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他人と自分

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人生に乾杯(ver. 2-1)

本ブログが自身の生存確認になっているという指摘を親友から受けて、version 2として再スタートすることにしました。その第1回目は「NPO法人 脳腫瘍ネットワーク」(JBTA)に寄稿した夏休みの体験記を紹介します。

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2020年6月、移住のつもりで2012年3月に渡ったシンガポールで膠芽腫が見つかりました。当時は失語症、失禁、度重なる頭痛があり、妻に連れられてRaffles Hos

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人生に乾杯 44(社会関係資本の話)

人生に乾杯 44(社会関係資本の話)

大病院の救急医、山井大輔から22日(土)に電話があった。年末から2、3週間ごとにかかってはこちらの事情で断っていた。いや、予告なく突然かけてくる方が悪い(😆)のだが、22日は電話を取りそれまでの非礼を詫びた。親しき中にも礼儀ありである。

画面越しに、ペットボトルのお茶を飲んでいた彼は「それはそうとさ〜」と、Social Capitalの話を始めた。その日、自分の家族に「俺が倒れたらどうするか」

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人生に乾杯 37(前=未来を向いて生きる)

人生に乾杯 37(前=未来を向いて生きる)

子どもたちから日々鍛えられている。高1の娘からが7月1日、またもや電車を乗り間違えて夜9時になって帰ってきた。学校でぎりぎりまで勉強しているので遅いのは致し方ないが、親は気が気でない。すでに帰宅していた妻と心配になって外で待っていたら、雨の中、暗い夜道を傘もささざずにトボトボ帰ってくる姿が目に入ったので、急いで傘を持ってほんの20メートル先まで迎えにいった。傘を差し出すと、娘は「いらないよ」「いら

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人生に乾杯 35(もう少し若ければ...)

人生に乾杯 35(もう少し若ければ...)

安宅和人さんの「シン・ニホン」(NewsPickパブリッシング社、2020年)を読み始めた(写真下)。家族と雑事を話していて「さっきその話してたじゃん」と同居する妻や子どもらから叱られるのを避けようと、また、脳腫瘍になった頭を少しでも老化から遠ざけようと、さらには自分の仕事を少しでも前に、などなど思ってのことだ。「さっきその話してたじゃん」で言えば、脳腫瘍の後遺症か、肺に大腸がん転移腫瘍があるから

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人生に乾杯 34(Ryan Anthonyさん)

人生に乾杯 34(Ryan Anthonyさん)

米国でCancerBlowsを主宰していたトランペットプレイヤーRyan Anthonyさんが、昨年6月23日に亡くなっていた。Multpile Myeloma(多発性骨髄腫)という血液のがんだった。 彼が亡くなったことを僕は昨日初めて知った。

2018年のCancerBlowsでRyanさんが「You'll never walk alone」を綺麗なメロディで奏でていたのを、僕が退院した昨年に

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人生に乾杯 29(ブログを付け続けるのは難しい)

人生に乾杯 29(ブログを付け続けるのは難しい)

ブログを付けることは難しい。付け続けることはもっと難しい。このブログも、前回3月29日からひと月近く経ってしまった。

どうしたら続くかと考え、一橋大学名誉教授の野口悠紀雄さんの本「書くことについて」を買い込み勉強してみるが、IT音痴の自分にはなかなか理解できない。なにせ元官僚、学生時代からコンピュータをいじっていた人が、頭の中に書物用のデータベースを作る解説をしているのだ。

4月14日の受診日

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人生に乾杯 28(治療は次のフェーズへ)

人生に乾杯 28(治療は次のフェーズへ)

「さすがシンガポール、これは日本よりも詳しいかも」とは主治医の田部井医師の言葉。2月3日に「遺伝子のxxxが陽性だから薬が効く体質」と言われたが、「xxx」が聞き取れずしばらく気になっていたところ、3月17日の診察で聞き直した結果、冒頭のように言われたのだ。「いや〜、シンガポールじゃなくて米国なんだけど」とは僕の内なる声。

医師は、写真上オレンジ色部分6行目の「EGFR vIII (+)」という

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人生に乾杯 27(着地点)

人生に乾杯 27(着地点)

タイトルを見て「?」と思ったでしょう。そう、「着地点」。このブログにはちょっと馴染まないかも。

ある医療製品を製造する関係者が話していた。「医療機器を販売する時、その着地点を間違えるとボロが出る」。着地点って、言葉の使い方がとてもいいと思った。「目指すところ」でも「目標」でも「企業の売り上げ」でもない。僕は、この人の言わんとすることがすぐに分かった。

水虫薬に睡眠薬を混ぜ営業停止処分を受けた

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人生に乾杯 26(乗り移り?)

人生に乾杯 26(乗り移り?)

米国に住んでいる英国人Andrew Marshallは、前職の数少ない親友(の1人)。その前は元ジャーナリストでこれも僕と一緒だったが、彼は今、米Atlantic Councilに勤めている。前職時代に僕が東京にいて、彼はロンドン。その後同じ会社ながら米NYに移った。彼が結婚したのは、お互い別々に職を離れてからの2011年夏。米国Maine州で開かれた結婚式は、真夏の野外だったのに少し寒かったのを

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人生に乾杯 25(「運が悪い」?)

人生に乾杯 25(「運が悪い」?)

少し前、ある腫瘍専門医が自身のがん体験記を記していた。ご本人は「なぜ自分が?」とか「自分は運が悪かった」と思ったと言う。記事もこの言葉を見出しに取っていた。偽らざる心境だと思う。

本文を読みながら、新聞記者をしていた頃のある場面がパッと思い浮かんだ。20年以上前、内勤の整理記者を経験した時の出来事だ。朝刊番になると最終降版は日付が変わる午前1時ごろなので、そこから小1時間、当番デスク(当時は編集

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人生に乾杯 24(Optuneのこと)

人生に乾杯 24(Optuneのこと)

2020年末、ある医療団体のビデオ・インタビューを受けた。僕をメンバーに迎えてくれた #JBTA友の会 という脳腫瘍ネットワークのクローズドサイトがあり、そこに別の団体から「脳腫瘍患者で現在動ける人」との条件でインタビュー募集があり、応募した。医療団体から、僕が使っている脳腫瘍用 #Optune (別名「ノボTTF」)について製品名はもちろん、製造元Novocure社、TTF(tumor trea

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人生に乾杯 23(田部井先生のこと)

人生に乾杯 23(田部井先生のこと)

脳腫瘍の主治医は田部井勇助先生。国際医療福祉大学三田病院の脳神経外科医だ。1月6日は今年始めの診察。無事に診断を終え、病棟2階の外来化学療法室という専用室でアバスチン(分子標的薬)の点滴を待っていると、同じ病棟1階にオフィスを持つ田部井先生が駆け込んできた。三田病院は大きいのだ。

ソファに座る僕のところへ駆け寄ってきて「すみません。さっきの話なんですけど…」と切り出した。「さっきの話」で思い浮か

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人生に乾杯 22(腫瘍持ちxコロナx発信力)

人生に乾杯 22(腫瘍持ちxコロナx発信力)

医者の山井大輔から数か月ぶりに電話をもらった。週末の夕方6時ごろで、すでに酔っ払っていた。「今日は半ドンだったんだよ」。この会話から、「ドン」がオランダ語のDay(「デイ」)から来ていること(本当はDagが正しい)、返す自分は「全(半)舷」という言葉が記者時代にあったこと、意味は似ていても海軍用語であること、などを話した。しかし、大輔は話の筋がどうにも収まらない。なにせ酔っているから話題があちこち

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人生に乾杯 21(堅い殻と共感力)

人生に乾杯 21(堅い殻と共感力)

妻から「あなた最近、人への共感力が足りないよ」と言われ、ハッとした。9月の退院後、薄々気づいていたことを言い当てられしまった。心に重石があることは分かっていた。脳腫瘍のこと、肺に転移したがんのこと、頭に着けているオプチューンのこと。知らず知らず、すべてが自分を暗い気持ちにさせていた。日頃は、家族にできるだけ普通に接しているつもりでも妻や子どもたちは見逃さなかった。今回も「言われちゃった…」というの

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