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制御しきれない様々な要素から紡ぎだされる未来社会は予測し難い。しかし、かなり高い確度で予測できることもある。「人口動態(デモグラフィック)」、もちろん、人口動態も不確実だけど、増減の傾きがひとたび生まれると、その加減速はあっても、転換は長期間にわたって難しい。もっとロングレンジで気にしたい未来シグナル。

世界人口縮減宣言

昨年2022年7月、国連による世界人口将来推計(UN World Population Prospects 2022)が発表された。私は、2080年代に世界人口はピークに達して「世界人口縮減」が始まることを示したという点を、未来への大きなメッセージだと感じ取った。しかし、世間はそんな遠い先は気にせずに、「人口の重心アフリカへ」とか、「年内に世界人口80億人へ」などと、当面続く世界人口の増加と、アジアからアフリカへの人口重心のシフトを取り上げた程度でスルーされていた。

人口から未来を描く指南書

「いや、このデータはもっと長期視点で未来を見るために使わなくては!」という私の感覚が、本書『サピエンス減少』という書店のタイトルとシンクロした。著者も冒頭でほぼ同様の指摘をしていたのだ。これは!と思って手に取ると、期待通り、とても丹念に、大袈裟な扇動に偏ることなく科学的に、コーエンの絶滅曲線の解説なども交えつつ、「人口が縮減する社会、世界」の意味を基本から解きほぐして、みらいのミカタを示してくれていた。これは、未来デザインを指南する必読書だ。

もっと長い目で見る人口減少

人口問題が取り上げられる時、多くの場合は、豊かさを増すための経済力が低下するリスク、すなわち、就業して所得を得る人たちの減少に起因する経済問題として取り上げられることが多い。そのために、超高齢社会、超少子社会、既人口減少社会を課題としてとらえ、対策キャンペーンとして「人生100年時代」、「少子化対策」が叫ばれる。しかし、ひとたび減少の下り坂を転がり始めた人口を反転させるということは原理からして至難の業であり、社会の成熟という観点からも自然な流れとは言えないはずだ。地球資源問題からも、人口減少は悪とは断じきれない。このままの近視眼は未来が見えない。

非正規社員こそ未来型人財

たとえば、非正規社員の問題を例にしてみよう。現状は、正社員との間の大きな労働条件や給与格差を是正するという「正しさ」のために、非正規社員から正社員への転換を促すようなことがよいこととされる基調にある。しかし、これから始まる世界人口の縮減、既に起こって問題を生じ始めている日本の人口縮減を踏まえると、誰もが正社員としてフルタイムで唯一の組織の中で働き続けることが、果たして正解だろうか? 明らかに進行する労働力不足のもとでは、その業務を遂行できる人が、一人で何社もの場で働けることが、経済全体に有効になっていくのは必至のはずだ。ならば、そろそろ「正規社員絶対優位」を疑う必要もあるはずだ。正反対に「非正規雇用絶対優位」の方が、労働経済システムとして合理性が高くなる。処遇も雇用条件もステイタスも、非正規雇用(つまり、インディペンデント・コントラクター)としての働き方のほうが、ずっと高くなるという逆転の価値観になっておかしくない。「でも、弊社固有の企業事情があるのでコア人財は正社員である必要が、、、」などという言い訳は通用しなくなる。

市場競争主義から自立共創主義へ

また、未来予測理論のSINIC理論では、来たる社会は「自律社会」であり、自律したノードが分散配置されつつ、つながって社会システムとしての価値を高めていく姿を想定している。このことは、ますますネットワーク間の相互依存性も高まって、つながりや空間移動の手段の確保が極めて重要となることを示唆している。そういう社会システム構造への転換が必要となるわけだ。ということは、市場性最優先で判断されるモビリティの選択と集中とは逆のはずで、社会システムの再構築、パラダイム・シフトが必要となる。
 もちろん、勝ち組・負け組を明確にする競争主義も、人口減少社会では逆効果です。一人ひとりの存在と力が丁寧に磨き出され、それを発揮できるサポートする「共創主義」への転換をしなくては社会の持続性、未来可能性が維持できなくなります。

「遊・学・働・美」渾然一体の生き方

本書の終章「サピエンス減少の未来」では、仕事が余暇活動化する未来を肯定的に主張されています。ヒューマンルネッサンス研究所の創設と同時にメンバーに加わり、遊・学・働・美の渾然一体化こそ未来の生き方だと30年以上唱え続けてきた私としても、まさに著者の意見に共感して同意します。そのために、今、足りないのは「能率(パフォーマンス)を気にしない暢気に積み上げられた遊び」ではないでしょうか。私は、それを信条に超高齢社会を、もうしばらく生きていきたいと思っています。

ヒューマンルネッサンス研究所
エグゼクティブ・フェロー 中間 真一

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