分を切り崩してまで手放すことを、余儀無くされる羽目になるだろう。

「あなたのせいで私の人生はめちゃくちゃになってしまった!」なんて一言を口にするのは簡単だ。でも、意のままに任せてそれを本人に伝えたところで、何かが変わる訳などない。

仮に牙を向けたとしても、それはそれで自分自身を窮地に貶める他に成りかねない。俗に言う無敵の人になるものなら、私は独りでも生きていけるような場所を是が非でも探し出す。

キャリアや経験、年齢に世間体、それに人間関係だの…外野から騒ぎ立てる声々なんて、どうでもいい。こちらから耳を傾ける必要もなければ、その理由も見つからない。

はじめからこんなフォルムだった…なんて思えば、なんとなくでも少しは気が楽になれそうだ。



いつかどこかで途切れる道を走っているとするなら、その果てまで向かいたい。どうせトンネルを抜けてもまたトンネルに入るなら、手前で降りてまだ見ぬ景色を堪能しに遠回りすればいいさ。


ひとり折り返し地点に入るまで、もうすぐだ。

最後までお読みいただきありがとうございました。 またお会いできる日を楽しみにしています!