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吾輩は招き猫である#1

吾輩は招き猫である。名前はまだない。
いやおそらく今後の長い生涯で名前をつけられることは、まずない。

私のような置物人形の招き猫に感情思考があるとは、なんとも不可思議な話ではあるが、あるものは仕方ない。

私がこのような自我に目覚めた瞬間は、人間でいう胎内記憶と呼ばれるものに類似している。

人間同様、私は暗闇を感じている、無を感じている。

そこから私を作るべく冷たく柔らかい土が、生あたたかく湿った手により伸ばされる。
それが硬い土型枠に入れられ、指でぐいっぐいっとおされ、型に刻まれた大小様々な凹凸が、私を瞬時に形作っていくことを感じた。
耳が、目が、手が、尻尾が作られていく。

そして、耳から前足までの身体全ての前半分が一つの型枠に生まれ、同様に後耳から尻尾までの全て後ろ半分を持った型枠とくっついた。
その瞬間、私は文字通り自我を形成したのだ。

パカっと開いた型からぱらっと引き離されると、からっと乾いたあたたかな空気と明るさを感じた。

そして幾ばくかの日が経つ。ぽかぽかあたたかい空気か冷たい空気になり、またあたたかい空気になる。

なにやら、身体表面がパリッと硬くなったかと感じたら、またあの暖かい手に戻り、今度は、おそろしく鋭利なもので、身体の余分な土を掃除をされた。
ひゃっと冷たい水で表面を撫でられ、なんとも形容し難いくすぐりを感じたが、自分の体表が無駄のないなめらかな流線形を手に入れたことも同時に分かった。

その後の長い猫生の中で、形容し難い恐怖は何回か味わった。けれども、轟々と燃える土窯で焼かれたことは、自分を焼き締めて長く生存するために必須であったとはいえ最上の恐怖であった。
流線形を手にして長くたったあと、狭くゴツゴツした暗闇に入れられた。最初は、ちりちり少し熱い煙たいなという感じが、だんだん轟々という音とともにビビビビビッと身体が細かく振動を始め、目の前が真っ赤になり、そして身体の水分が消し飛んだ。
これは天に登り星になる。と覚悟をしたが、今も生きている。

人間で言うところの、お産にあたるのだろうが、産声はあげない。無言の誕生である。

続く。


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