味覚の時差

 誰かと一緒に何かを食べているとき、大抵自分以外の人間が先に「おいしい」とか「微妙」とか言って反応する。
 同じタイミングで食べ始めたはずなのに、その時点でわたしの脳は味の情報を受け取っていない。だから、わたしは「おいしい?」とオウム返しをしながら、とりあえず咀嚼を続ける。

 そんなことを繰り返していると、たまに「あれ、おいしくなかった?」と不安そうに訊き返されることがある。
 そういうとき、わたしは素直に「まだ味がわかるところまで来てない」と答える。答えながら、「この人は本当に今『おいしい』と感じているのだろうか」と疑う。

 何かを食べるとき、二、三回咀嚼した程度で「おいしい」と言う人がけっこういるけど、そういう人たちの舌と脳は本当にそんな速いスピードで「味覚を感じて、さらにそれに対する感想を引き出す」という処理を行っているのだろうか。

 わたしの場合、咀嚼し始めてから味を感じるまでに数秒、それに対する感想を引き出してくるまでにさらに数秒かかってしまう。周りの人が「おいしい」と言った時点では、まだ味覚すら反応していないような状態なのだ。

 少し話は変わるけど、中学生のとき、とてもおっとりした女の子がいた。あるとき、その子と始めて二人で話す機会を得た。
 わたしはいつものようにアホ話をして笑わせようとした。でも、その子はにこにこと頷くだけ。
(あれ、滑ったかな?)
 内心恥ずかしく思い、別の話題を探し始めたところで、突然その子が大笑いしだした。お腹を抱えて、息をするのも苦しそうだ。
「え、どしたの」
「今の話めっちゃおもしろい」
 その後、他の友たちと話す中で、その子の「時差」が有名であることを知った。

 もしかしたら、わたしの味覚もこれと似たような「時差」を抱えているのかもしれない。

この続きをみるには

この続き:0文字

味覚の時差

水流苑まち(つるぞの・まち)

100円

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

note.user.nickname || note.user.urlname

いつもサポートありがとうございます。 『この世界の余白』としての生をまっとうすべく、意味のないものを生み出すために使わせていただきます。

君にスキって言われるなんて……つらたん_(:3」∠)_
7

嘘つきは作家のはじまり

作家の日常、考えごと。 嘘や妄想も織り交ぜて、チラ裏にメモする感覚で軽く書いています。
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。