見出し画像

スイッチが入った

先日、遂にと言うか漸くsmallsのジャムセッションにバスクラリネットで参加した。smallsは色んな意味で敷居が高くてあまり行っていないので、個人的にはかなり革新的。

私が普段smallsに行かない言い訳は第一に「夜遅すぎる」、第二に「狭すぎて楽器の出し入れに苦労する」、第三に「雰囲気が何となく嫌」だが、段々そうも言えなくなってきたのと並行して、バスクラリネットがやっと良い感じになってきて吹くのが楽しいので、ヤケクソでカオスの中に飛び込むことにしたわけだ。

多くのジャムセッションが21時台に開かれているのに対し、smallsは大体25時頃。メインイベントが終わると同時にスタートするのだが、狭い地下室に多分法のギリギリまで人が詰め込まれている為、タイミングが悪いと入場規制で外で30分くらい待たされることがある。

そして、中に入ると居場所がない。ステージの真ん前の席はまず空くことはないし、後ろの席では座れて楽器をセッティングできたとしても、そこからステージまで移動するのに人を掻き分けなくてはならない。一番良いのはステージ上手のベンチ席だが、そこには既に血気盛んな他のミュージシャンが陣取っていて、彼らの楽器ケースも場所をとっている。

楽器のセッティングが最も簡単なのはソプラノサックスで、本体にマウスピース、リガチャー、リードを取り付けるだけ。テナーサックスはそれにネックが加わるだけなのでまだそんなに手間はかからない。

バスクラリネットの組み立てはまず本体をどかして楽器ケースの一番奥にあるネックとリードを取り出す。どかした本体を一旦ケースに戻してからネックにマウスピース、リガチャー、リードを取り付けそれを安全な場所に置く。そうしないと両手が空かず本体が組み立てられない。本体は上下の二つの管を結合するのだが、それなりに力が要るのと、上のキーを操作した時に下の穴が開閉する為の上下管を連絡するメカニズムがデリケートな造りなので慎重にやらないといけない。そこへベルとペグを取り付けるのだが、上下管合わせて1メートル以上はあるので、両端を見ながら気をつけてベルを取り付けないと楽器を何かにぶつけてしまう危険がある。そしてペグまで付いたら立ち上がって上端にネックを取り付ける(しゃがんだままでは高くて手が届かない)。組み上がったバスクラリネットを床に立てて人にぶつかられないように守りながら、空になったケースを閉じて隅に片付ける。そしてハーネスを肩にかけてやっとこれで演奏ができるのである。

君はこれを1分で組み立てられるか?

ここまで苦労してバスクラリネットを組み立てても、更にもう一つというか最大の関門がある。それは他の楽器に比べて音が小さいと言うことだ。

いや、物理的には大きな音も出せることが最近分かってきたのだが、サックスやトランペットに比べると柔らかい音色の為、特にドラムがうるさいと自分の音が聞こえないというのが最大の問題だ。

smallsは何といってもNYジャズシーンの本丸だし、演奏の模様はネットでも世界中に配信されているから、自己顕示欲の高いミュージシャンが入り乱れてカオスになることがある。アンサンブルとは「一緒に」と言う意味のフランス語だから、本当は常に共演者のことも考えながらやるべきなのだが、自分が目立つことだけしか考えない輩がソリストの場合はソロがやたら長くなるし、ドラマーだとうるさくて仕方がない。

幸い今回は「輩」にはぶつからなかった。勿論それでもサックスを吹いている時と比べると自分の音のモニター状況は厳しい。だが、自分の音が聴こえないとパニックに陥ると、アンブシュアがキツくなり、息のスピードも落ち、リードの振動も阻害して却って音が小さくなってしまい逆効果だ。

リラックスした方が大きい音が出ることは、フルートを習った時にクラシックの先生に教わったし、それがバスクラリネットにも通じる(そして実はサックスも同じだ)ということは、他のジャムセッションで実験を繰り返すことによって分かってきた。そしてたどり着いた結論は「吹こうとしない」

まるで禅問答のようだが、これが一番効く。

と言うわけで、自分には自分の音があまり聴こえていないのだが、それには構わず、ただ心を落ち着けることだけを心がけるとちゃんと客席にも音は届いているらしく、またバスクラリネットでジャズをやっている物珍しさも手伝ってであろう。吹いた3曲全てで喝采を浴びることができた。これは正直嬉しい。ヤバい。中毒になってこれからジャムセッションは全てバスクラリネットで参加しようとか思い始めている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?