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10年来の大親友との『縁』を切る。

2023年12月某日、私はとある目的地へと向かうべく車を走らせている。この日の空は雲一つも見当たらず見事な快晴で、ドライブするには絶好の日和であった。

が、この時の私はそう呑気に浮かれている余裕はない。市役所あたりの交差点を抜けたらもう間も無く到着するのに、胸のあたりから謎の緊張が込み上げてくる。

目の前にあるハンドルを強く握りしめていないと、思わず張り裂けてしまいそうになるくらい、無意識に鼓動が速くなっている。目的地に近づくまでには、なんとか心を落ち着かせなくてはいけない。


私は今、十何年ぶりに悪友の実家に向かっている。


思えば悪友のいた実家にお邪魔するのは、高校の時以来だったかもしれない。土日の部活帰りや、三年生の時の放課後になるとよく遊びに行っていたものである。

悪友が専門学校に通っている間も、家に上がらせて貰うことは何度もあった。それも数年後に卒業して就職先が決まり、やがて親元を離れるまでは。

そう考えたら随分とご無沙汰であった。しかし今回、私が目的としている相手は悪友本人ではなく、その親御さんだ。

いきなり押し掛けるのは自分自身の良心に反することから、予め電話にて連絡を入れ、訪問する日を決めていた。おそらくそこに悪友は同席していないことだろう。

別段、手を煩わせるようなことをしたわけではないのに、これからその親御さんに向けて一つの事実を自らの口で言わなければならないと思うと、心がある一種の罪悪感によって押しつぶされてしまいそうになる。

けれど今日という日を迎え、直接出向いて話すと決めた以上、どんな真実が待ち構えていようとも、自らの意思を持って歩むことを止めるわけにはいかなかった。


たとえそれが、唯一無二である大親友との『』を断ち切ることになろうとも。



2ヶ月前に音信不通となってから、悪友の実家を訪れることになるまでの間、いったい彼の身に何があったのか気が気でならなかった。何度もLINEや電話をかけてみたものの、一向に繋がらない。

どうしても私には、彼と連絡を取り合わなければいけない事態に直面していた。こちらからの連絡に応じない以上、他に取り合う手段はほとんど残っていない。


ただ一つ、彼のいた実家の電話に連絡することを除いては。


高校だった当時、お互いの連絡先を携帯に付いている赤外線通信で教えあった時、たまたま実家の電話番号が記されてあった。最悪ここにかけて事情を説明すれば、可能性はあるかもしれない。

だが今や、一人一台に携帯電話…もといスマホを持つのが当たり前の時代だ。それに伴って最近では、家電いえでんが不要になって解約している家庭があるとの話を、風の噂で聞いたことがあった。

もし悪友の親御さんがそうしていたとするなら、他に連絡を取り合うための手段は残っていない。だとしても状況が何であれ、もう頼るのはこれしかない。

今の悪友の身に、何が起きているのかを確かめなければならない。このまま向こうから連絡が来るのを待っていても、何一つ進まない。

万が一、向こうでも電話に出ない可能性が大いにある。それは承知の上だ。向こうにとっては知らない番号だからこそ、なんとか留守番電話に入れてなんとか応じるのを待つしかないのだ。

最善策を見つけることができても、結局待つことしか他に方法が見当たらない。なんとも歯痒い状況だった。それでも私は悪友の実家に、一か八かでその電話番号にかけた。


『ただいま電話に出ることができません。発信音の後にお名前とご用件をー』


案の定、留守番サービスに繋がってしまった。間も無く鳴り始めようとする発信音を前に、ここで要件を伝えなければ、一生取り合ってもらえなくなってしまうかもしれない。

緊張して取り乱している呼吸をなんとか安定させながら、「ピーッ」と鳴り出した後で、丁重に名前と要件を伝え始めた。

その途中で突然受話口から「もしもし…」と、声が聞こえてきた。悪友の母だ。

なんとか首の皮一枚繋げることができた。思わず安堵しながらも、電話に応じた悪友の母にはご無沙汰との挨拶を交えつつ、突然の連絡で申し訳ないとの謝罪を入れる。

そしてここ最近まで彼と連絡を取り合っていたが、突然応じなくなってしまったとのことを伝えた。

すると悪友の母は、私が想像していたのとは裏腹の言葉を口にしたのだ。



「あの…もしかして、お金のことですか?」



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