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12年前の旅路を辿る旅、ローマ

 この旅行は、体としては新婚旅行。しかし、まあ、新婚ではない。籍を入れてからもう丸3年以上経っている。式でいえば1年以内ではあるけれど、それ以降で旅行(キャンプ1泊だけど)はしてしまっている。
 しかしもちろん嘘ではない。
 自分たちの新婚旅行というものがあるとすれば、それは何か行く意味があって、今行く必要があって、海外旅行なのだ。たぶん何年後になっていても海外への旅を新婚旅行と呼んでいたと思う。一番のイタリアへ「いつか行く」のベストが今だった。

 加えて、個人的には12年前の旅路を辿る旅でもあった。
 私は12年前の大学生時分にイタリアを訪れた。タイから始まって西へ西へと陸路だったり空路だったりしながら、20カ国を約4ヶ月ほどかけて移動して、最後はカナダから西に飛んで日本へと帰る旅の中の、3週間程度。端的にいえば自分探しの旅をしていたのだ。たぶん今も、これからも、旅から帰っても、ずっとずっとそうなんだけれど。たぶん死ぬまで探し続けてしまうのだ。
 日常でもそうなんだけど、過去に歩いた道を何度も辿る傾向にある。
 大学には卒業してから何度も行った。特に用があるわけでもないし、大学そのものに大した思い出があるわけでもないのに(サークル等の団体には全く入っていなかったし)、大学と大学のある池袋の街をよく歩いた。このベンチで寝転がっていたなあとか、ここでつまらない授業を受けたなとか、このパスタ屋さんはよく食べたな、大好きな珈琲屋さんがあったな、とか。
 何度も訪れることに対して、まあなんとなく行きたくなる、好きな街なんだろうな、としか思っていなかったけど、同じものを時が経ってからまた自分の目で見てどう感じるのか、過去の自分(たち)を思い出してどう変わったのか、その変化それ自体やそこに至るまでの過程を感じることが好きなんだと思う。過去に読んだ本たちが横並びになる本棚と一緒。過去や今のただ一点ではなく、その連なり、変遷を実感して満たされる。ご褒美のようなもの。

 今回も同じ。少し壮大な過去を辿る散歩道。
 その当時は列車でミラノに入り、北から順番にヴェネツィア、フィレンツェ、ローマ、ナポリ、アマルフィと南下して、ローマからポルトガルに飛んだ。
 今回も似たようなルートでイタリアを巡ることになった。ツレはイタリア初体験なので、おおよそこういう流れでいいのでは、という合意のもと。だから私にとっては、その足跡を再び辿る旅でもある。
 12年前と今と、同じ人間ではあるけれど環境や状況が全く違う。単純に前回は一人旅、今回は二人旅。
 何が違って、何が同じなのか。どう感じるのか。それはたぶん自分を知る、という娯楽みたいなもので、なかなか楽しい。

 まだこの旅行が決まる前、ツレにはよくイタリアで美味しかった食べ物の話をよくしていた。どこどこで食べたなんとかがめちゃくちゃ美味しくて、いつか食べに行きたいね、なんて。
 そのうちのふたつが、ここローマにあるのだ。
 カルボナーラとティラミス。どちらもローマが発祥だという。
 日本でもカルボナーラなんてそんなに食べたことはなくて、というか大学生の頃なんて母がよく作ってくれていたミートソース以外、パスタの種類で食べたことのあるものはたまのイタリアンで食べるトマト系のソースのみだった。ティラミスは、ほとんど食べたことなかったんじゃないかなあ。
 しかしなんでも「○○の発祥」といったものであれば食べないわけにはいかないでしょう。

 カルボナーラは当時、検索を重ねて「地球の歩き方」にも載っていない美味しいと噂のとあるお店をネットで探し当てた。
 ダ エンツォ というトラットリアで、大衆食堂然とした佇まいだった。飾り気のない店内にテーブルはクロスが敷いてあるだけ。お客さんもそんなに多くはなくて、予約等何もせずに訪れたらガラガラで普通に着席できたのを覚えている。出てきたカルボナーラは日本で一般的なクリームが使われた白いソースではなく、薄い黄色で驚いた。そしてカルボナーラ経験の乏しい自分でも、はっきりここのは違う!美味しい!と興奮した。
 あれから今まで、私もそれなりにカルボナーラを日本で食べてきて、改めての再訪となる。

12年前、ダ エンツォ のカルボナーラ

 旅には予期せぬアクシデントがつきもの。お店が臨時休業していたなんていうのはザラなので、それに備えて後日再訪できるように行きたいところにはまず真っ先に行く。
 宿に着いて一息ついたらすぐここに向かった。到着が夕方で行動するにしては遅く、なおかつアパートも中心地からだいぶ離れたところにあったので、帰りが夜になるのは覚悟しなければならない。それでも必ず食べたいと「目的」にしていた数少ないお店だったので、歩いて向かった。
 新しい街は切符の仕組みや買える場所等が微妙に違ったりするので、気軽にバスには乗れない。行きは切符を持っておらず、買える場所も近くになかったので、お店に歩いて行きがてらTABACCHI(タバッキ。KIOSK、小さいコンビニのようなもの。バールを兼ねていることもある)で地下鉄やバスの共通乗車券を帰り分と翌日以降分も含めて計6枚購入する。クレジットが使えなかったな。ネットの情報でバールでも買えると書いてあったが2軒行ってどちらも置いておらず、TABACCHIでもどこでもバラ売りを置いてあるというわけではなかった。バスの車内でも買えるバスと買えないバスがあるというから不便だ。

 歩きながら、やっぱりイタリアは南に向かうにつれて少し治安が悪くなってきているのを実感する。私は以前行ったナポリでその雰囲気を肌で知っているから余計にそう感じるのかもしれないけれど、ミラノ、ヴェネツィア、フィレンツェ、ローマときて、改めてローマが一番道が暗いとか、道の綺麗さ(=汚さ)とか、浮浪者や貧富の差とか、なんとなくそう感じる。

なんとなく暗め

 ようやくトラステヴェレ地区、トラットリア ダ エンツォに到着すると、開店準備をするお店に数人のお客さんらしき人が何かを尋ねている。
 私たちも「開店は19時だよね?」と聞くと「そうだよ」と返事があり、お店の向かいの道に並び始めた数人に「これは開店待ちの列?」と聞くと「そうよ」ととのことで、先頭集団の並びに加われたようだ。まだ開店30分前のこと。

せっせと開店準備中

 19時間近になると後ろに20~30人は並んでいる。こんなに行列店だったのか。
 開店と同時にスタッフがあんたたちはこっち、あんたらはこっち、という感じで豪快にテンポよくお客さんをテーブルに配置していく。順番に注文を取っていく。私たちは前菜なし、パスタをカルボナーラとカチョエペぺ(こちらもローマ発祥らしい)、そして白ワインを1/4Lでオーダー。
 前菜を頼まなかったので、他のテーブルに続々と前菜が運ばれていく一方で私たちのテーブルは白ワインしかない。なるほど、まずは一斉に全テーブルの前菜から出していくパターンだったか。前菜も頼めばよかったな。確かにその方が開店時の満席で一斉にくるオーダーに応えていくには効率的だ。
 しばらく待って、パスタ二皿が到着した。一口食べて、これだこれ!と興奮が蘇る美味しさだった。特にグアンチャーレの存在感とふんだんにかかった黒胡椒が印象的で。太い輪っかパスタのリガトーニいいなあ、イタリアのパスタ!という感じ。ツレもその美味しさに大満足のご様子。よかったよかった。

カルボナーラ。お皿がロゴ入りのオリジナルになっていた。

 帰りはなんとかバスに乗り込みアパート近くまで。バスは車内アナウンスもろくに聞こえないし今どこにいるのかも全然わからないから、google mapのGPS機能がなければ怖くて乗れない。その都度運転手や乗客に行き先を確認したり無事に着くのかやきもきしながら乗るのは大変だ。スマホに盛大な感謝を。

 ローマ発祥のもう一つの目当てグルメはティラミス。
 こちらも以前私がローマで食べて、美味しくて感激した一品。
 今回、ローマ含めて8つのティラミスを食べられたけれど、やっぱりここPOMPI(ポンピ)のが一番好きでした。フィレンツェにも支店はあったけれど、ちゃんと過去に食べたところで、テイクアウトではなくイートインで食べたい、となると少し中心地から離れたポンピ本店に向かうことになる。
 地下鉄で向かってお店まで着くと、内装がなんだか青い光でテクノっぽくなっていて少し戸惑う。しかし記憶を辿ると、謎に青い光がそのティラミスを食べた店内の端にちらつくので、きっと間違いないんだと思う。大きく改装をしたのだろう。今はローマ市内だけで3~4店も支店があるようなので、だいぶ勢力を拡大させているようだ。昔も支店があったのかは知らないけれど、12年も経てばいろいろ変わる。
 このポンピのティラミス、特徴はクリームが濃厚なことと、砕いたチョコレートが振り掛けられていることだろうか。
 私がいま珈琲 綴で提供しているティラミスの濃厚さは、やはりここが原点のようだ。日本でスタンダードなふわふわ、ではなく、とろとろ、の質感と重さ。変わらない美味しさ。

POMPIのティラミス。濃厚。

 バチカン市国には前回、クリスマス頃に行った。人だかりがすごかったことと、建物自体がとにかく大きかったことを覚えている。その中心にあるサンピエトロ大聖堂は無料で入れるけれど、連日長蛇の列で入るためにはその列に並ぶ覚悟をしなければならない。
 しかし今回は2月というオフシーズンだったことと、宿が歩いて10分程度のバチカンエリアだったことが奏功した。連日バチカン市国を横切りながら他の場所へ移動していたのが、なんかシュールで面白かった。あまりに連日通るので「今日のバチカン」と無駄な写真を何枚か撮っていた。

初日の夕焼け
2日目の昼頃。行列が見える。


 とある日の朝、その「今日のバチカン」をいつも通り撮ろうとしたらデジカメにメモリーカードが入っていないことに気付き絶望した。今日はスマホで撮るか、と気を取り直したが、たまたまその日の帰り道18時過ぎ、意図したわけではないけれどバチカンを横切って帰れそうだったので、もし偶然待ちの行列がなかったら入っちゃおうか、なんて話していたら、全く列になっていなくてサクッと入れてしまった。
 デジカメで撮れないのが本当に残念なほどにまさに規格外の大きさ、それに反比例して細かな造りの建築と、荘厳さだった。倫理の授業できっとたくさん目にしたであろう絵画の多いこと。床から壁、天井まで、全てに威厳と慈愛が満ちていた。

 ローマには4泊して、だいぶマイペースに回ってちょうどよかったくらいの日数だった。アパートでゆっくり書き物や自炊の時間も取れたし。
 次はナポリ。カルボナーラやティラミス同様、目当てグルメのある街。

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