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豆と酒を愛する店長 in西日暮里

美飲食四天王」と密かに崇めているnoterさんがいる。
本当は4人どころでは収まらないのだけれど、「美飲食ゴレンジャー」「美飲食V6」等々人数が増えるごとにネーミングが迷走してしまうため、なかなかメンバーを増やすことに二の足を踏んでいる。
早く、いいグループ名を思いつきたい。
そんなわけで、とりあえず今日は「四天王」に絞ってご紹介したい。

まずはお菓子担当のお二人から。
宝石のように美しいお菓子を作る、律子さん
短編小説の名手としても知られていて、繊細なお菓子同様、端正な文章が印象的。
そんな彼女が作る素敵なケーキの数々は、見ているだけで心が躍る。
いつかお店を開いてくれないかなと記事を開くたびにそっと念じてしまう。

以前わあっと気分が上がったのが、「初夏へ一歩」。
ライラック色のお菓子が爽やかで涼やかで、ごくりと生唾を飲んでしまう作品。

次に、豊富なお菓子の知識をユーモアで包んで紹介してくれる、しえさん
着眼点がとにかく好き。ときどき披露してくれるタイプミスがかわいい。
おやつが飛び交う職場はおおむね微笑ましく、時に少しだけスリリング。
惜しみなく語彙が費やされたおいしさ描写にうっとり。
ちょっといいお菓子を開けるような感覚で、大事に味わいたいエッセイだ。

個人的に推しているのが、「おふとりのチョコパイ」。
「明日の来客はおふとりになりました」が読みたくて、定期的に読み返してしまう。

次に、お料理担当のdoriokunさん
実直そうな書き出しから一転、とんでもない角度から比喩を差し込んで不意打ちで笑わせてくるタイプ。
丁寧な調理過程を読んでいると、作ってみたくてウズウズする。
今年は彼のおかげで、我が家にブロッコリーパスタ旋風が巻き起こった。

最近くつくつ笑ってしまったのは、「欲深き晩酌タイム」。
娘さんの串カツ田中に向けた強烈なラブコールと、その後の地獄のような展開に手に汗握るエッセイだ。

最後は、お酒担当の豆千さん
その名の通りお豆に対する静かな情熱を燃やしながら、お酒に対する愛も綴っているお方である。
飄々と緩やかな筆致とさりげなく散りばめられた妄想は、よい感じに酔っているときの、ふわふわといろんなことが浮かんでくる感じを思い起こさせる。

そんな豆千さんのエッセイのイチオシは、「つながりを求めて(塩むすび)」。
つやっつやの塩むすびとお米屋さんの糠漬け。まさに夢の共演。
なのに一文目は「ほとんど友人がいません」。これが塩むすびにどうつながっていくのか、ぜひ確かめていただきたい。

実は私は最近、この豆千さんにお会いした。
豆千さんは、西日暮里 BOOK APARTMENTで棚主として一箱書店を営んでいるという。
そんな記事を読んでから、いつか行こうと思っていた。

12月25日、この日お店番をやっていると豆千さんのツイートを見た私は、今がチャンスとばかりに家を飛び出した。
近所の和菓子屋と酒屋に寄って、いざ西日暮里へ。
クリスマスの空は澄みきっていて、ついつい足取りが軽くなる。

西日暮里駅の出口を出てすぐ。
電車のなかで何度も地図を確認していたのに、私がたどり着いたのはだだっ広い駐輪場だった。
おかしい。
こんなに歩くはず、ないんだけどな。

地図アプリを開くと、お店とは真逆の方向にずんずん突き進んでいたことが判明した。
慌てて回れ右してひたすら駅まで戻ると、カレーのスパイスの匂いが強くなってきた。
引き寄せられるようにカレー屋の周りをぐるりと回ると、なんだか見覚えのあるような本棚が見えた。

あれっ、ここって……?

おそるおそる中へ入ると、手前の特集テーブルに飲食関係のエッセイが整然と並べられていた。
この選書は、豆千さんに違いない。
そしてお店の奥の方に目をやると、あたたかそうなジャケットを着た男性がお地蔵さんのようにちょこんと座っていた。

「すみません……豆千さんでらっしゃいますか?」

緊張しながら声を掛けて、「つる・るるるです」と名乗る。
「ああ!」
パッと笑顔が咲いて、ホッと胸をなでおろす。

「実はつい30分前まで、ウミネコ制作委員会さんがいらしていたんです」

なにぃーーー!?!?!?

そんな偶然ってある???
ウミネコ制作委員会の編集長、ぼんやりラジオさんが同じ日に、しかもこんなに近い時間差でお店に来ていたなんて。

「いま豆千さんのお店にいるんですけど、もう西日暮里出ちゃいました?」と慌ててDMしたものの、ぼんラジさんはすでに別の地へ飛び立ってしまったあとだった。
だだっ広い駐輪場なんて、行ってる場合じゃなかったじゃん!!!
そう後悔してももう遅い。
きっと来年、ゆっくりとお話しできる機会があるでしょう。
気持ちを切り替えて、本棚を眺める。

個性豊かな本棚

西日暮里 BOOK APARTMENTは、80人が共同で運営する棚貸し本屋さんだ。
ひと棚ひと棚にぎっしりと詰め込まれたこだわりが熱い。
普通の書店さんや図書館では絶対に並ぶはずのない本が一緒に仲よく棚に収まっているさまに、一度も同じクラスにならないのに妙に馬が合った友だちのことを思い出した。

豆千さんの特集テーブルには、料理やお酒にまつわるエッセイがたくさん並んでいた。
料理本やお酒の紹介とは違って、著者自身の個性が出ているラインナップがとてもいい。

「お酒好き」というと赤ら顔で声が大きくてぐいぐい人に絡んでくるタイプか、ひっそりとバーの端っこに棲息していそうなすねに傷を持っているタイプのようなイメージを持ってしまうのだけれど(大いなる偏見)、豆千さんはそのどちらでもなかった。

物腰柔らかで、お人柄のよさがにじみ出ていて。
薄暗いバーとかギラギラしたクラブではなく、宅飲みや日向ぼっこしながらのビールみたいな、のどかなお酒が似合う感じ。
……はじめましての人に対して、なんて好き勝手書いてるんだろう。

そんな話しやすさに甘えて、つい椅子に居座ってがっつりと話し込んでしまった。
好きな本のこと、文フリのこと、義実家での過ごし方、会ってみたいnoterさんの話。
時折私が会ったこと、あるいはお顔を拝見したことがある人の名前が挙がって、「紫乃さんはね、とにかく目力が強いんですよ!」「ピリカさん!ピリカさんも目力バチバチなんですよ!」などと印象を語ってしまった。
目力情報ばかりアピールしてどうする。

そして豆千さんの夢である、「ビールが呑める大人の図書館」について。
少しずつ実現に近づいていると伺って、そわそわと浮かれてしまう。

本を読みながらお酒を飲んでいるとき、いまいる世界と本の世界の境界がゆらゆらと混じり合うことがある。
子どものころは当たり前のように馴染んでいたはずの、大人になってからはなかなか得にくくなってしまった没入感を、お酒が与えてくれるのだ。

もちろんいまでも素面で読書を楽しんでいるけれど、このまま本から出られなくなるのではと不安になるとき、私の横には何かしらのお酒があることが多い気がする。
豆千さんの図書館でビールを飲みながらそれぞれの本の世界に飛び立って、縦横無尽に愉しむ人たち。すごくいいなぁと、にやにや想像する。

そしてなんと、『春夏秋冬、ビール日和』と『「お邪魔します」が「ただいま」になった日』をお店に置いていただけることに。
こんな素敵な空間に居場所をいただけて、とびっきりのクリスマスプレゼントをいただいた気持ちになった。

ウミネコと並べてもらいました♪

西日暮里のBOOK APARTMENT、一人で来ても、何人かで来ても、きっと楽しい素敵なお店。
私もこれに味をしめてちょこちょこお邪魔したいなぁと思っている。
タイミングよく西日暮里で会えたら、とっても嬉しい。

豆千さんのお店番情報は、Twitterからもご確認いただけます。

私のエッセイは、ネットショップつるる書店でも扱っています。


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