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助手席は空けておくから

私の隣に助手席に乗る人パッセンジャーはいない。

元々、誰かを乗せてどこかへ行きたいと思っているわけでもなく、斬新さの光るスタイリングに一目惚れして今の愛車を選んだはずだった。

なのに十年以上経ったこの頃になって、初めから誰も乗っていない助手席や後部座席が空いていることに対し、一つの寂しさを覚えるようになってしまっている。

思えばこれまで、自分以外の誰かを車に乗せるなんてことはほとんどなかった。

それでも一時期だけ悪友たちを初めとした友人や、会社の同僚ないし先輩を乗せては、わずか数キロ圏内の近場から、県境を跨ぐような遠い場所まで走らせる機会は少なからずあった。

だが、後ろの席に座らせるほどの大人数を乗せることはごく稀にしかない。せめてコロナ禍に入る前の時期からだいぶご無沙汰であった。

無論、恋人を乗せたことは一度もない。

それでこそ、一恋愛ドラマのワンシーンみたいにありふれた会話を織り成すことや、太陽が沈み込んだ日の駅前のロータリーや道端の駐車場などに停めて待つことは、皆無と言っていいくらいだ。

大人になって密かに憧れを抱いていた光景は、今も現在進行形で叶えられることのない夢幻と化してしまっている。

 

たった一つの願いが現実になることに期待はしていない。
このまま何度も色褪せることのない夢を見ていればいい。

けれど荷物だけは、それぞれの席を占拠するみたいに
ずっと乗せっぱなしに…しないでいよう。
これまでも、そしてこれからも。

スーツケースやボストンバッグなどの大きな物は、
後ろのトランクに隠すようにしまい込んでおこう。

雨が降り続く日も、
雪が降り頻る日も、
そして暗い夜でも、

いつでも迎えられるよう準備は万全にしておいてー

なんて明るい未来が舞い降りてくるはずがない。そんな確証もどこにもない。

これからもハンドルを片手に、時々コーヒーを片手に、たまにあくびをしながら片手で口を覆ったりしながら…ひとり車を走らせる日々が続くのだろう。

決して人と交わることのない日々に生かされ続けても、出口の見えないトンネルに一筋の光が見えてくるその時までは、忙しない毎日に一喜一憂を余儀無くされようとも。


それでも、いつでも席は、空けておくからー。


そして今日も日が暮れては通り過ぎていく頃、密かに好んでいるアーティストが奏でている、新しくて素敵な曲と出会いました。

じっと待つ性分でなくとも、より一層増してきている冬から徐々に春の季節が訪れるのを心待ちにしている、そんな気持ちが生まれ始めています。

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