【散文】白昼(720文字)

 今は午後四時二十八分か、さっきより三分進んだな。
 この確認に意味はない。予定なんて一つもないのだから、俺が勝手に気にしているだけだ。全くあほくさいことだと思う。俺はむしろ、時間に追われずゆっくりとしている時間、つまり今のような生活をこそ望んでいたのだ。
 丸一日、一切予定のない生活が始まってから、二週間と六日が経った。
自分以外の人間の中には、毎日忙しなく働いたり、数日に一回は買い物に出たりと予定を持っている者がいる。多くいる。十代の多くは学校に行く。俺のような半端者は大抵、勉強のために平日と休日の境もなく時間を割くのだろう。俺は何をしているのだろう。

流行り病は確かに、生活を蝕んでいる。こと俺のような病人は一層気を払わなければならず、こうしてベッドに繋がれたも同然の状態で沈黙を続けるのが周りの人のためでもある。
そうと分かっていても、たまに外気を吸いたくなるのは人の性だろう…言い訳と同時に焦り、罪悪感が広がる。自室のベッドを這い出し、そっとカーテンを引く。軽い音が懐かしい。重たい窓を開けた。

誰もいなかった。
家の前は少し広い道路になっていて、つい先月までは平日の昼間でも交通量が多くて困っていたくらいなのに。そういえばここしばらく、この時間に小学生の帰宅の気配もなかった。列をなしてにぎやかに、飛び跳ねながら歩いていく子供たち。その音に俺は随分癒されていたはずだが、今日はもう行ってしまっていたような…。
子供たちの帰宅が早くなったのも、その声の続く時間が長く、声は小さくなったのも、流行病のせいなのだろうか。
道の向こうの家は昨年取り壊され、今はささやかな花壇が置かれているようだ。力を無くしたヒマワリたちが、重たげにその首をもたげていた。

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