被爆体験証言をたどるまち歩きを実施しました(広島:旧陸軍被服支廠~向洋)

2019年5月19日、くもり。春を終えて夏の香りを纏い始めたある日、パラパラと雨の降る中でしたが、6人の参加者が旧陸軍被服支廠に集まりました。

広島市中心部から約3キロほどのところに堂々と立っている赤レンガの建物があります。横浜の赤レンガ倉庫を想起する立派なこの建物が、「旧広島陸軍被服支廠倉庫」(以下、旧陸軍被服支廠)です。

この日、私達「つむぎ屋」は、「被爆証言を歩く~旧陸軍被服支廠と中西巌さん~」を開催しました。

旧陸軍被服支廠は、1905年に設立され、戦時中は宇品港から出港する兵士たちの衣類の製造や倉庫の役割を担ってきました。当時付近には兵器支廠や糧秣支廠等があり、戦時中の広島は軍需経済と切り離せない関係にあったことがわかります。

(私たちも参考にさせて頂いたこちらのページもご覧ください)
http://www.oa-hiroshima.org/buildings/buildings05.html

旧陸軍被服支廠は、現在、4つの赤レンガの倉庫が残っており、その保存や活用について課題が残されています。

そんな旧陸軍被服支廠に特別な思いを持って保存活動に力を入れておられるのが、今回被爆体験証言を伺った中西巌さんです。

1945年8月6日、旧陸軍被服支廠で学徒動員として働いていた15歳の少年、中西巌さん。
つむぎ屋の聞き取った中西さんのお話をもとに、8月6日の中西さんの足取りを追体験しました。

(参考:中西さんのインタビュー記事はコチラから)https://tsuguten.com/interview_nakanishi/

当日、中西さんは旧陸軍被服支廠で働いている最中に被爆。17時頃まで動員額ととして避難してきた人々の救援にあたりました。そして夕方、御幸橋(みゆきばし)まで広島市内の様子を見に行き、向洋の元ご実家まで約8kmの道のりを歩いて帰ったということです。

15歳の少年は何を感じたのか、何をにおい、聞き、見たのか。そしてどんな気持ちになったのか。そんなことを話しながら、歩きました。

今日はくもり。気温も高くなく、昼間の明るい時間のことでした。足元はアスファルト。地面は平らで建物は整列している。帽子をかぶり水分もカバンにたっぷり用意。疲れたらコンビニもあるしトイレもある。そんな中で1945年の8月6日の夕方の様子を想像するために、たくさんの資料を見ながら歩きました。

そして事前に丁寧にお話してくださった、中西さんの声を思い出しながら、私達つむぎ屋は中西さんのお話を参加者の皆さんにお伝えしました。

歩いている最中、まるで私たちの目の前に大きなフィルターがかかり、当時の様子を各々が想像し、身体に当時の光景が流れるような瞬間がありました。そして15歳の少年が何を感じたのかに思いを馳せ、驚きや発見も多くありました。

実は、今回の参加者はそれぞれに広島の体験した原爆についてこれまでも熱心に勉強されてきた方が多く、そしてそれぞれに発信の場を持っている方々でした。しかし、実際に証言をたどりながら歩いてみると多くの気づきや学びがあったようです。

参加者の皆さんから印象的だった感想を少し紹介します。

●実際に歩いてみて疲れた。疲れた時、周りの人の様子を気にかけることはできなかったし、助けようとも思えなかった。被爆体験に頻繁に出てくる被爆者のトラウマに、「目の前の人を助けられなかった後悔」があるが、その気持ちについて初めて少し理解ができた気がする。
●みんなで並んで歩いているとき、中西さんは前の大人について歩いたと言っていた。東京で東日本大震災直後、帰宅難民となった人たちが携帯の電源もなく、ただ前の人について歩いていた光景と重なり、感覚を理解できた。

●部屋の中で地図を見ながら証言を聞くのとは、全く違う。歩いて考えること、学ぶことが本当に多かった。
●この取り組みは原爆について「教えられる」こととは違う。自分で「体験する」ことなので、どんな人でも感じることがある。
●中西さんの話だけでなく、その場に居合わせた人、すれ違った人、街の人たちの体験にも思いを馳せられる時間だった。
●追体験することは、自分の経験として自分の中に折りたたむことができる。
●歩き疲れた時、人を助けようと思えないことを、体験することができた。

歩きながらの参加者の皆さんとの会話の中にも、つむぎ屋としても学ぶ事がたくさんありました。集まる人によって学びが多様になり、その人にしか感じられない気持ち、重ねられない経験があります。それらを共有することで、とても深みのある学びを得ることができる時間でした。

街の中に原爆の記憶を残していくこと。これからもチャレンジしていきたいです。また企画しますので、皆様是非ご参加ください。

そして、フィールドワークや研修のひとコマとしての依頼も受け付けております。お気軽にご連絡ください。

最後に、多大なご協力を頂いた中西さん、本当にありがとうございました。

https://www.facebook.com/events/3015957628418179/

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