1990年代の韓国の少女の物語。大好きな先生との交流や家族との関係を丁寧に描いています。

キム・ボラ監督・脚本。2018年製作。韓国・アメリカ合作映画。

1994年。韓国ソウル。14歳の少女ウニ（パク・ジフ）は両親と兄と姉の5人家族。集合団地で暮らしています。

餅屋を切り盛りする両親は自分らの生活のことで精一杯。とても子供たちの心に寄り添う余裕はありません。兄はストレスからか両親の目を盗んでウニに暴力を振るっています。

ある日、ウニの通う漢文塾に新任の女性教師ヨンジ（キム・セビョク）がやってきます。ウニは自分に関心を持ってくれる大人ヨンジに心を開いていき...

とても瑞々しい少女ウニですが、家父長制の色濃く残る家族の中で自分は愛されていないのではないか、と不安を抱え自分のことが好きになれません。

父親はいつも家族に暴言を吐き、兄は暴力も振るう。

ウニの家族だけが特別なのではなく、ウニの親友も親に殴られている。

「自分が知っている人の中で
　本心まで知っているのは何人？」

漢文塾でヨンジに問いかけられ、ウニは次第に自分自身を見つめるようになります。

この女性教師のヨンジは大変魅力的に描かれています。

ヨンジは大学を休学中。化粧っ気なく、ほっそりとした手首でタバコを吸い、じっとウニの顔を見つめ語りかける。

ウニを子供扱いしないで、本心を話す。

遊び半分の万引きが原因で、ウニと親友との関係が終わりそうになった時、

ヨンジは「一曲　歌おうか？」と二人の前で歌います。

説教をするでもなく、皆を誘うこともなく、一人で静かに。

「切れた指」

切れた指を見つめながら
焼酎を一杯　飲む夜

ガタガタ　機械の音が
耳元で鳴っている

空を眺めてみたよ

切れた指を埋めてきた日
冷たい涙を流した夜

血の付いた作業服に
過ぎ去った僕の青春

こんなにも悲しいんだな

一日一日
疲れていった僕の身体
苦い焼酎で慰め

故郷を後にしてきた日
母を思い出しながら

指を埋めた山を
酒に酔って　
とぼとぼ　さまよい歩いたんだ
とぼとぼ　冷たい焼酎に酔って
さまよい歩いたんだ
（韓国　労働歌）

この歌は韓国語で歌われ、ギターの伴奏もありません。二人に語りかけるような歌声がなんともいえない素敵なシーンです。

歌をじっと聴いていた二人の少女は、お互いに本心を話すことができ仲直りしてしまいます。

「誰かに殴られたら
　立ち向かいなさい。
　黙っていたらだめ」

ヨンジと約束をしたウニ。

この約束のあと、ヨンジは漢文塾を去り、物語は思わぬ展開を見せます。

ウニの家庭で起きている暴力や暴言は特別なことではなくて、家父長制の中では「よくあること」だったのかもしれません。

ウニの手術の説明を医師から受けた後、父親は号泣してしまいます。けして子供に愛情が無いわけではありません。

塾教師が14歳の少女に対しできる事。

ヨンジがウニに教えた事は

「殴らせないこと」

「黙っていないこと」

そして

「自分を好きになるには
　時間がかかるということ」

今すぐに自分を好きになる事はできなくても、ゆっくりゆっくり時間をかけて好きになっていけばいい。

14歳。少女は心から信頼できる大人に出会うことで、人を信頼し未来に希望を持つことができるのだと思います。