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スカウトされちゃった

金曜日はハンガリー大使館内で行われたあるイベントでの演奏のお仕事でした。

セントラルパークで演奏していると、時々、演奏中や演奏後に声をかけられることがあります。このお仕事も「君たちを雇いたい」と声をかけてくれた男性から頂いた物でした。

バスキングをする時はチップを入れてもらうために楽器ケースなどを前に置くのですが、電子マネーでも投げ銭してもらえるようにラミネート加工した看板も立てることにしてます。

通称 Venmoサイン

チップを入れてくれるだけでなく、我々の演奏の様子を動画に撮った人がこの表示を見てインスタに上げてくれることもありますし、パーティーギグの問い合わせをしてくることもあります。

その男性に「私もミュージシャンなんだけど金曜の夜は空いてる?」と訊かれたときは事情がよく飲み込めませんでしたが、私の番号に電話して互いの連絡先だけ交換すると、「詳しくは後で連絡するから」と彼はにこやかに挨拶して去っていきました。

話しかけてくる人の中には平気で長話をして我々の稼ぎの邪魔をする人もいますが、手短かに話を切り上げて去って行った彼は、演奏を中断されることを嫌う我々ミュージシャンの心境を知っているようで、同業者と言うのはどうやら本当らしいと思いました。

バスキングが終わってスマホを見るとインスタでもフォローされていました。フォローバックして彼のプロフィールを見ると、クラシックのコンサートピアニストの方でした。なるほど、だから自分で演奏するんじゃなくて我々に依頼したわけですね。

そしてイベント当日。

参加者は「音楽好きの人たち50名ぐらい」と聞かされていましたが、そのイベントというのは蓋を開けてみるとピアノ・コンクールの授賞式でした。確かに音楽に興味のない人はいなさそうですね。

つまり、カーネギーホールで開かれたコンクールから大使館へ移動してきた人たちが授賞式を待つ間と、式が終わった後の歓談の席を盛り上げるのが我々の仕事という訳ですな。

バスキングの時と違い、今日はメンバー全員ビシッとスーツ姿です。依頼主さんもタキシード姿でした。大勢のゲストの相手で忙しい彼とは特に打ち合わせをすることもなく、演奏内容については完全に任されたと理解したので、その場で曲を選んでいきました。

ジャズのパーティー演奏というと、うるさくないBGM的な物、誰でも知ってる有名な曲ばかりというイメージがありますが、退屈な曲ばかり続くとバンドのモチベーションが下がり、それが音に表れて会場の活気を損ねると考え、私は時折「演奏者もやっていて楽しい」挑戦し甲斐のある曲も加えました。

あまりにマニアックな曲はNGだと思いますが、一般には知られていなくても、ジャズファンからすれば名曲と呼ばれるものには普遍的な魅力があると私は考えます。

セットリスト中盤にはJoe Hendersonの「Punjab」、Wayne Shorterの「Fee Fi Fo Fum」、Bill Evansの「Waltz for Debby」などを加えました。

難しめの曲が続いたのでまた明るめの曲に戻そうとDuke Ellingtonの「Take The A Train」をやり始めると会場内には音楽に合わせて体を揺らす人たちが。Duke Ellingonってマジで不滅の名作曲家だな!

歓談タイムも終わって帰り始める人たちもいる中、ソファーに腰掛けて我々の演奏に聴き入る人たちも現れたので、最後はスティービー・ワンダーの「My Cherie Amour」でしっとりとしめくくりました。

演奏は好評でした。食い入るように見ていた男の子の母親が礼を言いにきてくれたのと、曲に合わせて踊っていたカップルとも挨拶できました。

大使館の文化センター部門のスタッフさんにも「またお願いしたいわ」と名刺を催促されました。是非!是非是非!マジでおねがいします。

家に帰ってスマホを確認すると約束より多めの金額を送金してくれていました。依頼主さんにも喜んで頂けたようで良かったです。

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