月吉

小説家志望の新社会人です。重めです。純文学の傾向が強いです。

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最近の記事

【小説】6度の間隙

木々を揺らしながらどこか生暖かい風が吹きぬけて、血が巡るやわ肌に同じ温度のブラウスが張り付いた。 まるで人間にくるまれたかのように思われるのは、学生身分ながらうつつを抜かして、そういった事情を彼女が今思い出していたからだろう。 行く先の角から顔を出した友人と目が合って、馴染み合うように並んで話し始める。緩やかで平凡な心地よい会話の隙間で、彼女の脳裏では何度も昨日までの映像が流れている。 彼女は最近、二十歳になった。つい先月の事だ。友人達が、「再来週の土曜日空いてる?」と聞い

    • 【小説】捻転(5027文字)

       飲み屋街の暖色灯が眩しい。俺はスーツを着ないから、会社を出て足を進めていると、筋違いな気まずさを覚えることがある。月曜の夜から楽しくやっているあのおっさん達……元気だよな、もしかしたら俺よりも。俺は損な性格だと思う。改札上の時計を見上げると二十時半、定時を大幅に過ぎていた実感が湧いてしまう。改札に収まり、列をなし、鈍行の内部へ吸収されていく。  冷たい金属とくたびれた人工物に囲まれるこの時間、多くのサラリーマンは、心底疲れた顔で眉間にしわを寄せている。そして落ち着いた配色の

      • 【小説】心臓分裂(9074文字)

         今日は特に冷たかった……。もしかしたら俺には無理なのかもしれない……と思ったところで、胃のあたりがぐったりと重くなった。そして、ふと「嫌われている」という言葉が浮かんできた。目に馴染んだ勉強机の散らかりようをじっと見つめる。  木田さんは、可愛いというより綺麗な方だと思う。教室に居る時は本を読んでいるか、友だちとくっついて喋っているかのどちらかで、俺に気づいたことはほとんどない。でも今日は間違いなく目が合った!木田さんは、廊下からさりげなく覗いていた俺に気づいて――俺は心臓

        • 【小説】前略(11534文字) ※鬱展開注意

           姉がいなくなって、もう五年が経ちました。  私も無事就職し、両親は子育てを終えてほっとしていると思います。  思うというのは、私も実家を出て二年ほど経つので、実際に今どうしているのかはさっぱりわからないからです。  私はよく過ごしています。家族も元気だといいのですが。  夜のリビングで、姉は母と大喧嘩をしていました。きっかけは私の進路のことでした。看護の専門学校に通いたいと言う私の主張を聞き入れるべきだという姉と、四年制大学に行ってほしいという母の思いが衝突していま

        【小説】6度の間隙

          【解説】後略

          前略 の周りの話です。 直前の投稿の「懐古」は、前略の中で書きはしたものの推敲の結果没にした部分でした。 実話か? かなり曖昧に部分的に実話を題材に取っています。もしリアリティを感じて頂ける部分があったとしたら、恐らくそこがそれです。 しかし自分の兄弟は愉快な弟だけだし、父親は居ないし、母親は嫌味を言う性格ではありません。 想定している読者は? 成人済みの子供がいない大人です。理由は燃やされそうだから 目指しているのは? 社会問題ありきである自分の小説を読んで人が

          【解説】後略

          【散文】懐古(1198文字)

          小学校を卒業した年の春休みに、姉に連れられて遠くの公園までお花見に行きました。小学生の行動範囲には制限がありましたから、高校生の姉が教えてくれる知らない道を自転車で必死に着いていく間中、小さな私の胸はずっと高鳴っていました。 大通りから少し外れた、広いけれど車通りの少ない静かな道を駆け抜け、大きな図書館を横目に桜並木を駆け抜け、体いっぱいで遊ぶ小さな子供たちの声に押されるように住宅街の付近を駆け抜けて着いたのは、広くて静かな、山の上の自然公園でした。大きな口で深呼吸をして、狭

          【散文】懐古(1198文字)

          【散文】秋晴(1038字)

           秋晴れは人心に寂しく、写真で見る鮮やかでからっとした陽気が目の前にあるとは終ぞ思いにくいものだった。  一通のメッセージすら迷ってしまい中々送れない彼に、プライベートの約束を取り付けられたはずがない。運がいいのか悪いのか、誰にも会わないつもりで買い物に来た市街地にて、雑誌の一コマのように着飾った友人に微笑みかけられた。もちろん色眼鏡を掛けた彼の感想だが、友人は確かに普段より数段きまっていた。  ふっと緊張を解いたような笑い方で手を振られ、ようやく我に返る。おお、とうろたえた

          【散文】秋晴(1038字)

          【散文】白昼(720文字)

           今は午後四時二十八分か、さっきより三分進んだな。  この確認に意味はない。予定なんて一つもないのだから、俺が勝手に気にしているだけだ。全くあほくさいことだと思う。俺はむしろ、時間に追われずゆっくりとしている時間、つまり今のような生活をこそ望んでいたのだ。  丸一日、一切予定のない生活が始まってから、二週間と六日が経った。 自分以外の人間の中には、毎日忙しなく働いたり、数日に一回は買い物に出たりと予定を持っている者がいる。多くいる。十代の多くは学校に行く。俺のような半端者は大

          【散文】白昼(720文字)

          【散文】無題 曖昧なもの(759字)

           いつからか制服のことで悩まなくなっていることに気づき、私は小さく息をついた。幸い覚られなかったが、それでも彼女の矛先はこちらを向いて牙をむく。 「西は制服かわいいよねー、羨ましいわ、ほんと」  私は落ち、彼女は合格した、県内随一の公立進学校。とはいえそれはあとから知ったに過ぎない。 黒に近い濃紺のセーラー服は、夕焼けの消え始めた紫色の空に刻々と溶けていくよう。細いストライプのリボンとスカートの裾を通る同色の白い線が、少女たちの存在を教えてくれる。 別に悪くないと思うが、今日

          【散文】無題 曖昧なもの(759字)

          【散文】無題 一般的な家庭の話 (1313文字)

           一応、重たげにゆっくりと、瞼を開いていく。薄く、周りからどう見えているのかはわからないけれど…。全身をくるむ温もりに慣れたせいか、揺られながら夜風に撫でられる感覚が止まった気がした。はっとして急に頭が回り始める。  でも、またふわふわとした感覚が戻ってきた。まだ家にはついていなかったらしい。慌てて目をしっかりと閉じる。少し体に力が入ってしまった気がするけど、こういうときは押し通すしかないのだ。ばれたら恥ずかしいし、外は暗くてお父さんも疲れているから、気づかないと信じる。

          【散文】無題 一般的な家庭の話 (1313文字)

          【散文】愛したFが消えて (2784文字)

          ある朝、私は奪われた。 そうと理解するまでに何度、頭が割れそうになるほど大量の涙を堪えたことか…むしろ、割れてしまえばいいのにと思って、ナイフの反射をじっと見つめたことも幾度となくあった。 私の体はどこへ消えたのか? 一縷の望みも与えられることなく、私はある日、自分を「××」と呼べなくなった。 その出会いによって、私は最初にして最大の衝撃を受けた。それは心が読めるはずのない他人にまで伝染するのではないかと思えるほど大きなもので、抽象的に言えば、それまで真実だと信じて疑わなか

          【散文】愛したFが消えて (2784文字)

          自己紹介

          小説家を目指して執筆をしています。 2000年生まれの大学3年生(2021年1月時点)です。 新人賞などに応募しなかった作品をそのままにしておくのが勿体なく、noteに投稿していきます。 お暇でしたら感想を頂けると嬉しいです。 note初心者のため使い方がまだわかっていないのですが、ご質問などありましたらお気軽にお声掛けください。

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