撰銭令について(2023年度共通テスト本試験・日本史B)

 2023年度の共通テスト・本試験:日本史Bの大問3の問3(小問番号14),撰銭令について,いまだに正解が2つあるのではないかと言う人がいる。きわめて正答率が低い問題だったことは事実だが,高校日本史の標準的な知識だけをベースに史料を読んで解いたとしても解釈がわかれるタイプの問題ではない。

 撰銭令については,高校教科書では次のような説明がなされている。

「悪銭と精銭の混入比率を決めたり,一定の悪銭の流通を禁止するかわりに,それ以外の銭の流通を強制する撰銭令」

山川『詳説日本史B』

「撰銭令を出して粗悪貨幣の使用禁止を命じたり,各種貨幣の交換比率を決めたりして」

実教『日本史B』

 次に,掲載されている史料を見てみよう。

史料1(室町幕府が出した撰銭令)
「自分勝手に撰銭を行っていることは,まったくもってけしからんことである。日本で偽造された私鋳銭については厳密にこれを選別して排除しなさい。永楽銭・洪武銭・宣徳銭は取引に使用しなさい。」

2023年度大学入学共通テスト・本試験・日本史B

 前提として,自分勝手に撰銭を行うな,と宣言したうえで,使用禁止の銭貨として「日本で偽造された私鋳銭」を挙げ,一方で「永楽銭・洪武銭・宣徳銭」の使用を強制している。つまり,「永楽銭・洪武銭・宣徳銭」は撰銭を行ってはならない銭貨の事例として挙げられている。

史料2(大内氏が出した撰銭令)
「永楽銭・宣徳銭については選別して排除してはならない。さかい銭・洪武銭・うちひらめの三種類のみを選んで排除しなさい。」

2023年度大学入学共通テスト・本試験・日本史B

 こちらでも「永楽銭・宣徳銭」は撰銭を行ってはならない銭貨の事例として挙げられている。

 つまり,どちらの史料でも「永楽銭」(永楽通宝)は「使ってよい銭貨」ではなく「使わなければならない」=撰銭を行ってはならない銭貨として取扱われている。史料の解釈として間違う要素はない。そして,撰銭を行ってはならないと「永楽銭」の流通を強制しているのだから,社会(京都や山口)において「永楽銭」が撰銭の対象となっていたことがわかる。

 というわけで,選択肢c「永楽通宝は京都と山口でともに好んで受け取ってもらえ,市中での需要が高かったことが分かる。」が誤文で,選択肢d「永楽通宝は京都と山口でともに好んで受け取ってもらえず,市中での需要が低かったことがわかる。」が正文である。

 以上から考えて,この小問で間違う要素があるとすれば,明銭=良銭(悪銭ではないため撰銭されてない)という思い込みがあるとき。

 ベネッセの資料によれば,この小問は「成績層ごとの正解率が逆転しており」と指摘されているが,知識のある上位層ほど思い込みゆえに間違い,知識のない下位層ほど史料を素直に読んで答えたために正解できた,という話だろう。

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